89:前世の知識は、やはり使えるんです




 大丈夫だとは思っていたけど、まさかここまで上手くいくとは。

 俺は感慨深い気持ちになりながら、親衛隊の会合の様子を眺める。


「今週も一之宮様の迷惑にならないよう、秩序を守った生活を送りましょう!」


「「「「「はい!」」」」」


「よろしい。その意気です」



「……軍隊か?」


 七々扇さんの問いかけに、敬礼とともに答える親衛隊の姿は、いつ見ても訓練された軍隊のようだ。

 いや、ここまで手なずけたのだから、もはや軍隊なのかもしれない。


 これはもう親衛隊ではなく、俺の手足となり学園生活をサポートしてくれる存在になっていた。

 今いる人達は、全員信用出来る。


 こうなるまで大変なことが何度もあったけど、必死に頑張ったおかげで、予想以上の結果がもたらされた。

 俺は、ここ最近の苦労を思い出す。





 まず真っ先に行なったのは、親衛隊を全部集めることだった。

 どのぐらいの人数で、どういった人がいるのか。

 それを把握しないことには、何も始まらない。


 そういうわけで集めることにしたのだが、集める場所を用意するのが大変だった。

 なんせ、把握しているだけで100人以上いるのだ。

 その人数を入れられる場所なんて限られている。


 俺は神楽坂さんに頼みこんで、学園の中にある体育館の一つを貸してもらうことになった。

 こうして第1関門はクリアし、次の課題に直面した。



 次の課題は、どうやって親衛隊を飼い慣らすかだった。

 俺のカリスマ性を見せつけ、そして俺の意にそぐわない行動をするのを実行出来ないようにするのだ。

 そしてその姿を、他の親衛隊にも見せつけ手本にさせる。


 でもただ単に力で締め付けるだけでは、誰もついてくるわけがない。

 恐怖政治は最初はいいかもしれないけど、段々と不満が出てくる。

 最後にはクーデターを起こされるかもしれない。


 それじゃあ、意味が無いのだ。

 俺に従いたいから、ついてくる。

 そんな関係性が理想的である。


 でも何もしないで都合よく話が進むわけもないので、俺も対価を出すしかない。

 対価、といっても、用意出来ないぐらい大変なものではなかった。


 俺が親衛隊に提示した対価は一つ。



 いいことを行えば行うほど、俺に近づける権利が手に入るというものだった。



 俺の親衛隊は数が多い。

 そのため、お互いがお互いを監視することが可能である。

 だから良いことをしていればポイントが貯まり、もしも制裁など悪いことをしたり企もうとしたらポイントを減らす制度を作った。


 ポイントを貯めれば貯めるほど、俺と接触する機会が増える。

 会話、お茶会、握手会、まるでアイドルのようだと思ったが、実際彼らにとって俺はアイドルと同じなのだ。


 この制度は、とても上手くいった。

 俺に少しでも近づきたいから、みんなポイントを貯めようと必死だ。

 お互いにいい子に頑張っている人達にはサービスを、ズルをしたり悪いことをした人達にはそれ相応の対応を。


 それを続けていれば、段々と俺の親衛隊が制裁をしたり、何か問題を起こしたりすることが無くなった。

 これには教師達や風紀委員も大喜びで、何をしたのかと尋ねてくる始末。


 一から十まで説明すれば、ぜひモデルケースにしたいと懇願された。

 断る理由はないし、むしろ風紀を良くするためにも積極的に真似して欲しいから快諾すれば、拝まれるレベルで感謝してきて少し引いてしまった。


 そういうわけで今やこの動きは、俺の親衛隊だけにとどまらず、問題視されていた生徒の親衛隊にまで広がった。

 そのかいあり、少しずつではあるが、学園の風紀は改善方向に向かっているらしい。



 途中で挫けそうになる場面もあり、何度も投げ出そうとした。

 でも諦めなかった結果が、今目の前に広がっている景色だ。


 俺に対し期待の眼差しを向けている親衛隊のみんなに、俺は感謝の気持ちを込めた言葉を送る。


「今月もいい子にしていれば、褒美をくれてやる」


 俺様キャラでごめん。

 でも歓声が沸いたので、よしとしよう。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「まさか、本当に風紀を良くするなんてね」


 雅楽代会長に呼び出され、いやいや訪れた生徒会室。

 紅茶を振る舞われ、警戒しながら口に含めば、まさかの言葉をかけられた。

 思わず吐き出しかけたものを、何とか飲み込んだ俺を、誰か褒めて欲しい。


「あ、当たり前だろ。俺をなんだと思っている。こんなの朝飯前だ。簡単すぎて、退屈だったぐらいだな」


 苦労の日々を思い出しながらも、それを素直に言えるわけもないので、特別なことはしてないと言ったような態度で返す。


「まあ、天下の帝様ならなんとかすると思っていたけど、ここまで早く、しかもいい状態まで持っていくとは。少し君を過小評価していたのかもね」


 雅楽代会長にしては素直な褒め言葉に、身体中がむず痒いし、裏がありそうで怖い。


「はっ。あんたの評価なんてどうでもいい。これで貸し借りは無しだからな」


 これはさっさと話を終わらせた方がいい。

 俺は紅茶をあおるように飲んで、そのまま引き止められる前に部屋から出ようとしたのだが、雅楽代会長の方が一枚上手だった。


「そういえば、帝君は、いつまでその面白い演技を続けるつもり?」


 だから、この人は苦手なんだ。





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