第76話
最古老の一人である自分が、なぜに得体の知れない相手の所に出向かなければならないのか。
「エルメル殿。
あまりに不機嫌な表情を表に出されては・・・。」
そう宥めるのはもう一人の長老ヨウシア。
正使がエルメルであり、副使がヨウシアである。
「ふん。
そんなこと、知ったことではないわ。」
子供じみた言い方をするエルメルに、ヨウシアは苦笑する。
いや、苦笑しかできないと言った方が正確かもしれない。
「使者殿は、随分と不機嫌なご様子。
そんなに行きたくないのであれば、お戻りいただいてもかまいませんよ。」
声をかけてきたのはルヴィリアだ。
エルメルの不機嫌な理由の一つが、この
白エルフと黒エルフの争いなど、放っておけばよいのに何故か武力介入をしてきた。
それも、ただ介入してきただけでなく、
この言葉通りに戻ろうものなら、
「
よって殲滅する!!」
となりかねないことを、エルメルは理解している。
「対話をせぬなどとは言うてはおらぬだろうが。」
ただの
目の前のルヴィリアと名乗る
エルメルを苛立たせるのは、この
「神気の得られる場所などそうはあるまいに、どこでそれだけの神気を得たのか・・・」
新たに神気の得られる場所を見つけたのだろうか?
そんなことはないはずだと、エルメルは首を振る。
「それにしても壮観ですなあ。」
今一人の長老ヨウシアは、ずらっと居並ぶ
戦闘用の
しかも、その一体一体が
「まるで、神々の物語に出てくるような存在ですな。」
ヨウシアの声が、どこか興奮しているように聞こえるのは長老衆の中でも最も若い部類の者だからかもしれない。
若いといっても、軽く一千年を超える齢なのだが。
「それにしても、迎えが来ると聞いていたのですが遅いですね。」
ヨウシアはそんな感想を漏らすが、
「約束の刻限は正午。
まだ二時間もあるよ。」
ペリアが指摘する。
そのペリアの言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をエルメルはする。
この
エルメルの方はというと、自分を無視するペリアにも腹立たしい思いを抱いている。
ペリアが暴れた時、
「それに、まだ白エルフたちが来てないのに、私たちを責めるのはお門違いじゃない?」
「そうでした。
まだ白エルフたちが来ていませんでしたね。」
ヨウシアはペリアに頭を下げる。
「まあ、いいよ。
来なかったら、そこにいるケンシンの部隊が白エルフたちを攻撃するだけだから。」
ペリアは事も無げに口にするが、それはそれで強烈な脅しになっている。
「いや、必ず来ますから、今暫くお待ちください。」
慌てて弁明するのはアルヴァー。
黒エルフとの戦いにタダカツ介入したために敗戦し、捕虜となった白エルフだ。
アルヴァーはペリアが暴れた後、渋々ながら争乱の介入に乗り出した
そうやってようやく停戦に合意し、そのための使節団を派遣させる約束をさせたのだ。
もし、その約束を違えたら?
目の前にいる
そしてその結末は・・・。
そこまで考えて頭を振る。
自分は最善と信じることを突き進むだけと、自分に言い聞かせる。
アルヴァーの願いが通じたわけではないだろうが、白エルフの使節団もようやく姿を見せる。
「これは
私がこの使節団の団長を務めますトゥオマスと申します。
お見知り置きを。」
トゥオマスと名乗る白エルフは、
白エルフたちの、
「たしか、白エルフたちも何度か
小声でペリアはルヴィリアに話しかける。
「ええ、その通り。
白エルフからも黒エルフからも、不信感しか得られぬ判断を下したというわけよ、
「ユウキはどうするつもりなのかな?」
「主殿のお考えは、ある程度は予想できますが、
二人のやり取りは小声であり、他の者たちには聞こえていない。
そこに、ルヴィリアたち以外の者には聞き覚えのない轟音が空から響いてくる。
その音はどんどん近づいてくる。
「迎えが来たようですね。」
轟音のする方向をルヴィリアとペリアは見上げ、他の者たちもそれに倣う。
轟音の元となったものは、ゆっくりと近づいているように見え、近づくに従ってその轟音も大きくなってくる。
それは工兵隊が築きあげた陣地の中に作られた、四〇〇〇メートル級滑走路に着陸する。
「エンジンが四つも付いているのですね。」
飛行機に使われている技術の詳細こそわからないが、かなり大雑把な部分ではルヴィリアたちも理解している。
エンジンが四つもあれば、飛行機も大型化できるし運べる物資も多くなる。
「しかも、二機も送ってくるなんて豪気なものだよね。」
ペリアは明るい声で言うが、
自分たちの知らない、考えの及ばない代物が目の前にやってきたのだ。
やってきた飛行機にタラップが取り付けられ、中から降りてくる者たち。
総勢五〇人の
「なるほどね。」
その姿を見て、ルヴィリアは佑樹の意志を察する。
「大丈夫かなあ、
こんなの見たら、卒倒しちゃうんじゃない?
それとも、頭が茹だっちゃうかな?」
ケラケラと笑うペリアも、佑樹の意志を理解している。
交渉が破綻したなら、即攻撃に入れということを。
ーーー
「これはどういうことだ!?」
ルヴィリアに詰め寄るのは、
彼もまた、ユウキなる存在の意志を理解した。いや、せざるを得なかった。
「どういうこととは?」
ルヴィリアの冷ややかな声。
「
エルメルは声を荒げて詰め寄る。
「はて?
エルメル殿が交渉を纏め上げられれば、それでよいだけのことではありませんか?」
ルヴィリアはにべもなくそう言うと、
「それとも、両エルフのための仲介交渉とは名ばかりで、纏める気が無かったとでも?」
そう畳み掛ける。
「そ、そのようなこと、あるわけないであろう!」
エルメルは平静を装って言うが、動揺を隠しきれていない。
「そう。
でも、時間があるとは思わない方がいいわ。
与えられる時間は、せいぜい一〇日ほどでしょうから。」
「!?」
「
ルヴィリアはそう言い残してその場を去り、エルメルはその後ろ姿を睨むことしか出来なかった。
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