10「春のある日、森の魔導師が仕事場で」

 魔導師は、自分と交代する同僚に起こされた。身支度を整えて向かうのは、魔滝渡マギトファルの仕事場。王都と森の都を繋ぐ、滝の前へ行く。


 平民、魔導師、王族の三種族が暮らすこの国は、都一つが一国ほどの大きさがある。その分住む人も多いが、魔導師だけが魔法を使えるのだ。平民と王族は、その身分に限らず一律に客となる。各都の魔導師が、客を滝の上や下へ送る。


 滝には魔力が注がれていて、魔導師は少し力を注ぐだけで客を運べる。薄い緑色の滝に手を添えた。

 先導係の賃仕事者アルバイターが、船の満員を告げてくる。客へ意識を向けると、かわいい女の子と目が合った。微笑を向けられ、こちらも笑顔を返す。


 桃色赤色、黄色や橙色。ついでに白色の小花を散らし、船を水の上からすくい上げるように、極太の蔓を上空――王都に繋がる滝の上に押し上げた。客の歓声はすぐに遠のき、代わりに鳥や蝶に運ばれている客が下りてくる。


 王都へ向かう客を見ると、まだまだ長い列ができていた。


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