第81話
ヴァレリーとの会談後、まさに
エケイからも報告を受けてはいるが、当事者でもあるヴェイニからの報告は、当事者ならではの想いが入っており、エケイからの飾り気のない報告との対比としても必要なものである。
「まだ纏まる気配はない、か。」
「はい。
ですが白エルフ、黒エルフともに本当の敵には気付きつつあるようです。」
「そうか。
「のらりくらりと追及を躱し、自分たちはなんらの責もないという態度を続けています。
それと・・・」
「それと?」
佑樹は先を促す。
「
今のところは、白エルフ、黒エルフともに拒絶しておりますが。」
「わかりやすい動きだな。」
佑樹は呆れたように言う。
「はい。
裏工作で丸め込む腹づもりでしょう。」
エケイらにも関与させないようにするのだろうと、佑樹は判断する。
「
佑樹は少し考えると、
「ボウマルに伝えておくか。
ーーー
ヴェイニが出た後も、佑樹は温泉にゆっくりと浸かっている。
季節は秋めいているようで、近くに見える山は紅葉が目立ちはじめ、夜風が湯で火照った身体に気持ちいい。
佑樹が残ったのは、この気持ちよさを堪能するためではなく、自分一人で居れば来るだろう人物を待つためだ。
「入っても宜しいでしょうか?」
非常に美しい声が脱衣所から聞こえて来る。
「どうぞ。」
そう答えると、ヴィルヘルミーネがおずおずと入ってくる。
服を脱いで裸というわけではなく、服を着たまま入って来る。
「湯浴みの場に、服を着たままで失礼いたします。」
「かまわない。
むしろ、裸で来たら興醒めしてしまったところだ。」
「サフィア様の言う通りにしてよかったです。」
「サフィアに会ったのか?」
「はい。脱衣所の前に居られました。」
「それでサフィアはなんと?」
「色香で籠絡するつもりならやめておけと。」
サフィアはよくわかっている。
困難を乗り越えるための助力を乞う時、物語では女性がその身を捧げるというストーリーがよく見受けられるのだが、佑樹はそういう物語を嫌う。
それは、女性を一つの人格として見ていないと感じてしまうからだ。そしてそういう行為を女性が進んで行うということが、裏に何かを企んでいるのではないかという疑念を強く持たせる。
サフィアは似たようなことをやってはいるが、そこにははっきりとした打算と、なによりもサフィア自身の覚悟がある。
だが、ヴィルヘルミーネはどうだろう?
一見すると覚悟があるように見えるのだが、実はそこに覚悟はない。
正確には、それだけの覚悟を持つにはその目的があやふやなのだ。
はっきりとした
「ヴィルヘルミーネ。
貴女はどこまで見たのか?
それを言わない以上、私は手を貸すことはない。」
先見の力で何を見て何を知り、何に絶望して何に希望を抱いたのか。
それを言わなければ佑樹としても、動きようがない。
そして、ヴィルヘルミーネも頑なにそれを話そうとしない。
それを見てとった佑樹は、湯からあがり脱衣所へと歩き出す。
ヴィルヘルミーネも佑樹を追おうとはせず、ただ見送っていた。
ーーー
「ヴィルヘルミーネとは、何か話したのか?」
佑樹の部屋にて、サフィアが差し向かいに座り酒を飲みながら尋ねる。
「内容のあるものじゃない。
あれなら、何もしない方がマシだ。」
手を貸せと言いながら、具体的な内容は何も言おうとしないのでは、不信感を増幅させるだけでしかない。
「先見の力で何を見たのか?
それさえも言わないのだからな。
何をしたいのか、さっぱりわからん。」
「婿殿にもお手上げか。」
サフィアは笑みを浮かべて言う。
「口にするのも憚られるようなことやもしれぬ。」
ヴィルヘルミーネを擁護しているようにも聞こえるが、これはただの憶測でしかなく、サフィアも擁護しているつもりはない。
そこに扉を叩く音がする。
「ランマルデス。
面白イ調査ガ出マシタノデ、オ持チシマシタ。」
中に入ってきたランマルに、内容を説明させる。
「
「・・・・・なに?」
ランマルの言葉の意味を理解するのに、たっぷりと時間が必要だった。
「どういうことじゃ、婿殿?」
意味がわからぬサフィアが、佑樹に説明を求める。
「
「それは、
「そういうことになるな。」
だが、そうすると
「神気、か。」
佑樹は呟く。
だが、白黒両エルフの居住地には神気は無い。
無関心、いや違う。
無関心なのではなく、自分たち以外のエルフなど滅べば良いとさえ考えていることだろう。
「
繋いでやろうじゃないか。
あちらの思い描く未来とは違うだろうけどな。」
佑樹はそう呟くと、ランマルを通じてボウマルに
「何をするつもりじゃ、婿殿。」
サフィアの問いに、
「
佑樹はそう答える。
「神気を持つことが他者を蔑む理由なら、その根源を絶たないとな。」
すっかり冷めたコーヒーを口にし、佑樹はそう明言する。
サフィアはその言葉に頷きつつ、
「婿殿よ。
もし、我らも同じように他者を蔑むような気質を持っておったなら、水晶宮を破壊したのかの?」
そう問いかける。
「しただろうな。
同じように生きとし生ける物、それらを下に見ていい道理は無いと思うからな。」
即答する佑樹にサフィアは苦笑するが、そんなサフィアを無視して佑樹は言葉を続ける。
「こんなことを言うのは、俺が日本人だからかもしれないな。
そういうものが根付いた国で生きてきたから。」
日本人は自分のことを無宗教だと思っている人間が多いが、実態は真逆と言っていいほどで、訪日した外国人は日本が宗教的な国であることに驚く。
自分を無宗教だと思ってしまうほどに、宗教が生活の中に根付いているのが日本だったりするのだ。
「なるほど。
婿殿のいた世界、国の宗教観、倫理観がそうさせるということじゃな。」
「なんだかんだ言っても、自分が生きてきた国の倫理観に縛られるってわけだ。」
自嘲気味に言う佑樹だが、
「婿殿はそれで良いのではないか?
主上様とやらも、それを期待してこの世界に送り出したのであろうしな。」
「そんなものかな?」
そう言いつつ、そんなものかもしれないとも思う。
ただ、今後も大きな軋轢を生み出しそうではあるが。
「それより婿殿。」
「なんだ?」
「この部屋には婿殿と
サフィアはそう言いながら、服をはだけさせる。
「久しぶりに良いであろう?」
「拒否権はあるのかな?」
そう言って
「そんなものある訳が無かろう。」
そう答えると、獲物に襲いかかるネコ科の猛獣さながらに佑樹に覆い被さるサフィア。
佑樹は明け方までしっかりと搾り取られるのだった。
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