第84話
天候に問題なく、ユキモリ指揮のもとに徹夜で準備が行われたロケットは、無事に打ち上げられる。
「思ったより簡単にできたものじゃな。」
サフィアの感想だ。
「そりゃ、技術的には水晶宮を攻撃したミサイルと同じだからね。
中になにを搭載するかの違いだけで。」
弾道ミサイルとロケットの違いは、ざっくりといえば搭載している物が爆弾かそうでないかの違いでしかない。
「ただ、あの打ち上げを見ても
「変わらぬじゃろうな。」
佑樹の言葉を即座にサフィアが否定する。
「我らはアレがいかに危険な物かを知っておる。
なにせ水晶宮を一方的に攻撃されたのじゃからな。」
だが、
だからあの攻撃の脅威を知らないし、ロケットの打ち上げが意味することにも想像が及ばない。想像が及ばない以上、変わりようがないというのがサフィアの言葉だ。
サフィアの言葉に、佑樹は苦笑しつつ首肯する。
「経験しなければわからない、か。」
それもそうなのかもしれない。
知らなければ、ロケットの打ち上げなど
「さて、戻るとするか。」
そう言うと、
最後にヴィルヘルミーネが乗り、
ーーー
天空の城に戻ると、アルファを呼んで話し込んでいる。
「別にいいけど、ちゃんと護衛は付けてくれるんだよね?」
「当然付ける。
サスケ達一〇体でいいか?」
真田十勇士の名を持つロボットを提案する。
アルファは少し考え、
「サスケ達ってことは、隠密行動でいいのよね?
それなら行くわ。」
佑樹の言葉を受け入れる。
「あと、クマグスも一緒に行かせるからな。」
アルファと真田十勇士、それにクマグスで合計十二。
「クマグス?
そんなのいたっけ?」
「居たよ。」
アルファの物言いに苦笑しつつ、佑樹は答える。
「博物学、生物学の
今回のことには欠かせない。」
「わかった。
行くのは今すぐ?」
「察しがいいな。
準備でき次第、行ってほしい。」
「りょーかい。」
アルファは佑樹に敬礼の真似事をして退室した。
そして、アルファと入れ替わりに入室して来たのがサフィアとウルリッカだ。
「アルファが喜び勇んで出ていったようじゃが、何かをいいつけたのか?」
優雅に佑樹の前のソファに座りながら、そう問いかける。
問いかけるサフィアの前に、ウルリッカがコーヒーを淹れたカップを差し出し、同じように佑樹にも淹れている。
そのコーヒーに、角砂糖を一個とミルクを入れて掻き混ぜながら、
「
そう答える。
「
「そう。
佑樹はここでコーヒーを一口飲むと、
「上手くいくかは、ほとんど“賭け”なんだよなあ。」
「賭け、とな?」
「そう、賭け。
園芸大国日本などというと、とても大袈裟に聞こえるだろうがこれは一面の事実である。
日本人からしてみると、園芸というとイギリス式庭園やそこから発展したガーデニングを思い浮かべるだろうが、日本庭園は日本書紀に記載されるほどの長い歴史を持っている。
そしてその長い歴史からもたらされた知識は、世界屈指と言っても過言ではないのだ。
「その園芸大国の知識が役に立たぬ可能性があると、そういうことかの?」
「
だけど、植物ではない可能性だってあるからな。」
この世界の常識が、地球の常識と同じとは限らない。
「お父さんの居た世界と違うかもしれないってこと?」
サフィアの隣りに座り、紅茶を飲んでいたウルリッカが首を傾げながら質問する。
「そうだよ。」
違うというなら、サフィアたち
「
「なるほど。
婿殿の考えは、
「まあね。」
佑樹は曖昧に答える。
「上手くいけば、
あくまでも上手くいけばの話だと、そう強調する。
そして、部屋の窓から見える空を見上げ、
「そろそろ、衛星が軌道に乗る頃なんだけど、報告はまだかな。」
そう呟くのだった。
ーーー
衛星が軌道に乗ったことの報告は、一〇分後にランマルから告げられた。
「全テノ衛星ガ、軌道ニ乗リマシタ。」
そう言ってランマルは、衛星が撮影したこの
「綺麗!!」
ウルリッカが大きな声をあげる。
「うむ。
確かに美しいものじゃな。」
サフィアもウルリッカに同意するように、感嘆の声をあげている。
「この写真を、皆んなに配ってやれ。」
佑樹がランマルに命じると、
「ワカリマシタ。」
と、一礼して退室していった。
ーーー
昼食時・・・
ランマルが配った写真は、佑樹の食卓の周りを喧騒に包み込む。
「本当にこれが私たちが住んでいる世界なのですか!?」
食事中の佑樹の元に、そう言って集まってくる。
「世界は平らなのではないのですか?」
この世界では天動説が主流なのかというと、
「なんじゃ、この世界が丸いことを知らなんだのか?」
サフィアがそう返したあたり、単に広まっていないだけかもしれない。
「でも、なんで丸いとわかったのですか?」
当然の疑問だろう。
「なに、随分と昔のことじゃが、若い
そうしたら、元の場所に戻ってきたということらしい。
「一人だけでは、嘘を言っているかもしれないのではありませんか?」
突っ込んできたのはアレシア。
万事において控えめな彼女にしては珍しいことだ。
「アレシアと同じことを考えた者がおってな。
幾人の
試した者たちの結果が全て同じだったため、
そんな会話が為されている間にも、衛星からの情報は天空の城に届いており、佑樹の手元にある端末にも転送されてくる。
「この星の全周は約六万四千キロか。
地球の1.6倍ってところだな。」
竜のような大型生物がいるのだから、それくらいの大きさはあって当然なのかもしれない。
「陸と海の比率は、おおよそ四対六。」
このあたりは、地球とあまり変わらないようである。
「なにを見ておるのじゃ?」
端末を見ている佑樹に、質問攻めにあっているサフィアが問いかける。
「衛星から送られてくる情報を見ていたんだよ。
観測を始めたばかりだから、大雑把なことしかわからないけどね。」
これらの情報が、何年にも渡って蓄積されていけば、この星のことがより深くわかるようになるだろう。
「まあ、今は衛星から送られてくる画像を楽しむことにするよ。」
そう言って端末を操作すると、食堂に備え付けられている大型モニターに画像が映し出される。
その画像に、その場にいる者たちは歓声をあげている。
唯一人、この場においても端に座り、佑樹の様子を見ているヴィルヘルミーネという例外がいるのだが。
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