34:双子は別の人間、理解しましょう




「やーっと、捕まえた」


「もう、逃がさないよ」


 息を切らした双子に、両腕を掴まれ、俺は完全に捕らわれた宇宙人のような格好になっていた。


「もう本当疲れたんだけど」


「逃げすぎ」


「えっと、ごめん……?」


 本当は逃げるつもりが無かったけど、追いかけられたから何となく逃げてしまった。

 だから疲れたのは、完全に俺のせいだ。

 でもその事情を知らない西園寺兄弟は、逃げたことだけを謝ったと思ったらしい。


「もう逃がさないから」


「今度は話をするまで、逃げられないからね」


 力強く腕を掴んだまま、2人は俺の顔を覗き込んだ。


「さあさあ」


「早く教えてよ」


「「僕達をどうやって見分けたのかをさ」」


 シンクロする言葉に、色々と耐え切れなくなって吹き出してしまう。


「なっ」


「何がおかしいの?」


 近くにいるから俺が笑ったことに、すぐに気が付かれた。

 当たり前だが怒った2人は、更に掴む腕を強くした。


「ご、ごめん。つい」



 俺が笑ってしまったのは、完全に御手洗のせいだ。


 昨日部屋に戻ってから、今日のために準備をしていた時、ぼそりとこんな言葉を言ってきた。


「言葉を完全にシンクロさせるには、それ相応の努力が必要ですよね。やはり練習のたまものでしょうか。部屋に2人。顔を見合わせて、同じ言葉を言う練習……」


 それだけ言い残して、部屋から出て行ったのだが、俺の頭の中ではそのイメージが浮かんで離れなかった。

 あまりに変なイメージすぎて、どんどん笑えてきてしまい、思い出すたびにおかしくなった。



 そういうわけでシンクロして話されると、イメージが頭の中に浮かんで、笑ってしまう体にさせられたのだ。

 見事なシンクロ具合に拍手を送りたいし、笑わせるなと怒りたくもなる。


「あー、もう怒った!」


「そうだそうだ! 僕達を馬鹿にしたから、仕返しされても文句はないよね!」


 それは文句しかないけど、言ったら怒られそうだから、これからどうするつもりなのか様子を見る。

 プンプンと擬音が見えるぐらい怒った2人は、俺の腕をどこから取り出したのかロープでぐるぐる巻きにし始めた。


「え? え?」


 それはもう見事な連携プレーで、抵抗する暇もなく、俺の腕は固く結ばれてしまった。


「いーい、逃げないでね!」


「今度逃げたら、あることないこと言いふらすから!」


 ようやく腕から離れた2人は、俺の前に並んで立ち、勢いよく指さしてきた。

 別に逃げる気は無いので、俺は大人しく座っておく。


「それじゃあ、今からクイズを出すから」


「よく見ておいてよね!」


 突然、お遊戯でも始まった気分だ。

 手と手を繋いで、くるくると回りだし、俺の周りを移動するのを見れば、そんな感想になってしまう。


 これから何が行われるのか。

 ぼんやりと予想はついた。


 目が回ってしまうのではというぐらいに回り続け、そして本人達が満足した頃、ようやく目の前で止まった。


「う、気持ち悪い……」


「……うう」


 やっぱり目が回ったらしい。

 顔を青ざめさせて、口元を押さえたまま、少しの時間が経過する。

 時間が経てば気持ち悪さも治ったようで、気を取り直して本題に戻った。


「……僕は朝陽」


「……僕は夕陽」


「「本当か嘘、どっちだと思う?」」


「ぶふっ」


 だからシンクロしないで欲しい。

 また笑ってしまい、2人の機嫌が最低ラインにまで落ちたが、俺は今度は謝らずそれぞれの姿を見比べた。


 自分のことを朝陽と言ったのは、俺から見て左側にいる方。

 夕陽と言ったのは、右側にいる方だった。

 パッと見では、どちらがどちらかは分からない。

 というか、マジマジと見ても分からない。


「……嘘?」


「「……当たり」」


 でも俺は何となく、違いを見分けてしまった。

 そしてそれは当たっていたようで、顔をしかめて正解だと言われた。


「「たまたまかもしれないから、もう一回」」


 シンクロして言ってくるのにも慣れてきた俺は、今度は笑わずにクルクルと回るのを眺めた。

 でも途中で見ていたら駄目かと思い、気を遣って目を閉じる。


「「目を開けていいよ」」


 暗いところから急に明るくなると、目が慣れるまで時間がかかる。

 俺は何度か瞬きして、視界を慣らした。


「僕は夕陽」


「僕は朝陽」


「「正解だと思う? 不正解だと思う?」」


 今度は別の決めゼリフを言ってきたので、俺もすぐに答える。


「……不正解?」


「「うー、何で!? 何で当たるの!?」」


 今回も正解だったらしく、地団太を踏んで更に怒りがパワーアップしてしまった。


「「もう一回!!」」


 まだ解放してくれなさそうだ。

 俺はまた回りだした2人に、ゆっくりと目を閉じた。



 それから何回か付き合って、その全てで俺は正解を叩き出してしまった。

 俺が正解を出すたびに、2人は焦り、そしてどんどん引けなくなっていく。


 でも、色々と限界だったみたいだ。


「……何で、何で……」


「僕達を見分けられるの?」


 絶望を顔いっぱいに、今にも泣きだしそうな顔でしゃがみ込む。


 俺は全部正解してしまった責任があるので、目の前にしゃがみこんで、2人の顔を覗いた。


「どうやって2人を見分けているか、だっけ。うーん、そうだなあ。朝陽君は声が少しだけ高い。夕陽君は話し出す前に、一瞬言葉に詰まるよね。他にも色々と違いはあるけど、分かりやすいのはそれかな?」


 返事は無いけど、きちんと聞いていてくれているみたいだ。


「きっと俺以外にも、分かる人は出てくる。それを受け入れられない? でもね。俺の知り合いが、こんなことを言っていたよ。2人は違う人間だけど、1番近い人間だって。一緒になったら、1人になっちゃう。それなら2人で遊んだほうが楽しいじゃないかって」


「……1番近い?」


「2人で遊んだほうが楽しい?」


 俺の慰めは、2人には届いてくれたのか。

 言葉を繰り返す姿に、俺は安心しきってしまった。


「「ふざけるな!!」」


 どうやら思っていたよりも、物事を簡単に考えすぎていたらしい。



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