09「4月3日、町娘が王の生誕祭で」

 町娘は、港から駆け足で王都の中心部へ行く。青の煉瓦れんが道を通って、水の広場へ向かう。普段は家業の手伝いで王都に来ることも、身近で魔法を見ることもできない。王の生誕祭と、秋ごろにやる年に一度の魔法大会しか、一日中自由に動き回れないのだ。

 町娘は、急にかげった空が気になって足を止めた。


「わぁっ……!!」


 町娘の上空を、翼をつけていない人――風の魔導師達が飛んでいる。提げたかごから、色取り取りの小花をいていく。ひらりひらりと風に乗った赤い花が、町娘の茶色い髪にふわりと舞い降りてきた。


「やった! 赤だ!!」


 王の生誕祭で撒かれる小花はいくつか種類がある。そんな中、頭上に舞い降りた花の色は願掛けに使われていた。


「もしかしたら、もしかするかも!!」


 町娘は、赤い小花を両手で胸に抱えて水の広場へ急ぐ。好きな人に会えるかもしれないとほんのり顔を赤くして、心を弾ませながら。


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