79:口下手なだけなのです




 仁王頭が仲間になった。


 かと思われたのだが、現在は少し複雑な感じになっている。

 仲良くはなれた。

 なれたのだが美羽達との関係性が、微妙な感じなのだ。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 仁王頭に助けられた次の日、俺はすぐに美羽達に紹介した。


「仁王頭、これから一緒にいるから」


 俺様キャラは継続中だから、簡単な紹介しか出来なかったのだが、受け入れてくれる思った。

 でもお互いに見つめ合い、1番初めに口を開いた仁王頭の言葉は、俺の想像とは全く違った。


「……俺は、別に……」


 視線をずらして、眉間にしわを寄せている姿は、完全に拒絶の姿勢である。

 そう感じたのは俺だけじゃないようで、にわかに美羽達の雰囲気が冷たいものに変わった。

 元々の好感度が低いから、少しの行動にも敏感になっていたせいだ。


「随分な態度ですね。私達の方だって、一緒にいるつもりはありませんから」


「ちょ、美羽?」


「俺もだ。何でこんな得体の知れねえ奴と、一緒にいなきゃいけないんだよ」


「匠?」


「僕ははんたーい」


「朝陽?」


「僕もはんたーい。やだー」


「夕陽?」


「嫌なら、わざわざ一緒にいる必要、無いよね」


「圭まで……」


 完全に敵認定してしまったのか、仁王頭を睨んで、そして口々に拒否の言葉を投げかける。

 何とか止めようとしたのだが、俺には到底無理だった。

 雰囲気が怖い。

 お互いの間に、火花が散っているのが見えた。


 まさかの展開に、俺は責め立てられた仁王頭の顔を窺う。


 無表情に立っているかのように見えるけど、その顔は悲しそうだ。

 俺にだけ分かるその変化に、手を伸ばそうとした。

 でもその前に、仁王頭が動く。


「……そうか」


 そして俺を見ることなく、立ち去ってしまった。


「仁王頭!」


 声をかけたのだが、こちらを振り向いてはくれなかった。


「美羽! 匠! 朝陽! 夕陽! 圭! なんであんなこと言ったんだ!」


 追いかけようかと思ったけど、今は先に解決しておくべき問題がある。

 俺は5人に顔を向けて怒鳴る。


「私は間違ったことを言っていませんよ」


「そうだ。あいつの態度が悪い」


「なーんか、すかしているよね」


「本当ー。なんか嫌な感じー」


「俺、あいつ嫌いだよ」


 でも俺の怒鳴りをものともせず、口をとがらせて訴えてくる。

 子供のような態度に、呆れすぎて怒りがひっこんでしまった。


「あのな、仲良しこよしをしろとは言ってねえ。でも、排除するんじゃねえよ」


 額を押さえて言うが、まだ納得いっていないようだ。


「でも、あの態度はないでしょう。拒絶したのは、あちらが先ですよ」


 特に美羽はそりが合わないのか、一番頑なである。

 拗ねている様子に、俺は面倒なことになると、胃が痛くなりそうな気持ちになった。


「確かに態度は悪かったかもしれねえが、だからってやり返すのは子供がすることだ」


 もっと大人の対応をしてくれ。

 そんな気持ちを込めれば、聞かないとばかりに顔をそむけられた。


「私は、あの男が嫌いです」


 へそを曲げてしまった美羽は、殻にとじこもるように、俺の声をシャットアウトした。


「……もういいです」


 そしてちらりと俺を見て、でも何も言わずに、どこかへと行ってしまった。


「嫌いって、子供じゃないんだから……」


 取り残された俺は、どうすればよかったのかと頭を抱えた。


「帝の言いたいことも分かるし、美羽の思っていることも分かるからな。俺としては、どっちの味方も出来ねえ。あいつだって、色々と考えているんだ。でも仁王頭が気に入らないのは一緒だ」


 そんな俺の肩に手を置いて、美羽のフォローなのか、それともぐちゃぐちゃにしたいのか、判断しづらいことを匠が言ってくる。


 色々と考えている。

 美羽は一体、何を考えていたのだろう。


「みーみーは拗ねているんだよねー」


「そうそう。みかみかに構ってもらえなかったからー」


「構ってもらえなかったって、そんなことで拗ねるか? あのプライドの塊みたいなやつが?」


「みーみーはプライドも高いけどー」


「いちばーん、繊細なんだよー」


 朝陽と夕陽の言葉は、いつもの言動があるから、あまり信じられない。

 でもみんな頷いているから、嘘をついているわけじゃないのだろう。


 繊細か。

 美羽には、もっとも似合わない言葉のように感じた。


 前までの美羽だったら、そういう言葉も当てはまっていたかもしれないけど、最近はとてもしたたかになっていたように見えたのだけど。


 もしかして、俺の前では強がっていたのかもしれない。


「最近、美羽君元気無かった……」


 圭からの情報も、俺にとっては初耳だった。

 こんなところで、クラスを別にした影響が出てくるなんて。

 元気が無いのに、全く気がついていなかった。


 俺は今まで、美羽の何を見ていたのだろう。


「……追いかけてくる!」


 拗ねていたように見えた美羽が、1人傷ついている想像をしてしまい、俺は耐えきれずに美羽を探しに行くことにした。


「おー、あいつ機嫌損ねると面倒だから、よろしくなー」


 突然の行動だけど予想していたのか、匠の励ます声が背中にかけられた。

 俺はそれに手を上げて答え、振り向くことなく走り出した。




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