第6話 部活勧誘とパセリラムネ

 4月8日。桜が満開で少し散り始めた頃。今日は高校の入学式だ。校門の前には人だかりができている。真新しい制服を着た新入生かと思いきや、サッカーのユニフォームを着た安永拳や体操部のユニフォームを着た城ヶ崎しげるの姿が。実はこの人だかりは新入生の部活勧誘のために集まった体育会系部活の上級生たちの群れなのだ。


 9:00。新入生たちが校門をくぐってきた。上級生は新入生に対して怒涛のビラ配りを始める。その勢いは新入生の行く手をさえぎるほどだ。大量に配られたビラの一つにはこんな宣伝が。


 本日午後1時より体育館にて

 体操部による新入生歓迎ショー

『体操戦隊 ジムレンジャー』開演

 体育館で僕と握手!


 一方、文化系の吹奏楽部でも新入生歓迎コンサートの準備をしているのであるが、部室では不穏な空気が流れていた。三日月モモと玉木がにらみ合っている。


「なんで、あたしがはずされるのよ!」

「昨日、サボったからだ」

「昨日だけじゃない!おとといまであたしが木琴パートでやるってことで練習してたじゃない。それをなんで?!」

「お前の代わりなんていくらでもいるから。別にいいよ」

「ちょっと、その言い方ひどくない!ねぇみんな」


 他の部員の同意を求めようとしたモモであるが、あたりを見回すと同調することなくモモに冷たい視線を送っていた。


「なによ、その目は!もういいよ!もう……」


 モモは目に涙を浮かべ、部室をそして学校を飛び出していった。勧誘合戦で人だかりができていたため、安永もしげるもモモが学校を飛び出していったことに気づかなかった。


 13:00。体育館には新入生・上級生が入り混じってかなりの人数が集まっていた。体育館には鉄棒やあん馬、平行棒が。これから体操部による新入生歓迎ショー『体操戦隊 ジムレンジャー』が開演されるのだ。盛大な拍手に迎えられ、ショーが始まった。


 日本を肥満と不健康で支配しようとする悪の組織「メタボル」は日々日本人たちを肥満や不健康にさせようと画策する。それに対抗するは体操で健康な肉体に鍛え上げられた精鋭「体操戦隊 ジムレンジャー」。今日もメタボルとジムレンジャーの熱い戦いを繰り広げられる。


 悪の組織「メタボル」が送り込んだメタボル超人「コテコテラー男メン」がある女子高生に向かって、


「ラーメン、つけめん、ボクイケメン!お嬢さん、コテコテのラーメン食べない?」

「ごめんなさい、わたしダイエット中なので」

「おう、ダイエットなんて健康によくないって。よく食べるほうが健康にいいって」

「でも、わたしラーメン好きじゃないし」

「いやいや言ってないで食べなさいよ」


 女子高生に無理やりラーメンを食べさせようとするメタボル超人。そこへ声が、


「待て、メタボル超人!ラーメンを食べさせてプリン体を増やそうとさせるお前らのたくらみ、このジムレンジャーが許さんぞ!」


 すると、五人の男が現れた。それぞれ決めポーズをとりながら、


「ジムレッド!」

「ジムブラック!」

「ジムブルー!」

「ジムイエロー!」

「ジムグリーン!」

「我ら『体操戦隊 ジムレンジャー』!」


 と自己紹介。するとメタボル超人は


「ええい、ジムレンジャーめ。またしても邪魔するか。やってしまいな!」


 と言うと、黒い全身タイツを着たメタボルの戦闘員が大勢あらわれた。

 襲い掛かってくる戦闘員に対して、ジムレンジャーは体操の技にちなんだ必殺技で倒していく。


「大車輪キック!」

「あん馬トルネード!」

「平行棒ダブルスピン!」

「ムーンサルトアタック!」

「十字懸垂チョップ!」


 残る敵はメタボル超人「コテコテラー男メン」ただ一人。ピンチになっているのにもかかわらずメタボル超人は不敵に笑っている。


「ふははは。これでお前らもおしまいよ。くらえ『コテコテラーメン光線』!」


 メタボル超人が手をかざすと、おいしそうなコテコテのラーメンの匂いがしてきた。


「ああ、いいにおいだ……ラーメン食いてぇ」

「しっかりしろ、イエロー!よし、みんなあの技でいくぞ!」

「おう!」


 リーダーのジムレッドの呼びかけに応じて、ジムレンジャーたちは体操の最後の決めポーズをとった。


「必殺『ビクトリーフラッシュ』!」


 説明しよう。ジムレンジャーの健康な肉体美で繰り出される決めポーズはメタボリック体型のメタボル超人には致命的な精神ダメージを与えるのだ。


「いやー、自分の体型が恥ずかしくなる~!おぼえとけよ、ジムレンジャー」


 恥ずかしさのあまり、メタボル超人は顔を隠しながら走り去っていった。


 今日も悪の組織「メタボル」の手から日本人の健康を守ったジムレンジャー。明日も頼むぞ、ジムレンジャー。戦え、体操戦隊 ジムレンジャー!


 ショーが終わると観客がスタンディングオベーションで歓声と拍手を送った。そんな中ジムレッドが


「現在、ジムレンジャーは新しい隊員・体操部部員を募集しています。健康体になりたいキミ、ジムレンジャーとともにメタボルと戦おう!体育館で僕と握手!」


 鉄棒やあん馬を片付け終えた頃、紫のリボンをつけた女子高生がジムレッドに近寄ってきた。


「あのー、あたしジムレンジャーに入隊……いや、体操部に入りたいんですけど、マネージャーも募集してますか?」


 すると、ジムレッドは


「リーダー、マネージャー募集きましたけど」

「おお、わかった、ちょっと待って」


 やってきたのはメタボル超人を演じたリーダーこと城島しげるだった。


「じゃ、これ入部届なんで、クラスと名前とマネージャー希望と書いて明日体育館に持ってきてね」


 入部届けを渡すと、しげるは少女の姿に心奪われた。



 体育館で「体操戦隊 ジムレンジャー」が上演されている頃、グラウンドでは安田が所属するサッカー部が練習をしていた。こちらにも多くの新入生が集まっている。練習中、ボールが新入生たちの前に転がり込んでいた。すると、一人の女子高生が勢いよくボールを蹴りだした。ボールは見事に安田に当たった。


「いてっ」

「すみませーん。あ。昨日の先輩!どうもどうも」


 昨日入学式の日にちを間違えて学校に来た娘だった。彼女の手には昨日と同じようにおおきなペットボトルが。そのラベルにはこんな文字が


『パセリラムネ』


 22:00。学校を飛び出したモモは家に帰り、何も食べずに部屋に閉じこもっていた。携帯電話が突然鳴り出した。携帯をとると日向夏子ことなっちゃん先輩からだった。


「どうしたの、モモ?学校飛び出したって聞いたけど」


 モモは涙声で答える。


「なっちゃん先輩。最近、部活の中で居場所が無くて……。あたしやめたい……」

「ちょっと、待ちなさいって。音楽好きなんでしょ?簡単にやめるなんていっちゃだめだよ」

「音楽は好きだけど、でも……いまのままじゃ嫌いになっちゃうかも……」

「うーん。じゃ今度会おう。二人でじっくり話そうよ」

「はい、わかりました。電話ありがとうございます」


 モモは電話を切ると、涙で枕を濡らした。

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