06「冬のある日、王位継承者が敵国の城で」

 石積みの城は、近くにいるだけで凍てつくようだ。城の歴史を感じられる隙間風は、冷えた体からさらに体温を奪っていく。


 任務は、女王の首をとること。

 年が近いことや身分のことから、寝首を搔くことも検討された。しかし甘い囁きや睦言は、性に合わなかった。

 だから今、一兵士として機会を窺っている。


『たかが女王』『お飾り女王』などと蔑視されていることを知っていた。うわさでも、実務能力は皆無だと聞いていた。


 戦争を早く終わらせるため、一人で奥まで進む。

 城のあちこちで剣戟音けんげきおんが響く中、女王はいた。傍らで眠る幼子の頭を撫でている。いつくしむように浮かべる微笑には、思わず目が奪われてしまう。


 ほとんど無意識に、足を踏み出していた。中庭には草花があふれており、ただ一歩、花を踏んでしまっただけ。

 それだけなのに、女王は優し気な雰囲気から一変し、こちらに敵意を向けてきた。

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