36:違う人間、それなら……
「……なあに話って?」
「僕達、もう話す気ないんだけど」
次の日、再び西園寺兄弟を呼び出すと、面倒くさいといった表情を隠そうとしない2人が現れた。
俺じゃ来てくれない可能性があるから、美羽に頼んだのが悪かったのだろうか。
ものすごく不機嫌すぎて、逆に母性が湧いてきた。
まるで、
龍造寺さんと昨日話したから、余計にそう感じるのかもしれない。
「……騙してごめんね。うーんと、話をするのが嫌ならしない」
「それなら何で呼び出したの?」
「僕達、ひまじゃないし」
「すぐ終わるから。はい、これ。2人にあげる」
今日は何かを話すつもりじゃなかったので、目的のものを渡せれば満足だった。
俺は間違えないように、それぞれに用意したものを手渡す。
「何、これ?」
「何なの?」
受け取ってもらえないかと思ったけど、俺の勢いに押されたのか、その手の中におさまっている。
簡単に包装されたそれを、どうしたらいいのか分からない顔をして、開けようとはしない。
もしかして、爆弾だと思っているのか。
「ただのプレゼント。この前、仲良くしようって言ってくれたでしょ。その印というか何というか」
「プレゼントお?」
「どうせ趣味の悪いものでしょ」
「いやあ、うちのハイスペックに選んでもらったから、そこら辺は大丈夫だと思うけど」
御手洗なら間違いはない。
根拠は無いけど、自信ならありあまりぐらいある。
「ハイスペックって……」
「あの笑顔が怖い執事い?」
名前は出さなかったが、御手洗だとすぐに分かってくれた。
送り迎えをしている時に、顔を見かけたのだろう。
本人が聞いたら、笑って後でからかいそうだ。
苦手だと思われている人に、喜んで絡みに行く。メンタルが鋼なのだ。
「そう。俺付きの執事が、オッケーを出したものだから、変なものじゃないはず。信用出来ないのなら、ここで見て確かめて。好みに合わなかったら、返してもらってもいいし」
「ふん、変な物じゃないって言っても、本当はどうだか」
「見るだけ見てあげる」
口ではそう言っていても、包装を丁寧にはがす姿に、育ちの良さを感じる。
「……何」
「……これ」
テープを紙がはがれないように慎重にはがし、そして時間をかけて中のものを取り出すと、2人して同時に固まってしまった。
「えーっと、ヘアピンって言って、髪をとめるのに使うものなんだけど」
「「そんなことぐらい、分かっているよ!」」
「えっと、それじゃあ何?」
「「どうして別々の色なの!?」」
2人の手の中にあるヘアピンは、シンプルなデザインだけど、値段が普通よりも一桁近く違うせいか、どんな場面でつけていてもおかしくないものである。
学校でつけていても、ぎりぎり先生も見逃してくれるだろう。
そこまで服装に関してうるさくはないから、きっと大丈夫だ。
そのヘアピンは、2人が声をそろえて言うように、別々の色だ。
朝陽君には、金色。
夕陽君には、銀色。
間違えたのではない。あえて、そうしたのだ。
効果は絶大で、今までにないぐらい怒っている。
「馬鹿にしているんでしょ!」
「どうして、こんなことするの!」
今にもヘアピンを投げ捨てそうな様子に、俺は竜造寺さんのような優しい人になれるように意識しながら、それぞれの手を包み込む。
「馬鹿にしたわけじゃないよ。これはね、誰にでも
2人を見分けられるように、別々の色にしたんだ」
「別に見分けられたくない」
「僕達は、2人でずっと生きていくの。これまでもそうしていたんだから」
「……本当に、そう思っているの?」
俺は、昨日の竜造寺さんの言葉を思い出す。
頑なに、同じ格好にこだわる理由。
「本当は、誰かに見破ってもらいたかったんでしょう? ……2人だけの世界を壊してもらいたかったんだ。そうでしょう?」
「そんなこと……」
「2人だけの世界、誰も付け入るスキがない。それは孤独なのと同じだよね」
2人は生まれた時から、常に一番近い位置に自分と似ている存在がいた。
見分けられないぐらい似ているせいで、いつもいっしょくたにされていたはずだ。
最初から2人にしか分からない世界だと諦められ、仲良くしようと近づいてくるものはいなかった。
その扱いにどんどん諦めていき、余計に2人の殻に閉じこもってしまう。
そして今のような、表面的な関係しか作らない状態になった。
こうなってしまったのは、声を上げなかった2人も悪いし、勝手に決めつけた周りも悪い。
でも実際は諦めていたようで、心のどこかでは誰かに見分けてほしい、誰かと友達になりたい、そう思っていた。
物語の中だったら、その状態をぶち壊すのは転入生の役目だった。
タイミング、言葉、全てが良い状況で、2人を救ったのだ。
たとえ上手くいくように作られていたとしても、主人公のそれは天性の才能なのだろう。
それを俺が、色々な人に助けられ、そして色々なことを知っている、ある意味ずるい状態で代わりにぶち壊そうとしている。
「朝陽君は、場にいるだけで明るくなる。だから太陽をイメージして、金色にしたんだ。夕陽君は、いつも周りを見て冷静に物事を判断している。優しく見守る月をイメージして、銀色にしたんだ」
俺は包み込んだ手に、力を入れた。
「でもね。俺はこれが無くても、ちゃんと2人を見分けるよ。それだけじゃない。一緒に勉強して、遊んで、いたずらとかもしたりして、楽しい学校生活にしようよ」
今にも泣きそうな2人に、力強く言い切った。
「これはね、友達だよっていう証。受け取ってもらえるかな」
俺の言葉に、どちらかともなく涙がこぼれおちた。
それからどうなったのかというと、西園寺兄弟の頭に色違いのヘアピンがついたという話を出せば、察してもらえるだろう。
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