08「魔王」

 格子がめられただけの明かり窓がある。それは位置が高すぎて、まるで部屋の主に外の様子を知られまいとしてるかのようだ。

 唯一の窓からは明るさは望めず、蝋燭ろうそくのぼんやりとした小さなあかりしかない。


 薄暗い部屋の中にある執務机には、魔王の蛮行ばんこうが書かれた新聞がある。月に一度発行される紙面には、「魔王、自分に従わない村を焼き払う」「町から消えた娘の行方――魔王の居城が有力か」「孤児院を訪問。姫の微笑みで孤児院が活気づく」等々、『魔王の悪行』と『姫騎士の活躍』が載っていた。


 ほのかに照らされる石の壁には、王族の絵姿が何枚も貼られている。顔が焦げていたり、×印がつけられていたり。中でも、唯一の姫である娘の絵姿には、ナイフが突き立てられていた。


 魔王の『悪』がえるような意図的な紙面。

 魔王を閉じ込めておく牢獄のような部屋。


 ――ここはきっと、【濡れぎぬを着せられた魔王】の部屋。

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