小学生編

24:小学生でも平穏なわけがありません




 あれから1年近く経ち、俺は小学生になった。

 ということは、義務教育なので小学校に通えるというわけだ。


 家族や使用人以外の人間と、ようやく交流が持てる。

 それは俺にとって、待ち望んでいたものだった。



 一年の間に、自分の未来について色々と考えた。

 一番の目標は、勘当されず破滅をしないというもの。

 でもそれが無理だとしたら、その先どうするかを計画のうちに入れるようになったのだ。



 ある日いつもの様に、どうすれば破滅せずに済むかと考えていた時、ふと思った。


 別に勘当されても、そのまま死ぬとは限らないんじゃないかと。


 確かに、今のような贅沢な暮らしは出来ない。

 でも前世では一般人だったのだから、贅沢な暮らしが出来なくても、別に構わなかった。

 むしろ、自由な生活を手に入れられるかもしれない。


 そう考えたら、そっちの方が魅力的に感じてきた。

 健康に生きてさえいれば、そして手段を選ばなければ、働いてお金を稼ぐことは出来る。


 この顔の良さを利用して、ホストや芸能界に進出するのも手かもしれない。

 目指せナンバーワン。志は高くだ。


 こんな感じで、なんとかなるんじゃないかと思ったら、気持ちが随分と楽になった。

 とりあえずは人間関係を頑張るけど、家を出るのも一つの手なのかもしれない。


 そういうわけでキャラとも仲良く、自立を目指し、そのための通過点として俺は小学校に通うのを楽しみにしていた。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




 そのはずだったんだけど。


「……なんか、いっぱいいる」


 ワクワクしながら入った教室に、見覚えのある顔がいた。


 美羽に、庶務の双子、風紀委員長。

 極めつけは、


「……どうしているんですか? 桐生院さん」


「つれないなあ。真司先生♡って呼べばいいだろ。帝になら許すから」


「あ、あはは……」


 何故か担任として、桐生院さんが教卓に立っていた。


 完全に展開としておかしい。

 桐生院さんは、薔薇園学園で転入生の担任をするまで、接点がなかったはずなのに。


 まだ俺は好みの範疇に入っているようで、とろける笑みを向けてる。

 たまに連絡を取り合っていたけど、最近会うことは無かったから、興味を失われたのかと思っていた。


「いやあ、帝の行く学校を教えてくれる条件がさ、入学までの接触禁止なんて酷いよな」


 それを教えたのはもしかしなくても、俺の執事の御手洗だろう。

 現在も俺の執事を継続している彼は、俺の知らないところで勝手に交渉していたらしい。


 味方なのか敵なのか、いまいち判断出来ないことをたまにしてくるから、今のところ一番の要注意人物である。


「元々先生になろうとは思っていたけど、もう少し他のことをする予定だったんだがな。でも帝がちょうど小学校に入るって言うから、ちょうどいいタイミングだろ」


「あはは、楽しみだなあ」


 軽いストーカだ。

 でもショタコンを除けば、いい先生なのは知っている。

 だから多少思うところはあったけど、嬉しさの方が勝った。


「これからよろしくお願いします! 桐生院先生!」


 サービスも込めて、一番の笑顔を向ければ、桐生院先生の顔が赤くなり鼻血まで垂れた。


「帝は可愛く成長したなあ。生で見られなかったのは残念だが、これからは合法的に見られるからいいか」


 早くも優しくしたことに後悔しそうな言葉に、俺は自分を守るために聞こえないふりをする。

 ショタコンに目をつぶればいい人。

 ショタコンに目をつぶればいい人。

 呪文のように心の中で繰り返して、俺は桐生院先生を受けいれた。


 他にも、処理しておかなければいけないことが、山のようにある。

 今は桐生院先生だけに、構っている場合じゃなかった。


「帝! 一緒のクラスだね!」


「ああ、うん。美羽も久しぶり」


 小学生になっても、まだ女の子と勘違いされそうな美羽は、どうやら席が隣りになったみたいだ。

 そんな偶然があるのかと、俺は神様に尋ねたくなった。


 でも知り合いがいるのは、心強くもある。

 やはり誰も知らない中で、友達を作るのは純粋な子供でない俺にとって、ハードルが高い。

 友達が1人でもいれば、そこから数珠繋ぎに友達を増やせるはずだ。たぶん。


「小学校、帝がいるのなら楽しくなるね。一緒の学校に通えるの、すごく嬉しい」


 美少女顔にはにかみながら言われると、少し照れくさくなってくる。


「俺も嬉しい。これからよろしく」


 俺は手を差し出して、握手をする。

 初めて会った時よりも、大きくなった手に成長を感じた。


 やはり、ここは俺にとって現実の世界になっている。

 誰かが作った物語に縛られないように、これから小学生として頑張っていこう。


「み、帝?」


 考えていたせいか、握手をし続けていたようだ。

 顔が赤くなった美羽が、ワタワタと慌てている。

 その姿は小動物みたいで、ちょっと面白かった。


 意地悪でそのままにしても良かったが、これ以上するとキャパオーバーしてしまいそうだ。

 ただでさえ、どんどん顔が赤くなっている。

 このまま茹でダコになってしまうかもしれない。


「ああ、ごめんごめん。ちょっと、ぼーっとしていた」


「う、ううん。……別にこのままでも良かったけど……」


 手を離せば、名残惜しそうな顔をしていたけど、俺が何かを言う前に桐生院先生が間に入ってきた。


「おーい、そこ。俺抜きに青春をするな。……あ、でも美少年と美少年が触れ合う神々しい風景だったか。あー、そのままでもいいぞ」


「桐生院先生。話を進めてください」


「分かった分かった。今度な」


 頭のおかしいことを言い出す桐生院先生をスルーし、ようやく朝の会を始める。





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