31:トラブルが解決しても、またトラブル




 あれから美羽と匠の関係は、本当に徐々にだけど、良くなってきている。


 顔を合わせて喧嘩をしなくなったし、少しだけではあるが話をするようにもなった。

 まだ俺が間に入らないと話は続かないけど、それでも進歩した方だろう。


 落ち着いて話をすれば気が合いそうなので、これからがどんどん楽しみだ。



 さて、美羽と匠の問題は解決したが、俺は新たな問題に直面している。


「ねーねー、聞いているのー?」


「無視するなんて、性格悪いんだよー?」


「……はいはい、聞いているって」


「「はいは1回だよー」」


 最近、西園寺兄弟がうるさい。

 朝から放課後まで付きまとってきて、常に話しかけてくるのだ。


 しかも2人が巧妙なのは、美羽と匠がいる時は、それをしないところである。

 1人になった途端、どこにいても必ず現れて、くだらないことを交互に話しかけてくる。

 最初は真面目に返していたけど、だんだん面倒くさくなったら、さらにうるさくなった。


 声変わり前だからか、ずっと話しかけられると頭が痛くなってくる。

 でもそれを言えば、さらにうるさくなること間違いなしだ。


 そういうわけで誰にも相談出来ず、ストレスがどんどん溜まっていった。



 自分でもいつ爆発するかわからないまま、何日かすぎた今日、俺は朝からイライラしていた。

 原因は特に無いのだけど、もしかしたら溜まったストレスが原因だったのかもしれない。


「もう、何がしたいんだ!」


 叫んだ自分が驚くぐらい、その声は大きかった。

 やってしまった。

 口に出した後で後悔したけど、言われた西園寺兄弟は、瞬きを何度かすると何故か楽しそうに笑う。


「怒ったね、夕陽」


「怒ったね、朝陽」


「「やっぱり人間なんだ」」


「……はい? どういうこと?」


 どうやら俺が怒ることまで、2人の思惑のうちだったらしい。

 まんまと引っかかった俺は、精神的に疲れながら、こんなことをしでかした理由を尋ねる。

 理由しだいでは、ここ数日のことを許せない。

 それぐらい俺にとっては、大きなストレスになっていたのだ。


「そんなに怒らないで、謝るからー」


「ちょっと試してみたかっただけなのー」


 絶対に許すものか、そう決めていた心は、上目遣いをして胸の辺りで手を組んでいる姿に揺らぎかけた。


「と、とにかく何でこんなことをしたのか教えて。それ次第で、許すか許さないか決めるから」


「「はーい」」


 小学生でも、弟ぐらい小さいせいで、まるで子供を相手にしている気分になる。

 きっと自分の容姿を自覚して、あえてやっているのだろうから、油断ならない。

 でも、顔がいい。


 俺は何とか心を鬼にして、怖い表情を作った。

 全く、2人には効果が無いのだけど。


「だって、みかみかは天使なんでしょう?」


「ちょっと待って。みかみかって何?」


「もー、せっかく話そうとしているんだから、止めないでよー。みかみかはみかみかだよ。その方が言いやすいし、可愛いでしょ?」


「そう。……止めてごめん」


 もう俺が悪い。

 話の邪魔はしないと、ツッコミを入れたくなる気持ちを我慢して、話を続けてもらう。


「獅子くんが言っていたでしょ。みかみかは天使だって」


「だから本当に天使なのか、調べていたのー。天使なら、何をしたって怒らないでしょ」


 ツッコミを入れないと思っていたけど、全てにツッコミを入れたかった。


 天使というのは、比喩表現だ。本当に天使なわけが無い。

 それに本当の天使だって、あそこまでうるさくされたら怒る。

 今までのこのストレスは、獅子王のせいか。


 頭の中で獅子王に八つ当たりをしていると、2人は距離を近づけてくる。


「天使じゃないのは残念だけど」


「みかみかって、なんか面白いんだよね


「そうそう。ついからかいたくなっちゃう」


「可愛いって言われるのも分かるかも」


 特に何かをしたわけじゃないのに、どうやら気に入られてしまったようだ。

 両腕を取られて、腕を組まれてしまった。

 なんだか拘束された気分で、顔がひきつる。


「みかみかと、いーっぱい仲良くしたいな」


「そうすれば色々と分かりそうだもんね」


「そうそう。僕達に隠していること、たーくさんありそうだし」


「そうそう。たーくさん……例えば」



「「僕達がたまに入れ替わっていることとかね」」


 拘束する力が強くなった。

 絶対に逃がさないというわけか。


「な、なんのこと? 2人が入れ替わっているって」


 それでも簡単に認めるわけにいかないから、とりあえずとぼけてみる。


「分かっているんだから」


「そうだそうだー。みかみかは分かりやすいんだもん」


「僕達が入れ替わっている時だけ、名前呼びづらそうにしているもんね」


「ねー。それが毎回なんだから、どう考えても見分けているよね」


 とぼけても無駄だった。

 まさか顔に出てしまっていたとは。


 いつもポーカーフェイスでいろと言ってくる御手洗にバレたら、馬鹿にされるか怒られる。


 でも西園寺兄弟も悪い。

 同じクラスなのに、頻繁に誰にも言わないで入れ替わるなんて、何の意味があるのか。

 最初に気がついた時は、また何か遊び始めたと関わらないつもりだったのに。


 顔に出ていたなんて、誤算だった。


「ねえねえ、どうして入れ替わっているって分かったの?」


「そうだよ。パパもママもだーれも気づかなかったのに」


「どうしてどうして」


「教えて教えて」


 顔は笑っているけど、どこか必死な様子。

 その理由に心当たりがあるからこそ、俺は関わりたくなかったのだ。


 全く同じ容姿に、同じ話し方、そして仕草。

 更にはたまに入れ替わって、誰にも気づかれないことを確認している。


 その全てが、1つの事実を示しているのだ。


「「ねえ、教えてよ」」


 2人がお互いを見分けて欲しくないと、そう思っていることを。




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