99:1週間、よろしくお願いします




「……というわけで、1週間、俺の身の回りの世話をする御手洗だ。まあ、知っているか」


「帝お坊ちゃまがお世話になっております。1週間よろしくお願いいたします」


 学園の許可は得ているので、次の日俺は御手洗を連れて学校に来た。

 御手洗も美形の部類に入るせいで、来る途中、生徒の目が煩わしいほど注目していた。


 自慢の執事だけど、視線にさらされるのは我慢ならなくて、俺様演技でけちらせば俺にだけ聴こえるぐらいの音量で笑われてしまった。

 どうやら俺様演技は、御手洗にとってツボに入るらしい。

 俺だって好きでやっているわけがないから、本当に恥ずかしかった。


 誰も見ていなければ、きっと叫びながらその場から立ち去っていただろう。

 さすがに生徒のいる中で、俺様生徒会長のイメージを崩すことは出来なかったけど。



 こうして恥ずかしい気持ちになりつつ、何とか無事に登校し、俺は桐生院先生に御手洗を紹介した。


「おう、話は聞いている。久しぶりだな、彰」


「私は会いたくありませんでしたがね。まだ帝お坊ちゃまの担任をしているんですか。ショタコン、仕事しなさい」


「はは、何も聞こえないなあ。羨ましいからって、俺にあたるなよ」


 俺よりも知り合い歴が長いからか、2人の間には気安い空気が流れている。

 その関係性が羨ましいと思ってしまって、俺は慌てて頭を振った。


「いかがなさいましたか?」


「いや、何でもない。気にするな」


「ふーん、妬けるねえ」


 御手洗が心配そうに尋ねてきたから、なんでもないと首を振れば、その様子を見ていた桐生院先生が面白くなさげに言ってくる。


「何がだ?」


「頭でもおかしくなりましたか?」


「うわ。気づいていないのかよ。それなら、わざわざ教えるか。俺は優しくないからな」


 そのままそっぽを向いてしまい、早く教室に行けと、手を振って追い出してくる始末。

 仕方ないから御手洗と一緒に、納得出来ずに教室から出た。


「ショタコンだから、おかしくなったのか?」


「おそらくそうでしょう」


 おかしなことを言っていたのは、ショタコンだからと決めつけて、俺達は教室に向かう。



 廊下を歩いている最中も、御手洗に対する熱い視線は送られていて、人によっては御手洗を転入生と勘違いしていた。


「さすがに生徒をするにはキツイだろう」


「お坊ちゃまが望むのであれば、やぶさかではございませんよ」


「止めてくれ。俺様演技が続けられなくなる」


 制服も似合わないわけじゃないけど、たぶん年齢的に浮いてしまう。

 御手洗に似合うのは、スーツとか大人っぽいもののはずだ。


 その姿を想像していれば、現実でも見たくなった。

 今度、オーダーメイドでスーツを仕立てて着てもらおう。


 頭の中で計画を立て、当人である御手洗には何も言わないでおいた。

 言ったら絶対に止められて、見ることが不可能になってしまう。


「御手洗が学生になったら、頼りすぎて何も出来なくなるかもしれないな。そんなふぬけが、生徒会長になれるわけがない」


「確かに、私がいたらお坊ちゃまは何も出来なくなりそうですね。学生になるのは我慢しておきます。今回来られただけでも、ありがたいことですからね」


「そうだな。本当なら、ここに御手洗がいるなんてありえないことだ。あまり、わがままを言うのもよくないな。それよりも、1週間を大事にするか」


 1週間は長いようで、あっという間に過ぎる。

 そのあとは、長期休みにならないと会うことは出来ない。

 そう考えてしまうと寂しくなるから、楽しいことを考えていた方が絶対に良い。


「授業中とかはどうするんだ? もしかして、一緒に受けるのか?」


「さすがに私がいたら邪魔でしょうから、学園のお手伝いをさせていただきます。それがここに滞在するための条件ですので」


「そうか。気をつけろよ。風紀が良くなってきたとはいっても、馬鹿なことを考える奴はまだいる。御手洗は、そういう奴らからしたら格好の餌食だ」


「ご心配いただきありがとうございます。ですが私も一之宮家の使用人ですから、自分の身ぐらいは自分で守れますよ」


「まあ、俺も勝てなかったからな。そこら辺は大丈夫か」


 御手洗は、俺の先生だった。

 武術全般に秀でていて、誰よりも強い。


「でも、誘惑されたりしたらどうだ? ここの学園には、女に間違うような容姿の生徒がうじゃうじゃいる。御手洗はそういう意味で狙われる可能性もあるな」


 でも狙われるのにも、様々な種類がある。

 もしかしたら、御手洗はそっちの方で狙われる方が多いかもしれない。


「どんなに可愛くても、手を出すのは駄目だからな」


 ありえないとは思うけど、そういう可愛い子に迫られて、ついクラっと来たりはしないだろうか。

 そんな心配が胸をよぎってしまって、俺は口をとがらせて忠告する。


「大丈夫ですよ。今はお坊ちゃまだけで手一杯ですから」


「何だそれ。まるで俺が、何も出来ない子供みたいに言いやがって」


「……そういうところですよ。お坊ちゃま」


「そういうところって、どういうところだよ」


 俺の問いには答えてくれず、御手洗は静かにしろとばかりに口元に人差し指を当てた。

 その姿があまりにも様になりすぎて、少しだけ胸が騒いだのは、俺だけの秘密である。




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