07「金曜日の夜、OLが会社で」

「アティントン、ヴェスパー、カシス・オレンジ、コモドール、サラトガ、ジン・トニック……」

 薄暗い部屋でぶつぶつとカクテル名を呪文のように唱えているOL。目の下にはクマがあり、何かに悩んだのかショートヘアはもじゃもじゃになtっている。


「青い珊瑚礁さんごしょう、午後の死、卵酒、舞乙女まいおとめ……」

 カクテル呪文を唱え続けるのは、彼女の机の上にはまだ大量の書類が置かれているからだろう。

 時刻は終電間際。どうせ休日には予定もないだろうと上司の嫌味付きで渡された仕事だ。そんな上司だから当然、終業時刻と同時にタイムカードを切られている。それなのに、オフィス内の様子を残す監視カメラの電源が切られることはない。


「レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ピーチ……」

 社畜同然の彼女が、カクテル名からチューハイ脳に移行するのも無理からぬことだ。


「ようやく一山終了……」

 長時間の入力作業は体が強張こわばる。しかし仕事は、彼女に休息を許さない。全て終わるのは、いつになるだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る