47:新たなキャラの予感
中学校生活は、順調に始まった。
授業についていけないことも無く、クラスメイトとも当たり障りの無い関係を築けている。
でも一つだけ、気になっていることがあるのだ。
「……どう考えてもあれ、
別のクラスに、恐らく物語のキャラがいると思う。
はっきりと断言出来ないのは、その姿が俺の中のイメージとかけ離れているせいだ。
薔薇園学園で、生徒会会計になる男である。
性格は、一言で言うとチャラ男。
不健全な話だけど、セフレが山のようにいて、転入生のことを最初は興味本位でちょっかいをかけていた。
しかし体だけの関係なんて虚しいだけだと言われ、これまたチョロいことに心を入れ替えるのだ。
セフレとは完全に手を切り、転入生一筋になる。
長めの髪を明るく染めて、制服を着崩すイケメン。
俺の中で伊佐木は、そんなイメージだった。
でも別のクラスにいる伊佐木という名前の生徒は、
「……言っちゃ悪いけど、もさっとしているんだよなあ」
全くチャラ男とは縁遠い容姿をしていた。
染めたことの無い黒髪は、手入れをしていないのか艶がなく。
前髪が目にかかるぐらい長くて、メガネもかけているから、顔が下半分しか見えず。
性格も大人しいようで、廊下から見た時は、机にずっと突っ伏していた。
友達がいないらしく、見かける度に、いつも一人だった。
周りに色々な人をはべらかしている姿しか想像していなかったから、俺は初めて見た時に理解が追いつかず混乱した。
えっと、誰?
同姓同名の他人の線も疑ったけど、さすがに同じ名前の人がこの世界に登場するわけが無い。
ということは、伊佐木本人。
なるほどチャラ男は、高校デビューだったのか。
そう自分を納得させるまで、まあまあの時間がかかった。
どんなきっかけで、キャラが変わるのだろう。
そこら辺はあやふやにされていたから、俺は全く知らない。
今の状態から180度変わるのだ。
よほどの何かが起こるはずだ。
それに俺が関わらなければ、どうにでもなっていい。
といいたいところなのだけど、さすがに放置するのは賢い考えじゃないだろう。
だから向こうは望んでないかもしれないが、積極的に関わるしかない。
でも関わるには障害がある。
まず別のクラスだから、話しかけるタイミングが掴めない。
まだ学校が始まったばかりなので、合同の授業や集会の予定も、しばらくは無さそうだ。
そして、全く接点が無い俺が、急に話しかけてどうなるのか、考えなくても分かる。
関係性を疑われ、いらぬ迷惑をかけること間違いなしだ。
そうなると好感度は、底辺に落ちてしまう。
後は、邪魔をしそうな存在がいることだ。
俺の周りにいる友達は、俺が新たな関係を築くことを嫌がるタイプである。
執着なのか心配なのか判断出来ないところだけど、とにかく誰かと話す時はいつの間にか近くにいる。
そうすれば自然と、話しかけていた人も恐怖と遠慮から、最低限の会話で終わってしまう。
こういう事情もあり、当たり障りの無い関係でとどまっているのだ。
そんな彼等が、突然別のクラスの人に話しかけることを見逃すわけがない。
まるで番犬のように威嚇する姿が簡単に想像できて、俺は頭を抱えた。
そんなことになったら、好感度は底辺どころか、地下深くまで落ちてしまう。
仲良くなる前に、話しかけるのですら困難だなんて、どんなハードゲームだ。
もしかしたら高校デビューでは無い可能性もあるので、性格が変わる前に一度接触しておきたいのだけれど。
そうするために、乗り越えるべき壁が多すぎた。
監視が厳しいから、一人で行動もさせてもらえない。
俺は幼稚園児だとでも思われているのだろうか。
さすがに迷子にならないし、知らない人にはついて行かないし、護身術を習っているからそこそこ強いのだけれど。
過保護がすぎる。
俺のこの状況を、そこまで迷惑していないからと見過ごしたのが悪かったのか。
さて八方塞がりだと、切羽詰まっていた俺を、神様は見ていてくれたらしい。
伊佐木と2人きりになるチャンスを与えてくれたのだ。
でも、このやり方は、随分と無理矢理ことを運んだと思う。
「……あのさ」
「ひ、ひいっ!?」
「えーっと、ごめん……」
体育倉庫で2人きり、話しかけても怯えられる中、どうしたものかと困惑していた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こんな状況になった経緯は、あまりにも単純だった。
学級委員長に選ばれていた俺は、体育教師に備品の片付けをするように頼まれていた。
使いパシリのような気がするけど、先生も忙しそうだから、これぐらいならと文句を言わずに引き受ける。
美羽達が手伝ってくれると言ったが、それは丁重にお断りしておいた。
片付けと言っても、一人で十分出来ることだ。
わざわざ手を借りるほどではなかった。
そういうわけで、備品を抱えて体育倉庫に入り、奥の方で片付けていた。
思っていたよりも奥の下の方だったせいもあり、俺はしゃがみこんでいたからか、存在に気が付かれなかったらしい。
「ほら、さっさと入れよ。根暗!」
入口の方が騒がしくなったかと思えば、たくさんの嫌な感じの笑い声と、扉が閉められる音。
誰かがいじめられて、ここに閉じ込められたようだ。
そして、それに巻き込まれてしまったらしい。
すぐに終わると、明かりをつけていなかったせいで、真っ暗な部屋。
俺以外の、すすり泣く声が聞こえる。
たぶん、いや絶対に俺がいることに気づいていないはずだ。
さすがにずっと暗いところにいるのは嫌だから、電気ぐらいはつけたいのだけど。
誰だか知らないけど、自己紹介をした方がいいのか。
それはそれで驚かせそうなので、とにかく電気を先につけることにした。
「……お」
静かにスイッチのところに移動し、手探りでつけた瞬間、閉じ込められた生徒と目が合った。
その見覚えのある顔に俺が驚くと、向こうは引きつった顔をして、ふらりと倒れた。
まさかそこまで驚かれると思わず、何とか頭を打ちつける前に体を支えたのだけど、途方に暮れてしまう。
「えー」
まさか目覚めてからも怯えられるとは思っていない俺は、気をつかって膝枕をして目を覚ますのを待つのだった。
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