30:仲良しこよし大作戦




 美羽と獅子王の仲を取り持つ。

 名付けて、仲良しこよし大作戦を決行することが決まった。


 目的は、美羽が破滅する道に進むのを阻止するためだ。


 御手洗の話では、今は美羽の方が破滅する可能性が高いらしい。

 将来の風紀委員長である獅子王と仲が悪く、もし俺が生徒会長にならなければ、次に選ばれるかもしれないからだ。



 俺じゃなければ、勝手に破滅しろ。

 そんな冷たい態度が取れるのならば、このまま放っておいて、勝手に物語が進み誰かが破滅するのを待てば良い。


 でも、他の人に心があるのを知ってしまった。

 そんな人達が不幸になるなんて、とても耐えきれない。


 そういうわけで俺も破滅したくないし、誰も不幸にさせたくない。

 さらにハードルが高くなった気がするけど、俺はやると決めたからには、諦める気はなかった。



 そういうわけで、仲良しこよし大作戦である。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 変態と腹黒の二人を、どう混じらわせるべきか。

 あんなに言い合いをするぐらい、二人は全く気が合っていない。

 そこから大親友までいかなくても、穏やかに話をするぐらいにはなって欲しい。


 俺はどうすれば仲良くなるのか、考えに考えた。

 それはもう夕食も手がつかずに、父親と弟に心配されてしまったぐらいだ。

 構っている余裕がなくて御手洗に任せてしまったけど、珍しく疲れた顔をしていた。


 そのぐらい考えて、日付が変わりそうになる頃、ようやくヒントになりそうな何かが思い浮かんだ。


「……俺が恥ずかしい。でも、この作戦なら上手くいく……ような気がする」


「ええ、きっと上手くきますよ。自信を持ってください」


 考えれば考えるほど馬鹿らしいものだけど、御手洗からも太鼓判を押してもらえた。


「俺に出来るかな……?」


「お坊ちゃまにしか出来ません。きちんと桐生院に動画を撮らせますので、安心してください」


「全く安心できないよね、それ。動画は絶対に止めて。俺で楽しまないで」


「ふふふ」


 不穏な笑い声を、俺は何とかエールに変換して、翌日に作戦を決行すると決めた。

 ものすごく眠かったけど、鏡の前で何度も練習を重ね、完全に寝不足になったが、上手くいくような気になっていったので良しとする。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 そして翌日になり、俺は緊張しながら美羽と獅子王を屋上に連れ出した。


「何でこの人が」


「それはこっちのセリフだ!」


 俺が話しかけた時は機嫌が良さそうだったのに、お互いがいると知ると睨み合い始めてしまった。

 全く歩みよる気のない2人に、俺は深呼吸を何度もして、大きく口を開く。


「どうして仲良くしてくれないの? 俺、喧嘩する人とか嫌いだから! 喧嘩するなら、2人とも絶交だよ!」


「なっ……み、帝安心してください。僕達は仲良しですよ。ねえ、獅子王君?」


「そそそそうだぞ。もう友達だから。喧嘩なんてしないしない。だから嫌いとか言わないでくれ」


 まさかこんなにも効果があるなんて。

 目薬で涙目を作って、可愛子ぶりっ子の真似をして言えば、慌てふためいた2人が、お互いの肩を組んだ。

 まだ無理やりしている感があるから、俺は確認する。


「本当に?」


「本当ですよ」


「もう喧嘩とか言い争いとかしない?」


「するわけないだろう!」


「2人は友達?」


「「友達友達」」


 言質はとった。

 俺は見えない角度で悪い笑みを浮かべ、そして一応は喧嘩をしなくなったことに安堵する。


「約束だからね。もしも破ったら、その時は……」


 最後まであえて言わなければ、首がとれそうなぐらいの勢いで何度も頷く。


「良かった! それじゃあ今から、俺達は3人友達だよ! だから名前で呼び合おうね」


 しれっと友達の範囲の中に自分を含めつつ、俺はそれぞれの手を握った。


「これからよろしく。美羽! 匠!」


 そしてそのまま左右に振れば、なんだか楽しくなってきて、自然と笑ってしまう。


「可愛すぎ」


「天使すぎる」


 2人が天を仰ぎながら涙を流していたけど、今は全く気にならなかった。


「あー、ショタパラダイス。生きているうちに見られるなんて。これは永久保存版だな」


 どこからか桐生院先生の声が聞こえてきても、俺は空耳だと思うことにした。


 こうして仲良しこよし大作戦は、あまりにもあっさりと成功に終わった。

 これで俺の未来も、美羽の未来も良い方向に進むだろう。


「……これから、よろしくお願いします。……匠。み、帝のためですからね」


「ああ、分かっているよ。帝に嫌われるのも、帝を悲しませるのも、どちらも死に値するからな。仲良くしようぜ。……美羽」


 まだまだぎこちはないけど、言い合いしていた時よりは良い雰囲気になってきた。

 そこまで好かれていたのかと、少しむず痒い気持ちになり、俺は誤魔化すようにさらに大きく手を振った。



 こうして、2人の仲を無事に改善することができた俺は、完全に浮かれていた。

 それはもう鼻歌を歌いながら、御手洗の出迎えの元に走った時は、浮かれすぎだとたしなめられるぐらいだった。



 でも俺は完全に忘れていた。

 2人を仲良くさせる作戦のために、ないがしろにしていた存在のことを。


 それに気がついたのは、ご機嫌のまま帰った家で、まるでお通夜状態のように沈んでいる父親と弟の姿を見た時だった。



 完全にフォローするのを忘れていた俺は、2人の機嫌を直すのに、とてつもない時間と労力をかける羽目になった。




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