94:久しぶりの弟との再会です
放課後、弟が学園を訪ねてくる。
その情報は、俺の気分を暗くさせた。
弟が来ること自体は、嬉しさの方が強い。
でも絶賛反抗期だから、来たとしても心配するよりも、面倒だとか馬鹿にしてくるのではないか。
それに成長して俺と同じぐらい美形になっている弟を、この学園の生徒が放っておくわけがない。
混乱する様子が簡単に目に浮かび、俺は頭が痛くなった。
「……そんなに、弟が来るのが、嫌なのか?」
隣の席でうなっていてうるさかったのか、仁王頭が静かに聞いてくる。
「嫌じゃない。でも何のために来るのか。それが分からないから不気味なんだよ」
「……心配だから来るんじゃないのか? 家族なんだろう?」
「絶賛反抗期だけどな。だから、わざわざ来る意味が分からない」
「……俺は心配しているだけだと思うけどな」
「そんなんじゃないんだよ。仁王頭も見れば納得するはずだ」
俺を心配してくるわけがない。
この学園に来てからは、メールをしても電話をしても出てくれなくなった。
だから最近、会話をした覚えが無い。
それなのに学園にわざわざ来てまで、俺の無事を確認してくれるだろうか。
期待して駄目だった時に精神的に辛くなるから、そういうのは考えないようにしていた。
「……そうか」
俺の考えが変わらないのを察したようで、それ以上仁王頭は何も言わなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
放課後、学園の門のところで、俺は弟が来るのを待っていた。
学園で待っていても良かったけど、そこに来るまでに生徒に絡まれたら俺が許せなくなる。
出来るかぎり、弟の姿を見せたくない。
独占欲なのか判断が付かないところだが、完全に俺のわがままだった。
門に寄りかかりながら、俺はそっと空を見る。
俺の気持ちとは裏腹に、空は雲一つなく、日差しがとても暖かかった。
こういう日は思い切り遊んで、芝生の上で気が済むまで眠りたい。
弟と、昔はよくそうしていたな。
「……おい」
懐かしい気持ちなりながら、ぼーっとしていれば話しかけられる。
「久しぶり。正嗣」
「久しぶり……」
弟の声だというのはすぐに分かったから、俺はそちらに笑顔を向ける。
でも返ってきたのは、しかめっ面だけだった。
通常運転なので慣れたけど、最初は本当に傷ついたのを弟は知っているだろうか。きっと知らない。
「ここまで来るの大変だっただろう。電車もバスも少ないし」
「タクシーできたから別に」
「そうか。それなら安心だな。少し遅くなっても大丈夫だろう」
「……そんなにいるつもりはない」
「まあ、とりあえず入って」
弟には、俺様キャラで接していない。
入学するまでは隠しておこうと考えている。
だから俺のこんな姿を見せたくないのもあって、他の生徒のいないところで話がしたかった。
「俺の部屋でいいよな」
「どこでもいい」
「ちょっと細い道を通るから、はぐれないようにな」
「子供じゃないから、迷子になるわけがないだろ」
「そうだよね。ごめん」
後ろについてくる気配を感じながら、俺は部屋に進むために歩き出す。
ここから誰にも会わないで部屋に帰る道は、すでに頭の中に入っている。
弟が来ることは話題になっていたので、見に来たいとそわそわしている生徒はたくさんいたけど、それはすでに対策済みだ。
放課後、俺についてきた生徒はどうなるか分かっているよな。
放送でそう言えば、聞き分けのいい生徒なので誰もついてこなかった。
襲われて返り討ちした話も広まっているから、俺に対して思うことのある不良の生徒も今日は大人しくしているはずだ。
そういうわけで、今日はゆっくりと弟との時間を楽しめる。
弟はどう思っているのかは分からないけど。
こうして誰にも邪魔されることなく、部屋に着いた俺は、後ろからきちんとついてきていた弟を招き入れる。
「……一人部屋」
「ああ、そう。本当は生徒会とか風紀委員とかだけなんだけどね。まあ、特例ってやつ」
「一之宮家様様だな」
馬鹿にしたように鼻で笑った弟は、リビングにあるソファに座った。
「……ん」
そして何故か腕を広げた。
「ん?」
「……ん!」
何をしているのだろうと眺めていれば、不服と言った感じで、さらに大きく腕を広げた。
そのポーズに一つの可能性が浮かんだけど、それはさすがにありえないと心の中で笑った。
今考えたことをする関係だったら、こんなにもこじれていない。
でもそれ以外どうしたらいいか分からず、俺は弟に近づいて、その腕の中に入り込んだ。
こういう時は普通、抱きしめられるものだよな。
何年ぶりかの弟の体温と匂いに、俺は自然と体の力が抜ける。
こうしたかったわけじゃないと、怒られてもいい。
今はただ、弟の存在を感じていたかった。
「……大丈夫?」
振り払われることなく、俺の頭は優しく撫でられる。
それは殴られた後頭部のところで、聞いているのは傷の具合なのだということを察した。
「大したことないから、大丈夫。連絡があっただろう」
まさか本当に心配してくれていたとは。
俺は嬉しくなり、顔を緩ませてさらに抱きつく。
弟の前で膝をついているので、胸の辺りに顔が来る。
少しはやい気はするけど、一定のリズムで鳴る心臓の音に、俺は安心感を得ながら目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます