第77話
ジェットエンジン四基搭載型の、亜音速大型飛行機二機に分乗した
巨大な鉄の塊(だと彼らは思っている)が空を飛ぶなどとは、いまだに信じられずにおり、座席で固まってしまっている。
その様子をヴェイニは、かつての自分たちを見るような思いで見ている。
ただ、自分たちが初めて乗った
「それにしても・・・」
と、ヴェイニは思う。
この場で少しでも会談を行えばよいのに、一向にその気配がない。
それは、
もっとも、ヴェイニもそれぞれの相手への不信感を持っているはずの存在なのだが、佑樹の元で少なくとも白エルフが人間に煽られた事実を知り、他の黒エルフに比べれば白エルフへの不信感は僅かながら和らいでいる。
その三者の前に、一体の
「私ハ、佑樹様ヨリ皆様ノオ相手ヲ致シマスヨウ命ジラレマシタ“エケイ”ト申シマス。」
そう
「ソノ書類ハ、人間タチガ白エルフヲ騙シテイタ事ヲ示シタモノデス。
到着マデニ、ヨク読ンデオイテクダサイ。
事ノ経緯ヲ知ラナケレバ、交渉ナドデキヌデショウカラ。」
書類を渡し終えると、エケイと名乗った
ーーー
ざっと四時間余りの空の旅。
エケイの渡した書類を読んだ白と黒、両エルフは互いの様子をちらちらと見ている。
それは書類の内容が、エルフ争乱の元凶である人間の奴隷商人の暗躍と、それを支援していた人間の国々の存在が明記されていたこと。しかも、その証拠書類の
そんなものを見せられたら、互いの見方が変わるのも当然というべきだろう。
とはいえ、仲介者となるべきはずの
そして到着したのは、天空の城ではなくユキモリが統治を任されている島だった。
「交渉の場は、天空の城ではなかったのか!?」
怒りの表情でそう言うのはエルメル。
彼ら
だが、佑樹が交渉の場として提示したのは、“誰の邪魔も入らぬ場所”とのみ伝えただけだったりする。
というより、佑樹として想定外だったヴィルヘルミーネの来訪により、彼女の存在をぎりぎりまで隠さざるをえなくなってしまったのが大きな要因である。
それだけでなく、天空の城で交渉を行うことによって佑樹が抱えることになるであろうストレスを、サフィアが心配して提案してきたという事情もあるが。
「ユウキ様の居城たる場で、無粋極まりない交渉をさせたくはないと、第一夫人たるサフィア様の御意向にございます。」
いつの間に機内に入っていたのか、一人の女性が通路に立っている。
エルメルら
「失礼いたしました。
私はサフィア様、しいてはユウキ様にお仕えするモスアゲートと申します。
既に顔を合わせておられるエケイとともに、皆様の交渉のお手伝いをするよう申しつかっております。」
モスアゲートと名乗った女性は深々と一礼する。
「彼女も、
ヨウシアが呟く。
人型になっているが、その存在感はルヴィリアやペリアに匹敵する。
だが、彼女から感じられる力はあの二人に遥かに及ばないようにも感じらる。
「それでは、こちらで用意いたしました交渉会場までご案内いたします。」
モスアゲートはそう言って外へと促す。
促されるままに外に出てタラップを降りると、大型バスが三台用意されており、エルフたちはそれぞれに分乗する。
そして連れて行かれたのは電気鉄道が待機している駅。
飛行機、大型バス、電気鉄道と続く、見たこともない代物の数々に、エルフたちは驚きの連続である。
自分たちの理解の範疇を遥かに超える、隔絶した技術力に呆然とさせられる。
そして呆然としたまま、電気鉄道によってこの島の中核である城に運ばれていく。
ーーー
エルフたちが到着した三時間後、島の空港に佑樹は
「このような乗り物、初めてです。」
ヴィルヘルミーネの言葉だが、彼女が天空の城に来訪した時はルヴィリアの部下に連れられて来たのだそうだから、飛行機は初めてである。
「先に着いているようじゃが、建設的な会談はできておるのじゃろうか。」
言葉だけを見れば心配しているように見えて、その口調は無理だろうと決めつけているのは、サフィアらしいと言うべきか。
「この島に来るのも、久しぶりですね。」
続いて降りて来たアレシアが、感慨深そうに言う。
「ここに、アレシアが薦める温泉があるのだな。」
グスマンが続いて降りて来る。
「早く楽しみたいものですね。」
エステラがグスマンの腕に自分の腕を絡めながら、楽しげな口調で話しかけ、グスマンは照れたようにそっぽを向いている。
「お父様、お母様。
早く車に乗ってくださいな。」
マリアナが呆れたように促す。
「ここが、機密が詰まった島か。」
エルッキが呟き、そして興奮している。
そしてイザベラとヘルミーネが、硬い表情で降りて来る。
「イザベラとヘルミーネも早く車に乗って。」
佑樹は乗車を促し、島の巡回へと向かう。
城には三日後に入る予定の巡回を行うのだった。
ーーー
エルフたちの代表者は、同じテーブルに着いてこそいるが、それぞれ腕組みをしておりなにから話すか考え込んでいる様子である。
そして部屋の隅に、エケイはまるで彫像のように静かに佇んで見守っている。
口火を切ったのは黒エルフのロヴァニエ族のカレヴィ。
「人間たちに唆されたとはいえ、なぜに我々黒エルフに対して攻勢を仕掛けたのか?」
白エルフに対してそう詰め寄り、
「幾度となく仲裁を求めたにもかかわらず、なぜに動こうとしなかったのか!」
そう
白エルフの代表者であるアクセリと、
その理由は両者で異なる。
白エルフとて、唆されていたことは理解しているのだが、根本的な理由として触れたくない内情がある。
人間たちの唆しに乗ったのは、黒エルフとの領域をめぐる境界問題が一つ。人間たちの手を借りることによって一気に解決したいと目論んでいた。
そしてもう一つ。
こちらこそが触れたくないことなのだが、黒エルフに対しての差別意識だ。
肌の色の違い程度の差異でしかないが、黒よりも白の方が上だという思い込みが、白エルフたちには根強く残っている。
そしてそのことを黒エルフたちもよく知っている。
知っているからこそ、この場でそのことを白エルフの口から言わせたいのだ。
言質を取ることで、今後の交渉を有利に運ぶつもりなのだろうか。
アクセリは考えるが、答えなど出てこない。
その一方で、カレヴィもこれでいいのかと内心で迷っている。
『思いの丈、その全てを叩きつければよいのです。
そうすれば、本当の敵が見えてくるはずです、我ら黒エルフと白エルフにとっての敵が。』
そうヴェイニに言われてはいる。
だが、本当にこれでよいのかと自問しつつ、会談は続いていく。
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