25:他のキャラ達と自己紹介をしましょう
「ねーねー」
「聞いている?」
教室の中にいたのは、担任である桐生院先生と隣の席の美羽だけではない。
あと3人、キャラの幼少期がいた。
そしてその内の2人に、何故か俺は絡まれている。
それが庶務か風紀委員長のどちらかというと、2人いるという時点で分かるはずだ。
「えーっと、俺に何か用かな?」
「んー?」
「んんー?」
話しかけているくせに、何か話題を提供するわけでもない双子。
未来の生徒会庶務である、
成長してからも似ていたが、小学生の今はほとんど同じにしか見えない。
ふわふわとしたくせ毛は地毛なのか明るい色で、猫みたいに好奇心旺盛な瞳、俺よりも小さく5歳になった正嗣と変わらない身長だ。
天使のような見た目だけど、中身はそんな可愛いものでは無いと、俺は知っている。
「うわー、近くで見ると格好いいね。ねえ夕陽」
「キラキラオーラ全開だあ。物語の中から出てきたのかも。ねえ朝陽」
俺の顔の何が面白いのか、ものすごく近い距離で観察してくるので、いくら美形だと自負していても居心地が悪かった。
「俺は物語の中から出てきたわけじゃない。2人と同じ人間だ」
「えー、それなら名前はなんて言うの?」
「現実の人間だったら言えるよね」
「……一之宮帝」
一緒に口を開かないと会話が出来ないのか、交互に話すので、どちらに視線を向けたらいいのか迷ってしまう。
話している人の目を見る、そう教育されているから、何だか落ち着きのない人みたいに首を左右に動かすしかない。
「一之宮って聞いたことがあるね。朝陽」
「ものすごい大きい会社だって、パパが言っていたよね。夕陽」
「それじゃあ、仲良くしておいた方がいいんじゃないかな」
「そうだね。その方がパパもママもきっと喜ぶよね」
コソコソと内緒話をしているにしては、声が大きい。
完全に全て聞こえているのだけど、もしかしてわざとなのか?
「よろしくね、帝君。僕は西園寺朝陽だよ」
「よろしくね、帝君。僕は西園寺夕陽だよ」
全く同じ顔が、同じ声で、ほとんど同じことを言う。
そのせいで、何だか下手な作り物の動画でも見ている気分だ。
完全に打算的な考えで友達になろうと言ってきているが、俺の知っている双子の性格からして、これが自然なのかもしれない。
「ああ、まあ、ほどほどによろしく。朝陽君と夕陽君」
「ほどほどにだって、どう思う?」
「友達は友達だからいいんじゃない?」
普通に面倒なタイプだけど、幼い容姿のおかげで半減している。
とりあえず、友達という肩書きをゲットして満足したようで、そのまま2人は手を繋いで去っていた。
まるで台風でも過ぎ去ったかのように、少し疲れた。
授業が始まるまで何分かあるが、ゆっくりしている余裕はない。
「……あれ、どう処理しよう?」
桐生院先生と話している時も、美羽と話している時も、双子と話している時だって、それを感じていた。
「どう考えても、俺の事を見ているよな? 被害妄想とかじゃないよな?」
もしも視線で人を殺せるとしたら、俺はもう何十回も死んでいる。
そのぐらい、その視線は強く俺に向けられていた。
あまりそちらの方を見ないようにしていたけど、そろそろどうにかしなくては。
俺は残りの時間を確認し、視線の主の元へと近づいた。
「えーっと、俺に何か用かな?」
用があると分かっていて、あえて聞いた。
なるべく優しくを意識したから、そんな嫌な感じには見えないはずだ。
まずは下手に出るに限る。
そういう風に、話しかけるのでさえ気を遣うぐらい、その人に対し苦手意識を持っていた。
初対面の時の正嗣と同じぐらい、今とてつもなく緊張している。
「確か名前は……
正嗣と争うほど、将来俺の敵となる風紀委員長の
11年後の未来で、俺がリコールされるように、ほとんど全てのことをしたのが獅子王だった。
転入生が来る前から、俺と獅子王の関係性は最悪だった。
顔を合わせれば悪口を言い合い、酷い時には殴り合い。
犬猿の仲だと周りに言われるぐらい、それはそれは酷かった。
そんな関係になるには、それ相応のきっかけがあるものだが、物語の中では一度も触れられることは無かった。
そういうわけで、獅子王もどこに地雷があるか分からない、危険人物なのである。
実際、視線を感じ無かったら、知り合いにならないように避けるつもりだったのだけど。
あそこまで見られたら、さすがに声をかけるしか無かった。
すでに、なにか嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
もしかして存在しているだけで、俺は獅子王に不快感を与えているのか。
そうだとしたら、仲良くなることは無理だと諦めるしかない。
出来れば、肩に虫やゴミがついていたとか、そういうことであってほしい。
話しかけた今もなお、強い視線のままな獅子王に、あまりにも無理そうな願いを祈る。
俺の顔をじっと見て、獅子王は微動だにしない。
11年後、俺と同じぐらい成長し、名前の通りライオンのようなワイルド系イケメンになる獅子王は、小学生の段階ですでに面影がある。
意思の強い目は、何も悪いことはしていないのに、謝ってしまいそうになる。
そんな目が、真っ直ぐに俺に突き刺さっているのだ
ものすごく怖いし、何か言いたいのならはっきりしてほしい。
死刑執行待つように、俺は獅子王が口を開くのを待っていた。
「……らねえ」
「え? ごめん、よく聞こえなかった」
それはとても小さすぎて、俺はもう一度聞き返す。
その瞬間、目をつりあげた獅子王が叫ぶように言った。
「お前、なんか気に入らねえ!」
そしてそのまま、もうすぐ授業が始まるというのに、教室から出ていってしまう。
「え、えー……」
取り残された俺はというと、あまりのことに言葉が出なかった。
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