86:先手必勝、何かを言う暇は与えません




 親衛隊(仮)との話し合いを明後日にしたのには、れっきとした理由がある。

 明日でも別に都合は良かったのだけど、他に優先するべきことがあった。


「美羽に話せばいいか?」


 新たなことを始める時は、必ず報告する。

 そう言い聞かされていたから、無視をしたら後が怖い。


「全員を集めるのは、面倒だからそうしよう」


 それでも全員に話すのは面倒なので、代表して美羽にだけ伝えることに決めた。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「……は?」


 俺の説明を最初から最後まで聞いた美羽の答えは、たった1文字だった。

 よくよく見なくても分かる。

 完全に怒っていた。


 このままにしていたら、長い長い説教が始まってしまう。

 そんな気配を察知して、俺は美羽が口を開く前に、言葉を続けた。


「これは大事なことなんだ。きちんとやり遂げないと、雅楽代会長に何を言われるか分かったものじゃない」


 良くて馬鹿にされるか、最悪切り捨てられる。

 ものすごく不本意だが、あの人に興味を失われたら、生徒会長への道は閉ざされる。

 気に入られるのは嫌だけど、そこには目をつぶるしかない。


「別に危険なことはしない。ただ話をして、頼み事をするだけだ。それに俺よりも体格が小さい人ばかりだから、もしも何かがあったら力で訴えることも出来る」


 俺の親衛隊は、女の子と間違われるほど可愛い人か、七々扇さんみたいに綺麗な人ばかりだ。

 単純な力の差で考えれば、圧倒的に俺の方が有利である。

 そういった面でも、心配はない。


「帝は……全く分かっていない」


 自信満々に言ったのだが、何故か美羽の眉間にしわが寄った。

 この顔はまずい。

 俺は自分が怒らせることを言ったのを察し、何かを言われる前に、俺はさらにまくしたてた。


「ちゃんと、前に開発してもらったスタンガンも持っていく! さすがに威力は下げてもらうが。何か変な動きをしたら、すぐに取り出す」


「他には?」


「他には!? あーっと、そうだな。そうだな……誰か、ボディーガードでも連れていく」


「誰を?」


「誰を!? …………仁王頭とか?」


「何でそこで仁王頭が出てくるの!?」


 怒り出した美羽に、俺は先手必勝が失敗したのを感じた。

 勢いでうやむやにするつもりだったのだが、美羽には通用しなかったようだ。


「……知っている中で、1番腕っ節がいいから?」


「ぐっ。それはそうかもしれないけど、別に仁王頭にこだわる必要は……」


「それなら誰を連れていけばいい?」


 適任なのは仁王頭なのかと思ったのだけど、美羽が駄目だと言うのなら、他に誰がいるだろうか。

 候補を出して、その中では匠が1番かと結論を出そうとすれば、美羽が俺の方に手を置いた。


「僕がいるでしょ」


「え、美羽が?」


「僕以外、連れて行ったら駄目だから。分かった?」


「わ、分かった」


 ここで了承したのは、美羽を久しぶりに頼ろうと思ったからであって、決してビビったからでは無い。

 そこ重要である。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「そういうわけで、美羽も同席することになった」


「よろしくお願いします」


「……そうですか。よろしくお願いします」


 次の日、待ち合わせ場所に美羽も連れてきた俺を、七々扇さんは少しだけ沈黙し出迎えた。

 もしも嫌だと言われれば美羽を帰すつもりだったけど、受け入れられてしまったら同席してもらうしかない。


 本当は歓迎してなさそうだったが、色々と考えた結果、受け入れることにしたみたいだ。


「きゃあ、皇子山様!」


「無理を言って申し訳ありません。同席させてもらいますね」


「は、はい! 喜んで!」


 七々扇さん以外の美羽に対して頬を染めて出迎えた人達に、美羽も作り笑いで応対している。

 そんな風に対応するのは、なかなか珍しい。

 どちらかと言えば愛想は良い方だけど、最初から友好的に話はしない。


 もしかしたら、使えると判断したのかもしれない。

 それは俺の親衛隊という事実からか、それとも別の理由からか。


 とにかく俺は美羽のそんな姿に感動を覚えながら、用意された椅子に座る。

 テーブルの上には、紅茶とお菓子が置かれていて、俺達が来るのを待っていたのか湯気が出ていた。

 香りだけでいい茶葉を使っているのは分かるし、お菓子だっていい値段がするものと、きっと頑張って作ったのだろう手作りのものもあった。


 これだけで今日を楽しみにしていたことは通じたので、気恥ずかしく思いながらお礼を言う。


「嫌いな物とかは無かったですか? 勝手に用意をしてしまったんですけど」


「嫌いな物はない。用意してくれて、ありがとうな」


「良かったです。ぜひ、食べてください。どれも自信作なので。今、皇子山様の分も用意いたしますね」


「私は急に押しかけた身ですので、気をつかっていただかなくても結構ですよ」


 美羽は遠慮したが、それは許さないといった感じで、すぐに目の前にセットが用意される。

 その素早さに美羽も、少しだけ目を丸くしていた。


「それでは簡単なもので申し訳ありませんが、お茶会を始めましょうか?」


 そして七々扇さんの合図をきっかけに、お茶会という名の話し合いが始まった。

 このまま和やかに出来ればいいのだけど。

 とても心配である。




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