81:上手く対応出来ない人ばかりです




 美羽のケアも終わり、匠達の方の機嫌もとった。

 残るは仁王頭だけだ。

 でもそれが難しいのだと気づいたのは、仁王頭が姿を消した時である。


 教室に来ない。

 というよりも、学校にすら来ていない。


 薔薇園学園は全寮制であるから、寮に閉じこもっているということだ。

 どうしてそうなったのか、俺は心当たりがありすぎて、大きなため息を吐くしか無かった。


 あの時のやり取りで、確実に仁王頭は傷ついた。

 そして、俺と関わりを断つために、学校に来ずに引きこもっているのだろう。

 簡単に出た答え。


「……あー、行くか」


 俺は少しだけ考えると、とある人物の元へと向かった。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「入りたくねえ……」


 大きな扉を前にして、俺はノックしようとしている格好のまま固まっていた。

 この部屋の中にいる人物に頼めば、仁王頭に会える確率が高くなる。


 でも、それを獲得するまでの労力が、本気で面倒くさい。


「部屋にいなければいいのに」


「誰が?」


「……あんたがです」


 一度出直そうかと思っていたところに、後ろから声をかけられた。

 まさか部屋にいなかったとは。

 さっさと中に入って、別の人に話をすれば良かった。


 俺は後悔しながら振り向く。


「おー。珍しい。俺様何様帝様が、わざわざ生徒会室に来るなんて。一体、どういう風の吹き回し?」


「ちょっと頼み事があるんだよ。……くそ会長」


 心の底からウザイから、俺様演技でもなく俺は素直な言葉が出てきてしまう。

 それぐらい目の前にいる人物は、俺にとっては嫌いなタイプだった。


「頼み事なんてなんだろう。わざわざ俺を頼りにするなんて、よっぽど大事なことなんだね。そういえば仁王頭君は元気?」


「分かっていて聞いているんだろう。性格悪い」


「あはは。怖い怖い。それにしても俺のところに来るぐらい困っているなんて、そんなに大事なんだ。仁王頭君のこと。もしかして好きなの? ラブなの?」


 この人と話していると、頭が痛くなる。


 薔薇園学園現生徒会長、雅楽代うたしろみやびを俺は、今まで会った中で一番苦手な存在だと断言出来る。

 それぐらい、話しているだけで寒気がしてくる。


 1つ上の雅楽代会長は、簡単に言うと愉快犯だ。

 見た目は平凡な顔立ちをしているのに、考えていることは非凡。

 加えて能力が伴っているから、とても質が悪い。




 初めて会った時から、そうだった。

 仁王頭を手なずけた人間として興味を持たれ、生徒会室に呼び出された時、開口一番かけてきた言葉がこうだ。


「それで? 猛獣てなずけて、俺になんの用だったの?」


 まさか目的がバレているとは思わず、固まってしまった俺に、さらに追い打ちをかけてきた。


「もしかして、生徒会長になりたいとか?」


 完全に計画が知られている。

 パニックになった俺は、一旦冷静になるために逃げようとしたのだが、それも読まれていた。


「いいよいいよ面白い。俺は今年で辞めるつもりだから、次は君が生徒会長になればいいよ。それが目的なんだから」


 俺が口を開く前に、愉快でたまらないと言った顔で、爆弾発言をしてきたかと思ったら、ただしと付け加えてくる。


「次の生徒会長は面白い形で決めようと思っているんだよね。ただ指名したり、選挙するのはつまらないでしょ」


 その表情と言葉に、嫌な予感がする。

 俺はこの学園に来て、不思議に思っていたことがあった。


「どうやって決めようか。……そうだなあ。とあるランキングを作って、それから選ぶのってどう?」


 今、この学園では抱きたい・抱かれたいランキングという狂った制度が無かった。

 さすがに無いか、と特に気にも止めなかったのだけど。


「例えば、抱きたい・抱かれたいランキングとか面白いよね」


 まさかそんな狂った制度が作られようとする瞬間を、目の当たりにするとは予想もしていなかった。


「俺が先生には言っておくから、せいぜい頑張って。君が生徒会長になるのを楽しみにしているよ」


 最悪の人と関わってしまった。

 たった数分会話しただけで、俺の中で雅楽代会長に対する苦手意識が芽生えた瞬間だった。





 それから、こういったことが何度かあり、俺は学園の中で1番苦手に思うようになった。


 来年の生徒会役員は、彼が言った通りランキングから選ばれることに、いつの間にか決まっていた。

 そんな改革、普通だったら時間がかかるはずなのに、1週間もかからなかったのは、それだけの力があるからだろう。


 雅楽代家自体、底の知れない家柄だ。

 俺の記憶が確かなら、陰陽師の末裔で政界に顔が聞くらしい。

 その次男坊であっても、雅楽代であることには変わらないということか。



 何を考えているのか分からない面倒なタイプ、それでもこの人は物語には出てこなかった。

 1番の理由は、物語が始まる時点で、卒業しているからだ。


 だからこそ、どう言った人なのか分からず、対応が難しい。


「ほらほらー。俺にどうして欲しいのか言ってみなよ。1人じゃ、どうしようも出来ないんだもんね」


 今も俺をあおりながら、どう動くのかを待っている。


 どうして物語に出てこないキャラに限って、キャラが濃くて面倒なタイプが多いのだろう。

 御手洗のことを思い出し、胸が痛くなるのに気付かないふりをして、俺は雅楽代会長を見すえた。





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