第86話

 ミサイル発射の2時間前。


「アルファリア様、オ館様ヨリ2時間後ニ発射予定デアルト、連絡ガアリマシタ。」


 サスケからそう報告を受けるアルファは、


「着弾までどれくらいだっけ?」


 そう確認する。


「発射カラ着弾マデ、約3時間デス。」


 サスケの返答に、


「そう。併せて5時間ね。」


 そう呟き計算する。

 普段は見せることのない、極めて真剣な表情である。


「2時間で作業を終わらせるわよ。

 そして、3時間で世界樹ユグドラシルから可能な限り離れる。

 いいわね?」


「承知致シマシタ。」


 佑樹のことだから、世界樹のみの破壊にとどめるとは思う。だが、ランマルたちはどうだろうか?

 彼らロボットたちは、佑樹に絶対の忠誠を抱いている。いや、正確には抱くように製造されている。

 だから心配は要らないはずなのだが、アルファリアから見てランマル、ボウマル、リキマルの側近ロボットに自我が生まれ始めているように感じられるのだ。

 佑樹への忠誠は揺るがないにしても、忖度する可能性を考慮した方が良いように思える。忖度して、佑樹が指示した以上の破壊力を持たせる可能性を考えた方がいい。


「それと、離れる時には可能な限りでいいから、神代ハイエルフたちも退避させて。」


「ワカリマシタ。

 デスガ、ソノ際ニハ手荒ナコトモスルコトニナリマスガ?」


「死なさなければいいわ。

 こっちにも医療班がいるのだから、手足が切れたって繋げられるでしょ。」


 天使とは思えない発言だが、サスケはうやうやしく頭を下げることで了解の意を示す。

 たしかに、ルヴィリアたちと共に派遣された医療班がおり、その能力は再生医療にも及んでいるのだ。


「クマグス、使えそうな枝はどれだけ収穫できたの?」


「三〇本、収穫シマシタ。

 デキレバ、アト二〇本クライ獲リタイノデスガ。」


 クマグスの返答に、


「そこらへんの枝じゃダメなの?」


 アルファはそう疑問をぶつける。

 世界樹ユグドラシルは、樹勢も良く大樹の風格を見せているようにみえるのだから、どこの枝でも使えそうではないか。

 だが、クマグスは大きく首を横に振る。


「アルファリア様。

 ココマデ登ッテクルマデニ、樹洞うろガ無数ニ有ッタノヲ覚エテイマスカ?」


「ええ。

 中に魔物が入ってるのもあったわね。」


 樹洞うろにいた魔物たちは、サスケらに瞬殺されてはいたのだが。


 クマグスはアルファに説明をする。


 樹洞うろのある樹木は、一見すると樹勢も良かったりするのだが、問題はその樹洞うろがどのように作られたかなのだ。

 樹洞が作られる主な原因は、腐食や虫食い、細菌感染などがある。

 本来ならもっと詳しく調査したいところなのだが、残念ながら今回は時間が無い。

 そのため、樹洞うろからなるべく離れた場所にある枝を採らなくてはならない。

 そのために時間がかかるのだというのが、クマグスの説明である。


「なんとなくだけど理解はしたわ。

 時間いっぱいまで採取して。」


 アルファは改めてクマグスに命じた。



 ーーー



 計画の成功率を高めるため、クマグスの選別は非常に厳しいものとなっている。


「クマグス、もう退避するわよ。」


 アルファの言葉に、


「ワカリマシタ。」


 と答えるものの、どこかまだ調査をしたいような雰囲気を漂わせている。

 とはいえ、クマグスもアルファの命令には従う。


 その様子を見たアルファは下に視線を移すと、


「何人集まってきているのかしらね。」


 そう呟く。


 神代ハイエルフたちにとって聖域ともいえる世界樹ユグドラシルで、余所者よそものが何かしているとなれば集まってくるのも道理だろう。

 ただ、目測で一万人以上集まっているのは想定外だったのだが。


 素直に下に降りても、サスケたち十勇士ならば十分に切り抜けられるだろうが、問題はクマグスが抱えている世界樹ユグドラシルの枝を無傷で運べるかだ。


 このまま世界樹ユグドラシルの上にいても仕方がないと、アルファが降りる決断をしようとした時、


「アルファ、こっち!!」


 世界樹ユグドラシルの上から声がかけられる。


「ペリア!!」


 世界樹ユグドラシルの上空には、ドラゴンの姿になった白竜ペリアとその部下がいる。


「ユウキから通信がきたよ!

 アルファとクマグスは、彼女の背中に乗って!」


 その言葉に従うように、一頭のドラゴンが降下してペリアたちに近づく。


「わかった。

 あとは頼むわよ。」


 アルファはそう言って、クマグスとドラゴンの背中に乗り込む。


「後は頼むわよ。」


 ペリアにそう言い残して、アルファたちを乗せたドラゴンは飛び去って行く。


「さて、ユウキからはなるべく殺すなとは言われているけど、荒事あらごとだからね。

 さっさと世界樹ユグドラシルから離れるならいいけど、そうじゃないなら相応の痛みを負ってもらわないとね。」


 ペリアは上空から見下ろしながら、小さく呟いた。



 ーーー



 世界樹ユグドラシルの周囲には、サスケとサイゾウが戻った十勇士と、それを取り囲む神代ハイエルフたちの睨み合いが続いている。


 神代ハイエルフたちとしては、相手を完全に包囲しているのだから一気に攻撃に出たいのだが、問題は相手である魔法人形ゴーレム世界樹ユグドラシルを背にしていることだ。

 これでは得意の弓や魔法は使いづらい。

 そのため、神代ハイエルフたちは包囲しつつも、攻勢に出られずにいた。


 その一方で、サスケたち十勇士は自分達が動くべき時を待っていた。



 ーーー



 サスケたち十勇士が待っていた変化は、神代ハイエルフたちの後方で始まっていた。


「長老衆!!」


 神代ハイエルフたちの、それぞれの部族の長老たちが集まっている居館に、そう叫んで駆け込んでくる者がいた。


「た、大変です!!

 赤竜ルヴィリアの魔法人形ゴーレムどもが、こちらに向けて進撃しています!!」


 そのしらせに、長老たちは狼狽する。


「馬鹿な!

 我らは、奴らの求めに応じて交渉に参加しておるてばないか!」


「そうだ!

 その交渉は、決裂したわけではないのであろう!」


 佑樹の元で行われていた交渉について、当然ながら彼らは何も知らない。

 ただ、エルメルには交渉を纏める必要はないことは、長老衆の総意として伝えている。


「赤竜ルヴィリアめのところに、抗議の使者を出せ!」


 慌てて送り出した使者だが、このことによって神代ハイエルフの長老衆は絶望を知ることになる。













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