12「夏のある日、風の魔導師が成人の儀式で」

 ごうごうと湿った強風が吹き荒れる中、本日成人の儀に参加する十数人の魔導師の卵達が一人の人物を見る。

 立派なくちひげも豊かな髪も、全く風に揺さぶられていない。卵達は一様にじわじわと汗をかくが、教官の魔導師はまるで新緑の季節に森林浴をしているかのように、爽やかな笑みを浮かべている。


「魔導師にとっての成人。それすなわち、自然魔素トゥーアエレメントを自在に操れるかどうかということ。君達の周囲には、どんな風が吹いているかな?」


 目に見えない風。それはどんな風か。抽象的すぎる表現でわかりづらい。しかし卵達は、それぞれが思い描く”風の姿”を捜す。

 湿っぽいなら、水分がある。強風だからかどがありそうで、材質も硬そう。

 教官に問われて考えていた卵の一人が、手を挙げる。


「今、この場にある風は、稲妻形です!」

「なるほど。君にはそう見えるのだね」


 自然魔素は、人によって感じられる形が違う。

 ここに、また新たな魔導師が誕生した。

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