26:仲良くしましょう、そうしましょう
獅子王に、完全に嫌われている。
その事実は、俺に衝撃を与えた。
今までなんだかんだと言っても、キャラ達とは良い関係を築けていた。
それなのに初めて、気に入らないと真っ正面から言われてしまったのだ。
授業が始まってからも、衝撃が抜けきれず、桐生院先生に心配された。
何故か人工呼吸をしてこようとしてきたので、恐怖のまま手が出てしまったら、お礼を言いながらよろけた。
ショタコンパワーって凄い。
出来る限り避けておこうと、その姿を見て決めた。
ボソリと美羽が「……再起不能にすればいいのに」と言ったのが聞こえてきて、腹黒副会長の片鱗を見た気がした。
桐生院先生とのやり取りのおかげで、落ち込んでいた気持ちは回復していく。
絶対に、本人には言わないけど。
でも少しだけ笑った瞬間、とある方向から舌打ちが聞こえてきた。
聞こえてきた方向は、獅子王がいる席だった。
少し笑っただけでも、舌打ちが出るぐらい俺が嫌いか。
そう思ったら、涙がにじんでくる。
心配かけたくなくて零さないようにしたけどまた舌打ち。
これは仲良くするどころの話じゃないと、俺は肩を落とした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……というわけなんだけど、何とか仲良くする方法とかないかな?」
「それはそれは、初日から濃厚ですね。さすがトラブルメーカーのお坊ちゃまです」
「絶対に褒めていないよね。真剣な悩みなんだから、一緒に考えてよ」
家に帰ってきた俺は、御手洗と自室にこもり相談をしていた。
出迎えてくれた父親と弟は、何か言いたげだったけど、今はそれどころじゃないので見なかったことにした。
あとで、何かしらフォローを入れようと思う。
今日一日のことを聞いた御手洗は、楽しげに口元を隠した。
絶対に面白がっているけど、頼れる人は彼しかいないのだ。
「まさか、何もしていないのに嫌われるとは思っていなかった。これでリコールに一歩近づいた。ああ、破滅する」
頭を抱えて、俺はベッドの上で唸る。
破滅しても構わないとは思っていたけど、それは最悪の場合だ。
出来れば、みんな仲良くハッピーエンドで終わりたい。
でも重要人物の一人である、獅子王に嫌われてしまった。
嫌な想像しかできない。
「ああ、このまま犬猿の仲になって、喧嘩ばかりするんだ……俺は別に嫌いじゃないのに……どうして嫌われたんだろう……」
ぐちぐちと恨みつらみを口から出していると、笑うのをやめた御手洗が近づいてきた。
「絶望するのは早いですよ、お坊ちゃま。気に入らないと言われただけで、嫌いとはっきり言われたわけじゃないのでしょう」
「そうだけど……同じような意味だろう」
「いえいえ。嫌いと言われていないのなら、まだ勝機はございます。明日、私の言った通りに行動していただけませんか」
「まあ、いいけど。本当に大丈夫?」
御手洗が駄目だというわけじゃないけど、心配ではある。
でも自信満々の姿に、身を預ける覚悟をした。
「……おそらく私の考えが確かなら、獅子王君とやらは……まあ、それは後でにしましょう。それではまずですね……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌日の朝。
俺は緊張しながら、車に揺られて学校に向かっていた。
「……本当に大丈夫かな」
「それは、私を信じていただけないということでしょうか」
「そういうわけじゃないけど、上手くいくか自信がないんだよ」
後部座席でため息ばかり吐いていたら、あまりにうるさかったのか御手洗がバックミラー越しに冷たい視線を向けてくる。
「上手くいかなかったら、その時はその時ですよ。獅子王君とは敵として、作戦を練り直せばよろしいじゃありませんか」
「……そう、だね。とにかくやらなきゃ何も始まらないか。よし、頑張ろう」
「その意気です」
御手洗なりの励ましを受け、俺はとりあえずやる気を出す。
今日これからやることが、吉と出るか凶と出るか。
試してみなければ結果は分からないけど、今後の俺の未来を左右することは明らかだった。
校門まで御手洗に送ってもらい、そして教室までたどり着いた俺は、扉に手をかけて深呼吸を何度もする。
そして気分を落ち着けると、ゆっくりと扉を開けた。
「……おはよう」
「おはよう、一之宮君」
「おはよう、帝」
教室にはすでに何人かいて、俺を見ると次々に挨拶してくる。
その大半が、親に言われてやっている。
小学生でもうすでに、家に左右されている人生。
それが宿命なので、こういう人達が最後に裏切るのは当たり前なことだと受け入れられる。
薄い関係性しか築けなかった、俺が悪いのだ。
もしかして、誰とも仲良くならなければ、裏切られたとしても、罵倒されたとしても傷つかなかったのだろうか。
裏切られても、当たり前だと思えただろか。
でも今の俺には、裏切られたら辛い人が増えてしまった。
父親、弟、美羽、御手洗……桐生院先生でさえ、冷たい視線を向けられたらと考えるだけで胸が痛くなる。
いつの間にか、大切なものがたくさん出来ていた。
それは心強くもあるし、同時に俺を追い詰める可能性もある。
そうなると、これから俺がやろうとしていることは自分の首を絞めているのと同じなのかもしれない。
止めるべきか。
一瞬そんな考えが胸をよぎったけど、俺は御手洗を信じて突き進む。
足がすくみそうになりながら、俺は獅子王の元に近づいた。
入ってきた時から、昨日と同じように俺に強い視線を向けてくる姿は、俺には嫌われているようにしか映らなかった。
それでも、俺は笑顔をキープしたまま、獅子王に話しかける。
「おはよう、獅子王君」
ここからが、俺の腕の見せどころだ。
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