119:仲間は多い方がいいのかもしれません




 生徒会補佐に仁王頭がなる。

 俺は驚きとともに、どこかで納得していた。

 仁王頭もどちらのランキングにも入っていたのだから、辞退をしない限りは生徒会役員に入ることになる。


 辞退しているかと思っていたけど、俺は仁王頭の性格を忘れていた。

 誰よりも真面目で責任感があって、そして頑固だ。

 そんな仁王頭が、生徒会役員になることを辞退するだろうか。答えは否だ。


 だから驚くべきことでは無いのだけど、それでも原作と違うという点で、俺は混乱していた。

 俺の知っている限りでは、生徒会補佐は転入生になるはずだった。

 それまでは空席のはずだったのに。


 でも仁王頭がいてくれるのであれば、こんなに心強いことは無い。


 戸惑いながらも壇上に上がった仁王頭は、椅子に行く前に俺を見て静かに笑った。

 さすがに声が届く範囲じゃなかったので、口パクで伝える。


『これから、よろしくな』


 ちゃんと伝わったのかどうか分からなかったけど、軽く頷いたから良いとしよう。



『……それでは任命式を行います』



 壇上に神楽坂さんが上がってきて、そしてマイクを手に持ち、俺達の顔をそれぞれ見た。



「今回は今までに無い形で生徒会役員を決めましたが、皆さんの目に狂いはないと私は感じます。ランキングは、おそらく単純な容姿だけで選んだわけでは無いでしょう。ここにいる7人は、皆さんのよりよい学園生活のために、努力をしてくれるはずです」



 優しく微笑む神楽坂さんの言葉は、俺達の励ましとなっていく。

 そして生徒達の視線もその表情も、守りたいと思わせるものだった。


 俺はこれから、ここにいる人達が楽しい学園生活を送るために、たくさんのことをしていく。

 時には犠牲にすることもあるだろう。

 でもそれでもいいと思うぐらい、俺はこの学園が好きだ。


 俺はみんなの顔を見た。

 その表情は、責任感に満ち溢れている。


 この7人で、これからの学園を支えていく。

 みんなと一緒なら、何でも出来る気がした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 任命式が終わり、俺達はそのまま生徒会室へと移動した。

 これからどういったことを行うのかを、前の生徒会役員から引き継ぐためである。


 でも今回は色々なことがごちゃごちゃに重なったせいで、教えてくれるのは雅楽代元会長と四斗辺風紀委員長だ。

 でも知らない人よりはいいから、どんなに性格が悪くても、文句は言わない。

 ここで言う性格が悪いのは、決して四斗辺風紀委員長のことではない。


 仕事だけは出来るから、先生としては優秀だった。


「あはは。まさか本当に生徒会長になるなんてね。本当面白い」


「うぜえ」


「酷いな。ちゃんと君が生徒会会長になれるように、どちらのランキングでも投票しておいたのに」


「……全部お前のせいか」


「そんなわけないでしょ。あっちのランキングでも1位だったのは、帝君が魅力的だったからだよ。ぷふふ」


「完全に笑っているじゃねえか」


 でも本当に、性格が悪い。

 そんな雅楽代元会長に、あのランキングでどちらも1位をとったことなんて、からかいの対象でしか無かった。


 この人だけには知られたくなかったけど、それも無理な話だ。

 笑っているのはムカつくが、俺だってただ黙っているだけじゃない。


「……あんたも9位に入っていたってことは、そういう目で見られているんじゃねえか」


 俺だってあのランキングは見ているのだ。

 雅楽代元会長の名前も、どちらのランキングにも入っていたことなんて確認済みである。


 ……まあここにいる大半が、そうなのだけど。

 でも今はそれは問題じゃない。


 雅楽代元会長も、そういう目で見られているということが重要なのだ。



 俺は鬼の首を取ったかのように、鼻で笑った。



 それを後悔したのは、3秒後である。




「あははは。面白いことを言うねえ、帝君」


 顔は笑っているが、その目は完全に冷えていた。

 さらには手に持っていたバインダーを、バキバキという音を立てながら、握力だけで砕いている。


「お、おい」


「全く、誰が投票したんだろうねえ。名前とかをバレないようにしているらしいけど、調べようと思えば、そんなの簡単だからなあ。どうにかしようか」


 この人が本気を出せば、なんでも出来てしまう。

 さすがに学園で退学者が多く出るのは回避したいので、俺は話をそらすことにした。

 もう絶対に、この話題は出さない。

 そう決意を固くして、俺は話を聞いてもらうために大きな声を出した。


「そ、そういえば、最初の仕事は新入生歓迎会なんだよな。去年は立食パーティーをしたけど、今年はどうする?」


 キレた雅楽代元会長が落ち着いてくれれば、もうどんな話でも良かった。

 言ってからこんなので誤魔化されてくれるかと思ったけど、意外にぱっと雰囲気が変わる。


「それは自分達で決めなよ? これが生徒会の初めての仕事なんだから、同じことをしたら程度が知られるよ。きちんと計画して、実行して、成功させる。新入生歓迎会が上手くいったら、その後も上手くいくから腕試しってものだね」


 すぐにいつもの表情に戻った雅楽代元会長は、砕けたバインダーをゴミ箱とに捨てて、何事も無かったかのように話し出す。


「こっわー」


 圭の感想はごもっともで、俺はもう絶対に余計なことは言わないと心に誓った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る