67:それは思い出したくないものでした
「これでおしまい……どうしたの?」
俺の話が終わると、何故かその場がしずまりかえっていた。
「えっと、大丈夫?」
「あ、ああ……今の話って、なんだ?」
「今の話? えっと……」
少し覚えたように聞いてくる匠に、珍しいことがあるものだと、俺は笑って答えようとした。
あれ?
今の話、誰から聞いたんだっけ?
でも自分が話したことなのに、誰に聞いたのか全く思い出せない。
あんなにも話している最中は、はっきりと覚えていたのに、今はどんどんおぼろげになっている。
「えっと、気にしないで。なんか、怖くなかったでしょ? よく分からないことばかりでさ」
その事実に薄気味悪さを感じて、俺はあえて明るく振る舞う。
これは無理に思い出しちゃ駄目だ。
自分の中にあるどこかの部分が、そう警告していた。
「……まあ、帝がそう言うのなら」
匠は納得していなさそうだったけど、それでも俺が聞かないでオーラを醸し出していたら、それ以上は聞かないでくれる。
俺でさえも意味が分からなくて戸惑っているのに、上手い説明が出来るはずがない。
なんだか微妙な空気になってしまったので、俺は空気を変えるように、大きな音を立てて手を叩いた。
「よし、次は誰が、どんな話をしてくれるのかな?」
「……お、おう。それじゃあ俺が……」
そして、よく分からないもやもやを残しながら、次は桐生院先生の番になった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「うう、すっごく怖かった」
「大丈夫? 圭?」
「む、無理かも」
怪談話が終わり部屋に帰ってきたのだけど、桐生院先生の話が怖すぎたのか、圭が可哀想なぐらい真っ青で震えている。
あとから聞いたのだけど、怖い話が苦手らしいから、そうなるのも当然だった。
「全く、怖いものが駄目なら、参加しなければよかったじゃないですか」
美羽が呆れた様子で圭をつつく。
「だって、仲間はずれは嫌だったんだもん!」
涙目になりながらも言い返す圭は、全てを込みにして楽しみたかったらしい。
「分かった分かった。トイレにはちゃんと行けよ。中学生になってまで、おねしょをしたら、死ぬまで笑ってやるから」
「絶対にそんな事しないから! み、帝、一緒に行こうね?」
「あ、うん、いいよ」
「お前は女子か。帝も付き合わなくてもいいんだからな」
「「そうだよ! けーくんなんて、放っておけばいいし!」」
「いや、別に嫌なわけじゃないから、そんな事言わないの。一緒に行こうね、圭」
「ありがとう」
さすがに圭を見捨てられるほど、俺は冷酷にはなれない。
トイレぐらいだったら、いくらでも付き合う。
そうすれば、圭は安心した笑みを浮かべた。
「それにしても、美羽や匠の話も怖かったね」
匠はまだしも、美羽まで怖い話を知っているなんて驚きだった。
俺は少し怖いぐらいだったけど、圭は終始ガタガタと震えていた。
「当たり前だろう。とっておきだ」
「私だって色々な経験をしていますからね。お望みとあらば、他の話もしますが」
「それはやめて!」
耳を塞いで布団に潜りこんでしまった圭を見て、美羽はクスクスと笑う。
「美羽、あんまり意地悪しちゃ駄目だよ」
完全にからかっている様子に、俺はやりすぎないようにたしなめた。
「すみません。あまりに反応が良かったので。もうしませんから、布団の中から出てきてください」
布団にもぐったまま出てこない圭に、美羽も少しやりすぎたと思ったのか、眉を下げ布団に近づく。
「もうしない?」
「ええ。人の嫌がることを、無理やりする性癖はございませんので」
「それならいいよ」
圭もそこまで怒っていたりしていなかったのか、すぐに出てきて仲直りした。
俺は安心して、自分に用意された布団の中に入る。
こう言う時の定番は枕投げかもしれないけど、桐生院先生に駄目だと言われたから、さすがに出来ない。
仕方が無いので、布団の中に入って、色々と話をすることにしたのだ。
こういう風に静かな中で話をすると、いつもとはまた違った気分になる。
「それじゃあ電気消すね」
雰囲気作りのために電気も消して、それぞれの布団の中に入ると、体を半分起こして顔を見合せた。
最初は暗闇になれなかったけど、時間が経つにつれて目が慣れてくる。
「それじゃあ、まず何を話そうか?」
「おいおい、帝。こういう時に、話す話題は決まっているだろう。なあ?」
「「そうそう」」
「そうですよ」
「そ、そうだね」
「え? そうなの?」
俺以外のみんなは分かっているみたいで、示し合わせたかのように悪い顔をしているから、俺は戸惑いつつ話題に入る。
「ずばりそうだな。こういう時は、恋の話以外に無いだろう!」
「あー、そういうこと」
確かに、それは枕投げと同じで定番のうちの一つだ。
でも恋の話なんて、このメンバーでするのか。
なんか微妙な気持ちになる。
「えっと、それは強制参加?」
「もちろん、帝は絶対だ」
いい笑顔で言いきられてしまったら、俺はどうすることも出来なかった。
「それじゃあ、すぐに名前を言うのはつまらないだろうから、ヒントから出していこうぜ」
1番乗り気である匠は、話の流れを決める。
これはもう逃げられないなと、俺は諦めて話に参加することにした。
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