07:パーティの前に落ち着きましょう




 5歳という年齢なので、俺はまだ学校に通ってはいない。

 かといって幼稚園や保育園には、セキュリティの問題上、預けてもらえなかった。


 世界をまたにかける一之宮グループは大きいだけあって、色々なところから随分と恨みも買っているらしい。

 そのせいで俺と弟は、つねに誘拐の危険性があった。


 だから、家で信頼している使用人や家庭教師に任せた方が、安全だと判断された。

 その結果、父親の仕事に関係した用事じゃない限りは常に軟禁状態である。


 もしも本当に子供であったなら、その生活に息苦しさを感じて、家を抜け出したりしたかもしれない。



 でも今の俺は、精神年齢的には成人済みだった。

 父親も使用人も、習い事をきちんと真面目にこなし、家に関してマイナスな行動さえしなければ、他に何をしても放置していてくれる。



 つまりは、やりたい放題というわけだ。

 それに気がついてから、俺がまず真っ先にしたことは、ネットで買い物をする許可を得ることだった。


 まだ5歳だから、パソコンを使用することじたい禁止される覚悟もしていたのだけど、むしろ早く仕事を覚えるようになれと歓迎された。

 もう仕事に興味が出てきたのかと喜ばれたので、すごく罪悪感が湧いたが、趣味のためだと深くは考えないようにした。


 そう、完全に不純な動機である。

 俺は不干渉なのをいいことに、ネット通販を活用し、自室に楽園を作り上げていた。


「ぐふ……ぐふふ」


 気持ち悪い声で笑ってしまうぐらい、その光景は圧巻だった。


 部屋にある本棚。

 そこの後ろに隠し扉を作り、そして俺以外が入ることのない隠し部屋を用意した。

 中には、とても人には見せられないようなラインナップの本が所狭しと並んでいる。


 どんなラインナップかというのは、俺が腐男子という点から、自然と分かるだろう。

 嬉しいことにこの世界でも、BLというジャンルは存在していて、前世と比べると量は少なかったが、それでも買えるだけありがたい。



 家の手伝いをした時にもらったお小遣いを元手に、俺はハイスペックな脳を活用して、投資を始めた。

 これがまさかの大成功で、俺の手元には何十倍にも増えたお金が残った。


 身の回りのものは勝手に用意されてしまうから、そのお金を全部趣味につぎ込んでも、全く困らない。

 そのせいもあって、部屋一面の本棚という結果に至った。



 勘違いされたくないのは、ただ趣味だけのために部屋を作った訳では無いということだ。

 趣味がバレるのも、もちろんまずいが、それよりもさらに駄目なのは前世の記憶を持っているのがバレることである。


 子供の妄想だと思ってもらえれば助かるけど、もし信じられてしまったら面倒くさい。

 きっと父親は、その知識を利用しようとするはずだ。


 仕事は嫌いなわけじゃないけど、それ以外にやりたいことがたくさんある。

 それにもしも勘当されたら、全てが無駄なことになってしまう。

 総合的に考えれば、誰にも前世の事を言わない方が、今は賢い選択だろう。


 そういうわけで、この隠し部屋には趣味の本の他に、前世に関わるものも隠してある。

 前にこれから起こることを書いた紙も、見つからないようにしまっている。

 念には念を。

 これがモットーだ。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 そして現在俺は、その部屋の中で気持ちを落ち着かせようとしている。


「……パーティ、嫌な予感しかしない」


 でも落ち着けるわけもなく、ため息が止まらない。


 パーティなんて、別にやらなくてもいいのに、体裁のために開かなきゃいけないらしい。

 お金持ちはなんて面倒くさいんだと思うけど、今はその一員なので何も言えない。


 ただパーティを開くのだって恥ずかしいから嫌なのに、参加するだろう人達を考えると、憂鬱になってしまう。


「絶対来るじゃん。みんなお金持ちだもの」


 未来の生徒会役員。風紀委員。親衛隊。クラスメイト達。

 もしかしたら、学園の理事長も来るかもしれない。

 そうなれば、その甥である転入生がついてくる確率が高い。


「さすがに全員に会ったら、ストレスで死にそうだ」


 同い年が多いので、みんなまだ小さいだろう。

 転入生に至っては、弟と同じ3歳だ。

 しかし子供だからといって、普通の子供とは違う。


 俺と同じぐらい家が大きいから、習い事をたくさんしていて、家からは自由に出られない状況のはずだ。

 でも彼らは、俺とは違い前世の記憶を持っていない。

 そうなると抑制された生活のせいで、とてつもなくひねくれた性格になっているかもしれない。


 精神年齢は大人だが、子供の相手が出来るタイプでもない。

 うるさければ、手か足が出てしまう。

 そうなったら、子供同士の喧嘩で済ませてもらえないのだ。

 最悪、親が出てくる羽目になる。


 だから出来るだけ、関わりたくないのだけど。

 さすがにパーティの主役なのだから、そうもいかない。

 きっと挨拶をしに来るだろうし、変に気を遣われたら、遊んで来いとでも言われそうだ。


「あー、嫌だな。何で、こんな大事なことを当日に言うのかな」


 もっと早く教えてくれれば、何かしらの対策が出来たかもしれないのに。

 何時から始まるのか分からないけど、心の準備をする時間にしたって足りない。


「もう、とにかく頑張るか」


 いつまでも隠し部屋の中にいたら、誰かが来ても気づかない。

 もし部屋に俺がいないとなると、大騒ぎになってしまう。

 その結果、部屋の存在がバレて、俺は13年を待たずに破滅する。


 もうなるようにしかならないと気持ちを切り替え、俺は癒しの隠し部屋から現実へと戻った。




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