91:仲良くするのは必要です、でも嫌だと思う人もいます
「帝様! おはようございます!」
「おう、今日も授業頑張れよ」
「はい! ありがとうございます!」
帝様と挨拶しちゃった!
そう言って友達の元を走っていく親衛隊の後ろ姿を見ながら、俺は心がほっとした気持ちになる。
こうして挨拶を交わしても、彼が制裁されることは無い。
少し前までは、制裁が怖くて俺に話しかけて来る人は限られていた。
でも最近は、今まで見ているだけだった人達が声をかけてくるようになった。
その変化は、この学園にとっていいものだろう。
俺の親衛隊だけではなく、他の生徒にもこの空気は伝わっている。
それは、教師や風紀のおかげでもあった。
みんなが協力して、良い学園を作ろうとしている。
でも、それをよく思っていない人も一定数いるのは確かだった。
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「一之宮様。少し身の回りに気をつけてください」
何度目か分からないお茶会の時、七々扇さんがふと忠告してきた。
「不穏な動きでもあるのか」
「ええ。まだ、はっきりとはしていませんが。何か企んでいる方々がいるようです。全く、馬鹿なことを考える人もいるものですね」
「全くだ。どうして平和に抗おうとするんだろうな。スリルがないと生きていけないのか」
「考えが足りないのですよ。この平和な学園生活が、どれだけの人の協力の中で成り立っているのか全く分かっていない。ただ退屈だと喚いて、自分の力で努力しようともしない。そのくせ、悪知恵だけは働く」
眉間にしわを寄せ文句を言っている姿は、美形であるおかげで凛としている。
それよりも大事なのは、その不穏な動きをしている人達をどうするかだ。
まだ誰なのかも、何をする気なのかも不明。
警戒は強めてもらうが、いつまで続ければいいのかも分からない。
「さっさと、しっぽを出してくれれば楽なんだけどな」
「さすがにそこまで愚かではないでしょう。吹っ切れた人間は何をするのか分からない恐ろしさがありますので、十分注意してください」
「もしそういう奴らが狙うとしたら、絶対に俺だろうからな。分かっている。ちゃんと気をつける」
「私達も出来る限り、一之宮様についていますが……完璧には難しいので。一之宮様も、ここしばらくは1人にならないようにしてください」
「大丈夫だって」
いまいち信じていない七々扇さんに、心配しすぎたと、その時は笑い飛ばした。
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「……それでこんな状況になっているんだからな。笑えない」
空き教室に縛られたまま放置されている状況に、自嘲気味に笑った。
さかのぼること30分前。
何者かに後ろから殴られ意識を失った俺は、気がつけばここに転がっていた。
空き教室ではあるが、時計はあるため30分経ったのだと分かったけど、それ以外の情報は全く無い。
殴られた頭は痛いし、きつく縛られた手首と足首も痛い。
「……こういう時に放置するのは、おかしくないか?」
俺は犯人のずさんな計画に、別の意味でも頭が痛くなって、大きく息を吐いた。
普通は見張りの1人ぐらいつけているはずだろう。
というか放置していて、もしも打ちどころが悪く死んだら、どうするつもりなのか。
絶対に責任をとれないだろう。
そういういかなる状況も予測して行動しなければ、最悪な展開になった時に対処出来ない。
そこまで考える脳みそがないようなので、捕まった身としては残念である。
ここから何が行われるのか、嫌な予感しかしない。そして、その予感は当たりそうだ。
言い争いをしているような声が廊下から聞こえてきて、それはこちらへと近づいてきていた。
頭の悪そうな声に、俺はとりあえず出迎えるため、全身を使って起き上がる。
「だから、とりあえず殴って言い聞かせればいいだろ! ……って、なんで起きてんだ!?」
「よお」
「ひいっ!?」
勢いよく開けられた扉の先にいた2人組に、俺は挨拶をする。
まさか起きているとは思わなかったようで、驚かれてしまった。
そういう可能性だってあるのだから、驚かれてもこちらの方が困る。
「もしかしなくても、俺をこうしたのはお前達だよな。何が目的だ?」
「ひ。あ、あんたが悪いんだ! 親衛隊を腑抜けにしやがって! おかげで収入源が無くなったじゃないか!」
「そうだそうだ! 偽善者が!」
なるほど、こいつらは親衛隊の制裁の時に、暴力を担当していたのか。
大体の親衛隊はひ弱な人が多いから、暴力とは無縁の環境で育っている。
だから制裁で暴力に訴える時は、人を雇ってさせることが多かった。
その見返りとして金銭だったり、体を売っていたりしていたのだろう。
それでいい思いをしていたが、俺が親衛隊を改革したせいで、制裁の件数が大幅に減ってしまった。
そうして金銭不足になり、俺に恨みを抱いたというオチか。
あまり収穫になったとは思えないが、こういう人もいるのが分かったから、よしとしよう。
そう思わなければ、わざわざ殴られて連れてこられた意味が無くなってしまう。
「あー、まあ、とりあえず俺を殴ったんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」
「はっ。縛られた状態で、どうしようもないだろ」
「大人しくサンドバッグになって、俺達を損させた分をまかなえ!」
もう少し人数がいるかと予想していたけど、2人ならばそう時間も掛からない。
俺は自分達が有利だと、そう自信を持って叫んでいる2人に笑いかけた。
「……覚悟は出来ているみたいだな」
そして、手首と足首を縛っていたロープを脇に投げて、ゆっくりと立ち上がった。
「さあ、おしおきの時間だ」
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