中学生編
43:6年も経てば、色々と変わります
あれから早いもので、6年の月日が経った。
早いとは言ったけど、子供の体からか体感時間は長かった。
そのせいかもしれないが、俺の周りはたくさんの変化が起こったのだ。
一番の変化といって思い浮かべるのは、弟だろう。
10歳になった弟は、物凄く変わった。
「おはよう。正嗣」
「うるさい。話しかけるな」
「あー、えっと、ごめん」
ただいま、絶賛反抗期である。
きっかけがいつだったのか、俺には分からなかった。
しかし気が付いた時にはすでに、話しかけるだけで不機嫌になる状態になっていた。
冷たい態度をとられた最初の日には、あまりのショックに寝込んだ。
ベッドに寝て唸っている俺に、御手洗が小馬鹿にした態度で、心配しなくても大丈夫だと言ってきた。
何を根拠にと思ったけど、反抗期と思春期が混ざったものだと説明された。
早すぎる気もしたが、個人差があると言われれば、納得するしかなかった。
そういうわけで、冷たい態度はとられても無視するのが一番良くないと教えられたから、胸は痛いが毎日話しかけることにしている。
なんだかんだ言っても、返事はしてくれているから嫌われているわけではないのだろう。
その次に変化があったとしたら、西園寺兄弟か。
そっくりでいることを止めた2人は、手っ取り早く容姿を変えた。
それはもう、目に優しくないぐらいに。
嬉しいことに、俺があげたヘアピンをいまだに使ってくれている2人は、それに合わせて髪の色を変えた。
朝陽は金髪。
夕陽は銀髪。
親に泣かれたんじゃないか、あまりの変化に俺のせいかと反省したが、本人達が気に入っているから何も言えなかった。
まあ、実際よく似合っているから、学生のうちは好きにするのが一番だと思う。
もちろん、美羽や匠にも、ここまでではないけど変化はあった。
美羽は、美少女から美しい少年へと成長した。
もう女の子に見間違われることはなく、そしてものすごくモテる。
まるで童話に出てくる王子様のようだと、みんながそう評価するぐらいだ。
確かにすらりと伸びた身長に、色素の薄いふわふわとした髪、柔らかい物腰。
男女分け隔てなく、誰にでも優しいので、モテるのは当たり前である。
無意識に俺をエスコートする時があって、まるで自分が女性のような気分になってしまい、物凄くいたたまれない気持ちになる。
しかもそれが似合っているからこそ、余計に心臓に悪い。
匠は、とても早い成長期を迎えた。
俺だって伸びているはずなのに、それをはるかに超える伸び具合。
ここ1年で急にだったから、男として負けた感じで悔しい。
でも物語の中では、同じぐらいの身長だったはず。
これからの伸びに期待である。
中学生になった今も、俺達5人は一緒だ。
同じ中学に通うことも決まり、みんなで喜びを分かち合った。
犬猿の仲になる可能性を心配していた美羽と匠は、なんだかんだで上手くやっている。
共通の趣味を見つけたらしく、その話題を話している時は、2人とも楽しそうだ。
ただ盛り上がりすぎて、たまに喧嘩をしている。
そういう時は、朝陽と夕陽が放っておくようにと言って、俺を別の場所に連れ出す。
だから今のところ、共通の話題というのが何なのか、俺は知らない。
ただ、殴り合いの喧嘩をするのだけは、心配になるからさすがに止めてほしい。
そのほかに色々と変わったことがあるけど、それを思い出すのはまたにしよう。
まずは、処理しておくべきことがある。
「……何で、いるんですか。桐生院先生……?」
「俺が帝の成長を見届けるのを我慢するわけが無いだろう。直談判をして、担任にしてもらった。今年も、いやこれからもよろしくな」
小学校で六年間担任だった桐生院先生は、中学校になっても担任になるようだ。
まだ好かれていることに、喜べばいいのか微妙である。
御手洗も知っていたくせに、教えてくれないのだから、相変わらず性格が悪い。
「あはは、よろしくお願いします」
これからも、という言葉に不穏なものを感じながら、俺は呼び出された職員室を後にした。
入学式の前日に呼び出されたから何事かと思っていたら、ただの報告だけだったらしい。
本当はサプライズをしたかったらしいけど、邪魔をするからやめたとのこと。
誰にとは言っていなかったが、誰なのかは何となく予想できる。
桐生院先生がやったように裏工作をして、きっと明日から同じクラスになるだろう4人のことだろう。
ショタコンならば、俺よりも美羽や朝陽や夕陽の方が好きになるのかと思ったが、どうやら好みではないらしい。
かといって、俺と系統が似ている匠も範囲外だと言っていた。
意外に細かい。
そんな桐生院先生に対して、4人の態度もだいぶ雑だった。
一応先生としては接しているけど、でもたまに足蹴りとかしているのを見た。
ハリセンで叩いた時は、どこから取り出したのかと、そっちの方が気になったりもした。
でも嫌いあっているというわけではなさそうなので、桐生院先生のことだし放置している。
桐生院先生と、まだ付き合いが繋がるのを知ったというわけで、今日はもう家に帰ろう。
そう考え、職員室を出てまっすぐ校門に向かおうとした俺の耳が、微かな声を拾い立ち止まる。
俺が言うのはなんだけど、今日は入学式前日だ。
部活動も休みらしいから、残っている生徒はいないはずなのだが。
明らかに同じぐらいの年齢だろう声に、興味が湧いた。
「少しだけ」
御手洗が待っているはずだが、桐生院先生のことを内緒にしていたので、少しぐらい待たせておこう。
俺は耳をすませながら、声のする方に進んでいった。
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