28:キャラが変わったのか、元々なのか




「ああ、可愛いなあ」


「……はあ」






「……これは一体、どういう状況なんだ?」


 何とか授業が始まる前に戻ってきたのだが、キャラ変をした獅子王に、クラス中がが戸惑いを隠せないようだ。

 昨日と先程は、俺に対して敵意にも近い感情を向けていたのに、今はベッタリとくっついて可愛いだのと言っている姿を見れば、当たり前の反応である。


「えーっと、俺にもよく……分からないというか」


「天使が、俺なんかと友達になりたいと言ってくれたんだ。悲しませないために期待に応えて、これからは自分に正直に生きていくと決めた。これが俺の本来の姿だ」


「あー、まあ、そうだな。何となく分かったわ」


 同情の視線を向けられ、俺は自分が選択を間違えたのではないかと、また思ってしまった。

 そっとしておいた方が、こんな一面を見ることは無かったはずだ。


 獅子王もそうだけど、物語で呼んでいた時のキャラと、現実が正反対ぐらいに違う人が多い。

 俺というイレギュラーが登場したから、性格も変わってしまったのか、それとも物語の中で描かれていなかっただけで、こういう性格だったのか。


 どちらにせよ、どうして変人ばかりなんだろう。

 今まで会った中で唯一の良心が、龍造寺さんだけというのは、どういうことなんだ。

 キャラが濃くなければ、生き残れないとかそういう裏事情でもあるのなら、同情してしまうけど。


「これから、頑張れよ」


 ショタコンに言われてしまうぐらい、獅子王はヤバいらしい。


「……頑張ります」


 とりあえずの返事は、自分でも弱々しいものになってしまった。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 獅子王と無事に和解? し、授業をいつも通り開始したのだが、俺はすぐに気がついた。


 隣に座っている美羽が、穴があくのではないかというぐらい凝視してきていることを。

 授業なんて絶対に聞いていないし、すぐにきがついた桐生院先生が苦笑いをしている。


「おーい。皇子山。そんなに見つめたら、帝の顔に穴があくぞ。ずっと見ていたい気持ちは分かるけどな」


 注意と言いきれない注意もしてくれたけど、美羽には届かなかったようだ。


 俺を見つめたまま、まばたき一つしない。

 そうなると顔も相まって、まるで人形みたいだ。


 さっきは獅子王、今度は美羽。

 そんなに俺の顔は面白いのか。

 顔はいいけど、ずっと見ていられるようなものとは、さすがに思えない。


 それから美羽の視線は、一度たりとも俺から外れることは無かった。

 途中からもう一つの視線を感じたけど、それは気のせいだと言い聞かせた。


 桐生院先生には、ものすごく残念そうな顔をされていたけど。



 そうして授業が、無事とは全く言えないけど何とか終わり、ようやく視線も無くなると考えていたのだけれど。


「帝、ちょっとお話いいですか?」


「いや、でも次の授業が……」


「すぐに終わりますので、いいですよね?」


「あ、はい。分かりました」


 最近俺様キャラを保てないのだが、決して忘れているわけじゃない。

 もう少ししてから、徐々に俺様を出していく予定である。


 それは子供の頃は、俺様じゃない方が警戒されないと思うのと、小学生から俺様を始めて続けられる自信が無いからだ。

 自分が一番、他の人は足元にも及ばない下僕。

 そんな考えを持って生活するなんて、絶対に正気じゃない。

 笑わないでやりきるなんて、到底無理だ。

 自分のためにも、徐々にキャラ変した方がやりやすいという結論になった。



 そういうわけで今の俺は、俺様な性格ではない。

 だからすでに腹黒の片鱗を見せている美羽に、逆らうなんて出来るわけもなく。

 俺は連れてこられるまま、素直に教室の外へと出た。


「えーっと、それで、話って何かな?」


 授業と授業の間の休み時間なんて、そんなに長くとっているわけがない。

 早く終わると言っていたけど、少し……いやものすごく怖い。

 あんなにも熱烈に見てきたのだから、絶対によくない話だ。


 手首を掴む力も強かったし、まるで怒られているかのような気分だった。


「……何か、僕に言うことない?」


「えっ、何か……?」


 こういう聞き方はずるい。

 身に覚えがなくても何かしたかと思い、バレてなかったことまで自白してしまう。

 今だって必死に考えて、美羽の満足するような答えを絞り出した。


「さ、最近一緒に遊んでいないから、誘おうかと思っていたんだけど……も、もしかして迷惑だった?」


「え? そうだったの? それなら早く言ってくれれば良かったのに。迷惑なんかじゃないよ。今度の休みにでも遊ぼう……って違う違う。それじゃない」


「違うの。それじゃあ、なんだろう。……前に遊んだ時、美羽の寝顔を勝手に撮ったこと? あ、あれは絶対に消さない!」


「何撮ってるの! 今すぐ消して、すぐ消して! ……って、それも違う!」


「え。それじゃあ、何?」


 思いつく限りのことは言ってみたけど、どれも違った。

 それでも、美羽の機嫌が少しだけ良くなったので、言って損は無かったと思いたい。


「あー、もう分からないの? どう考えても、あの獅子王って奴のことに決まっているでしょ!」


「あー、そっちかあ」


 あれは衝撃的だけど、美羽とは関係無かったから、候補から外していた。


「何なんですか、あいつ! 帝が可愛いのは知っているけど、あんなにベタベタベタベタ触って!」


「俺、別に可愛くな」


「可愛いから!」


「あ、はい」


 溜めていた怒りが大爆発を起こし、美羽は不満をぶちまける。

 まだ可愛らしい容姿をしているから、そこまで迫力は無い。


「あんな変態付き合うべきじゃない! すぐに手を切って……」


「帝、大丈夫か!?」


 このまま話を聞いていれば、怒りも収まるはず。

 そう考えて話を黙って聞こうとしていたところに、当事者である獅子王が入り込んできた。


 どうして今来たのか。

 火に油を注ぐどころか、ガソリンをぶちまけたのと同じだ。


 これから起こることなんて、簡単に予想出来る。


「あ、あなたのことを言っているんです! 帝に近づかないでください!」


「何だと!?」


 ああ、もう面倒くさい。

 完全に終わる気配が無く、お互いに睨み合う2人に俺は頭を抱えた。




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