08「秋のある日、火の魔導師が工房で」

 左手に燐手甲アイゼフォン、右の親指に擦指甲ライブンガーを付けた魔導師が、肩に乗っていた赤い葉を落として壁に立て掛けられた梯子はしごを持つ。成人男性の二倍程長い梯子を、吹き抜けの手すりにかけた。上った先でもう一段上がり、空気循環扇ルフェンティを手動で回す。


 一階まで降りると、棚板が金網の棚からいくつかの骨を取った。これは食後の骨を乾燥させたもので、燐手甲の材料になる。

 骨を粉砕機に入れ、骨粉こつこになるまで待つ間に、もう一つの材料を手に取った。鉄鉱石を石の箱に入れる。燐手甲を擦指甲で擦って発生させた炎で鉄鉱石を溶かした。


「ふぅ……」

 空気を循環させているが、僅かな水分も過剰な風も、溶鉄作業のさまたげになる。そのため工房には窓がない。魔導師は、流れた汗を腕で拭った。


 粉砕機から骨粉を取り出し、どろどろに溶けた鉄の中に入れる。もう一度摩擦で炎を起こし、それが細長い棒状になるまで手を握っていく。指先の感覚だけで宙に浮く炎を操り、石の箱の中に炎棒えんぼうを差し入れた。

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