35:思っていたよりも、問題は根深かったようです




「……僕達は一つじゃないことは分かっているよ」


「お互いがお互い別の人間だって、そんなの当たり前じゃん」


 闇堕ちしたかのように、目の焦点が合っていない西園寺兄弟は、ゆらゆらとしゃがみ込んだまま揺れている。


 俺はその前で、作戦の失敗を悟った。

 これは、リサーチ不足だった俺が悪い。


 2人の世界に入っているうちに、このまま逃げた方が良いだろうか。

 作戦の練り直しを決意して、その場からこっそりと逃げ出した。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「どうしよう! 全然駄目だった……!」


 無事にその日を乗り切ることが出来、俺はまっさきに御手洗に助けを求めた。


「おやおや。上手くいかなかったのですか」


 飛びつこうとしたのは避けられたけど、それでも話は聞いてくれる。


「正嗣のアドバイス通りに言ってみたら、闇堕ちした……あれはもう、好感度が地に落ちたと思う……」


 こうは言ったが、別に弟が悪いとは欠片も思っていない。

 俺のやり方が悪かった。ただそれだけだ。


「なかなか、問題は根が深かったようですね。お坊ちゃまの人たらし能力でも、駄目だったとは。誰にでも効くわけではないのですね」


「人たらし能力って……そんなもの持っているつもりないけど。全然人たらしじゃないし」


「旦那様、正嗣お坊ちゃま、皇子山様、桐生院、龍造寺様、獅子王様……それ以外にも、色々とやらかしておりますよね。これでも人たらしではないとおっしゃるのであれば、私もそれ相応の証拠を提出いたしますよ?」


「はい、分かったから、証拠とか出さなくていいよ」


 御手洗ならやりそうなので、俺はすぐに折れる。


「……お坊ちゃまなら、簡単に解決出来ると思っておりましたが、楽観的に考えすぎていました。……そうですね。次の手を考えてみますか」


「ありがとう。1回駄目だったからって、簡単に諦めちゃ駄目だよね。俺の人生がかかっているし、俺付きのせいで、たぶん御手洗の人生にも影響出るだろうから。泣き言は言っていられないよ」


「お坊ちゃま……私はお坊ちゃまが勘当されても、能力で残ることは出来ますが……気持ちだけありがたく受け取っておきます。ええ、気持ちだけ」


 ここは感動の場面のはずなのに、御手洗ときたら一言も二言も多い。

 それでも会話をしていれば、上手くいかなくて落ち込んでいた気持ちも軽くなってきた。


「そうですね……私にも難しい問題ですので、今度はまた別の方に相談してみるのはどうでしょうか?」


「別の人? それって誰?」


「こういったことに慣れていそうな方……きっと快くアドバイスもしてくれるであろう、そんな方……」


「……ああ、そうか。ピッタリの人がいるね」


 御手洗の示している人が分かり、俺はポケットからスマホを取り出す。


「今、暇だといいんだけど」


 操作し電話帳の中から、とある人物の名前を出すと、俺は迷ってから結局電話をかけた。

 何度目かのコール音の後、穏やかな声が聞こえてくる。


「……もしもし、帝君?」


 突然の電話なのに、嫌な感じが全く無く、いつも通りの声色なのに安心する。


「もしもし、龍造寺さん。少し、お話いいですか? 相談したいことがあるんです」


 龍造寺さんならきっと断らない、そんな自信を持ちながら、俺は本題に入った。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「……なるほど。それでその2人は、怒ったんだね」


「そうなんです……俺が悪いのは分かっているんですけど、このまま関わらないでいるのも嫌で……。でももう、どうしたらいいのか分からなくて」


 快く相談するのを承諾してくれたので、俺は時間をかけて、今までのことを話した。

 弟に話をしていたおかげか、上手く説明できたと思う。


「そうか。帝君は、その子達とと友達になりたいんだね」


 そして、話を聞いた龍造寺さんの感想が、これだった。


 友達になりたい。

 全く思ってもみなかった感想に、俺は言葉が詰まってしまう。

 自分が助かるために仲良くしておこう、そういう目標だった。


 でも、何故か龍造寺さんの言葉に、どこか納得してしまったのだ。


「そうですね。俺は、2人と友達になりたいんですか。でも俺1人じゃ、どうしようもなくて。無理なお願いかもしれないけど、助けてもらえないですか?」


 口に出してしまえば、心の中にすとんと落ちた。


「……それなら、ぜひ俺もその手伝いをさせてもらおうか。帝君が、そこまで言ってくれたんだからね」


「ありがとうございます!」


 断られるはずないとは思っていたけど、とても心強い味方が出来た。

 俺は一気になんとかなるんじゃないかと、そういう気持ちになった。


「その子達は、別に1人の人間になりたいと思っているわけじゃない。でも同じ格好をしている」


「そうです。どうして同じ格好をしているのか、全く分からないんです」


「うーん、そうだなあ……ん?」


「どうしました? 龍造寺さん? 龍造寺さーん?」


 考え込んでいた龍造寺さんの声が、急に途切れる。

 電波でも悪くなったのかと、俺は何度も呼びかけるが、しばらく返事が無かった。


「えーっと、ごめんごめん。ちょっと色々あって」


「いえ、大丈夫です。もしかして忙しかったですか? ごめんなさい」


「いやいや、そういうわけじゃないんだ! だから気にしないで!」


 少し経って謝りながら戻ってきたので、俺の電話のタイミングが悪かったのかと、かけなおす提案をしようとすれば、それは大丈夫だと言われた。

 遠慮をしているのかと思ったけど、そうでは無いらしい。


「本当ですか? 駄目な時は、駄目って言ってくださいね」


「本当に大丈夫だから。話の途中でごめんね。えーっと、とりあえずどうしたらいいかって話だったよね。良い案が出たから、大丈夫なら試してみるのはどうかな?」


 そうして、龍造寺さんから言われた案は、俺からしたら目から鱗が落ちるぐらい驚くものだった。




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