第8話
「誠司、もう打ち合う力は無いやろ。だから…一発や!お前の全部をぶち込んでやれ!」
力強く頷いた後、勝負の第四ラウンドへ。
持ち上がらない足を無理矢理動かし、爪先を擦りながら進み出た。
こちらの放つ緊張感を感じ取ったか、向こうも警戒しリング中央最後の駆け引きが始まる。
「……はっ…はっ……はっ………ふぅ………」
ピリピリとした緊張がお互いの間に流れ、徐々にそれは会場にも伝わりざわめきが広がっていく。
互いの全てを賭けたフィニッシュブローをぶち込む為に、コンマ一秒の隙を探り合っていた。
そして、一瞬の静寂。
「………ジィッ!!」
放ったのは渾身の右。
相手が伸ばした腕に反応して放たれた勝負の一発だったが、それはこちらを誘う為のフェイントだった。
当然その隙を逃す事など有り得ず、伸ばした右腕の内側を抉る様にして相手の狙い澄ました左ストレートが正確に顎を貫く。
「……っ!!?」
鋭い痛みが脳に走り、全身を雷が駆け巡る。
(負けられ…へんの…や。まだ…やれ…る。)
何故か、今までの母との思い出が走馬燈の様に駆け巡った気がする。
父に苦しめられて、それでも俺には辛い顔は見せなかったこと。
おかしな関西弁講座の毎日。
何をやっても長続きしなかったこと。
それでも俺を応援してくれたこと。
試合の時大きな声で応援してくれたけど、少し恥ずかしかったこと。
もっと一緒にいたかったけれど、もうすぐいなくなってしまうこと。
思い出していた。
今まで母と過ごした日々を。
いつも俺を守ってくれたその姿を。
支えてくれたその姿を。
そう、俺は、今も昔もお母さんが大好きだった。
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