72:今回もこんにちは、よろしく





「よっ、帝」


「……なんでいるんだ?」


 入学式の翌日、教室に入ると桐生院先生が待ち構えていた。

 薔薇園学園にいるとは思っていたけど、まさかの担任だとは。

 俺は驚きすぎて、取り繕う暇もなかった。


 もう、俺になんか興味はないと勝手に決めつけていた。

 成長期のおかげで184cmまで伸びた身長は、匠と御手洗を除いて、俺の方が大きくなった。


 御手洗は187cm、匠はなんと1cm違いの185cm。

 その1cmの差が、悔しすぎて測定の時は八つ当たりしてしまった。


 今は違うが、2年後の弟も俺より成長する可能性があるから、そこも油断出来ない。



 そういうわけで、今の俺は立派に成長し、5歳の頃の可愛さは欠片も残っていないのだ。

 だからどう考えても、ショタコンの桐生院先生の好みの範囲外。

 それに気が付かれて冷たくされるのは嫌だと、避けに避けまくっていたのに。


 なんで普通に、教室で待ち構えているのだろう。


「なーに言っているんだよ。冷てえな。小中と担任しておいて、高校で止めるわけねえだろ」


 俺の混乱は伝わったようで、首をかきながら説明をしてくれる。

 なるほど。つまりは好みの範疇からは外れたけど、今まで面倒を見てきたから義務感から高校でも担任になってくれたということか。


 テキトー人間かと思っていたけど、意外に義理堅い。

 俺は感動して、桐生院先生の手を掴んだ。


「ありがとうな。これから1年、担任としてよろしく」


「……お、おう」


 最近は板に付いてきた俺様演技をしつつも、感謝の言葉を伝えれば、何かを我慢するかのような顔になった。


「あー、これで無自覚だもんなあ。純粋培養すぎるだろう」


「何がだ?」


「なんでもねえ。ああ、そうだ。最近、彰と話しているか?」


「え、御手洗と……?」


 急にその名前を言われたせいで、胸が変な音を立ててきしんだ。

 今日だって送ってはくれたけど、会話らしい会話はなかった。

 ずっとそんな状態が続いたら、俺の胃がおかしくなる。


「……まあ、普通だな……」


「……相変わらず、こじらせているのか。あいつ。全く他のことはそつなくこなすくせに、そういうところは不器用なんだからな」


「御手洗は悪くない。俺が駄目なだけだ」


「あー、どちらも拗らせているなあ。ま、俺がどうにかする問題でもないか」


 自分から聞いてきたくせに、最後には面倒くさそうに話を終わらせてきた。

 俺も御手洗の話は避けたかったから、話題を変える。


「そういえば、よく薔薇園学園に教師として入れたな。俺だったら、不審者すぎて雇わないけど」


「なんだ? 照れ隠しかあ? 俺は優秀だからな。どこの学校からも引っ張りだこなんだよ」


「あはは。そうかあ」


「その顔は信じてないな。まあ、ここの卒業生だったっていうのも、少しはあるかもしれないけど」


「絶対にそれじゃねえか」


 完全なるコネだ。

 使えるものは使うのはいいが、大人としてどうなのかとも思う。


「そんなことはいいじゃねえか。こうして帝の担任になれたからな」


 誤魔化すように、頭をめちゃくちゃに撫でられる。


「退屈はしなさそうだな」


 本当はもっと言いたいことはあったが、俺様キャラのために、何とか我慢した。

 それでも長年の付き合いからか、伝わったみたいで、さらに撫でられる。


「お褒めいただき光栄です。……あー、すまん。そろそろホームルーム始めるか」


 話している間に、他のクラスメイトは全員席に着いていた。

 そのことに気がつき、桐生院先生が教師らしい顔つきになって、俺との話を止める。


 迷惑をかけてまで話をするつもりは無いので、空いている席へと向かう。


 1番後ろのせいで、歩いている間に向けられる視線が痛い。

 ほとんどが好意的なものだが、その他に桐生院先生との関係性を邪推している者もいた。

 そこら辺はきちんと否定しておこう。


 やることリストに項目を増やし、席へと座った俺は、隣の席に座り窓を眺めている人物に声をかけた。


「どうも。これから、よろしくな?」


「……」


 挨拶は完全に無視され、こちらを見ようともしない。

 さすが一匹狼。

 これは中々、手強そうだ。


 このクラスの中に、美羽達はいない。

 裏工作が上手くいかなかったからでは無い。むしろ寄付金をたくさん出しているから、本当だったら同じクラスになっていただろう。


 それなのになぜ誰もいないのかというと、俺が邪魔をしたからだ。

 神楽坂さんと多少仲良くなったおかげで、少しお願いをしたら条件付きでのんでくれた。

 その条件も、たまに学園長室に来て話をしたいというものだったので、俺としては拍子抜けするぐらいに簡単だった。


 こういう経緯があり、俺はあえて美羽達とクラスを分けた。

 どうしてそんな面倒なことをしたのかと言うと、高校に入ったらあるキャラが登場するのを知っていたからだ。

 そして、そのキャラと接点を持つためには、美羽達がいたら妨害されて時間がかかると判断した。



 そのキャラというのが、今話しかけて無視されたこの人。


 名前は、仁王頭におうずやまと

 これから薔薇園学園にいる不良をまとめあげ、番長となる男だ。




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