75:みんな強くなりました
現在、俺は自主的に正座している。
目の前に立つ美羽は、モブ生徒から女神と称される笑みを浮かべて、俺を見下ろしていた。
そしてその目は、まったくもって笑っていない。
たまにこの顔を見るけど、勝てた試しがないのは事実だ。
心のどこかで、早く謝れと言う言葉が聞こえてきた。
でも謝るということは、全てを説明するのと同じ意味では無いのか。
だから俺は正座はしているけど、今のところ何も言っていない。
それがさらに怒りを増加させているのは分かるが、俺はひかなかった。
「仁王頭、あなたはあいつがどういう男なのか、知っているんですか?」
「どうせ帝のことだから、きちんと調べていないだろう」
「「みかみかは警戒心無いからー」」
「絶対に分かっていないよね」
口々に責め立てられると、俺は頑なになってしまう。
ピッタリと口を閉じて、俺はただただ正座をする。
「全く……いいですか。仁王頭の父親は、
「鬼切組……」
言われた通り、その名前だったら聞いたことがあった。
鬼切組。
関東最大規模を誇るヤクザ。
しかし最近は、合法的に資金を集めているせいで、警察も手出し出来ていない。
今の組長の名前は、鬼切吾郎。
おそらくこの人が、仁王頭の父親なのだろう。
でも跡継ぎがいるという話は聞いていないから、存在は隠されているのか。
全く隠せていないけれど。
ここまで噂が回っているということは、そこまで完璧に隠そうとするつもりは無いらしい。
仁王頭自身がそう考えているのかは不明だけど、たぶんいずれかは跡継ぎにしようとしているはずだ。
だから、完璧には隠していない。
「分かっただろ? 仁王頭と一緒にいると、帝にとって不利になる可能性がある。ヤクザの息子と親しいなんて知られたら、いいスキャンダルになってしまうな」
「だからさー、話しかけるの止めた方がいいよー」
「そうだよー。ていうか、みかみかに話しかけてもらっているなんて、羨ましすぎるよー」
「絶対に悪い影響を与えるに決まっているよ」
俺を仁王頭から遠ざけたくて、心配しているから、ネガティブなイメージを植え付けようとするのは理解出来る。
それでも、言い過ぎな部分はあることも確かだ。
ここまで言われて黙っている理由はない。だから反論することにする。
「鬼切組か……名前は聞いたことがある。確かに裏社会に属しているな。それがどうした?」
「それがどうしたですって? 私達の話を、きちんと聞いていましたか?」
「聞いていた。でも、俺には関係ない」
「関係ないって。そんな悠長なことを言える立場ですか? そういう人間と関わりを持っているだけで、どんな噂をされるか分かったものじゃない。弱みを作るおつもりですか」
「弱みだと? はっ、何を言っているんだ。俺が仁王頭と仲良くしたって、俺の弱みになるわけがないだろう」
どうして親のことが、子供に関係しなくてはならないのか。
「この学園は、そういうのを関係なしに、付き合いを広めていく場だ。仁王頭がどんな立場だろうと、俺が仲良くしたいから仲良くする。誰に何と言われてもな」
誰にも邪魔はさせない。
俺がしたいと思ったことをするだけ。
そういう決意を込めて、みんなの顔を見れば、困った顔をしてため息を吐いた。
「あんたは、そうと決めたら頑固ですからね……全く。こうなる前に止めていれば」
頭を押さえた美羽は反省しているみたいだけど、たぶん止められたところで、仁王頭に話しかけることは決まっていたから意味は無かっただろう。
本人には、絶対に言わないけど。
「これ以上、増えるなんてお断りだぜ」
「本当だよー」
「ただでさえ多いんだからさー」
「絶対にろくなことにならない」
口々に色々言うけど、俺がすることを諦めてくれた。
5人に邪魔をされたら、難易度がハードモードになる。
それを回避出来たのは大きい。
正座から足を崩すと、長い時間座っていたせいで、すぐには回復出来ないぐらいしびれていた。
俺は体育座りをして、足のしびれをとっていると、上から影が落ちる。
恐る恐る顔を上げると、そこには5人の姿があった。
「……ひいっ」
その顔を見て俺様演技を忘れて、情けない悲鳴をあげてしまう。
「ど、どうした?」
それぐらい、みんなの雰囲気が恐ろしい。
「どうした? それはあなたが一番分かっておられるでしょう?」
俺に対して、敬語のレベルが高くなっているのは、美羽が怒っている証拠だ。
その他の4人も顔が怖い。
「仁王頭と仲良くするのは、まあ嫌だけど認める。マジで嫌だけどな。だが、許せないことはある」
「分かっているよねー? ねえ、みかみか?」
「どうして、わざわざ僕達を別々のクラスにしたのかな? 別に一緒でも良かったよね?」
「……別々のクラスになったこと、まだ許していないから」
「あ、ああ、そのこと」
仁王頭のことは許しても、クラスを別にしたことは許してくれなかったらしい。
今度はそちらのことで責められるのが決まり、俺はこめかみに汗が流れた。
そっちの方の弁解を、全く考えていなかった。
これは長くなりそうだ。
俺は現実逃避をしかけた。
が、許されるわけがなかった
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