09「魚夙 -ごしゅくー」

 深い青の中に、ぽっかりと浮かび上がっているように見える。長い年月を経て砕かれた数多くの貝殻が、三日月みかづきのように弓なりに集まってできた浜辺。白く反射する様子は、まるで地上に輝く月のようだ。


 山間やまあいの町には、生活に便利な店が揃っている。その中でもホームセンターのたぐいが多いのは、海からの風や砂に対応するためか。それとも周囲に自然があふれているからか。はたまた、ゴルフ場がいくつもあるからか。


 海沿いには、民宿、ホテル、旅館が立ち並ぶ。少し道を入ると神社や寺もある。その内の、高架線の下をくぐった先にある寺は、山の麓にあった。防空壕跡もあるその寺は、平地だけでなく、少し上の、石段を登った場所も墓地としている。中腹ちゅうふくは開けており、小さいがお堂も建てられていた。


 お堂の先には、さらに上へ行ける石段。幅の違う段を一つずつ登って行った先には、整備された露台。歩くたびに鳴る木の音が楽しい。

 露台の先端に行く。手すりに手を置いて、眼下の海と浜辺を眺めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る