04「春のある日、冒険者が旅立ちの場所で」

 家の数は百余り。暮らす世帯は十数のみ。人が住まない建物は荒れていく。人が住む家以外の場所は、全てぺんぺん草が生えている。


 そんな街の一角で、冒険者が旅立とうとしていた。送る住民は、皆心配そうに見つめている。

 成人すると旅に出るのが慣例だ。しかし今は魔物が凶暴化していると風の噂で聞いた。


「じゃあ、行ってくる」


 生まれ育った故郷にいつまでもいられない。冒険者は旅立ちたくない気持ちを押し殺して街を出た。


 小石が転がる道を踏みしめて進む。

 世界を揺るがす魔物の数を少しでも減らせれば、故郷に錦を飾れるだろうか。


「誰か! 誰か助けなさいよ!!」


 未来に思いを馳せる冒険者の耳に届いたのは、甲高い声。辺りを見回しても、烏野豌豆からすのえんどう籬通かきどおしなどの野草ばかり。助けを求める人がどこにもいない。

 聞き間違えたとは思えない声をはっきり聞いたため、冒険者は『誰か』を捜して道を外れる。


「痛っ!! 乙女を踏みつけるなんてどういうつもり!?」


 足元に、烏野豌豆に巻きつかれている『ぺんぺん草』がいた。

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