第74話
「私の望みは、私たち
「未来を繋ぐ?」
ヴィルヘルミーネの言葉に佑樹は疑問を抱くが、視界の隅に映るサフィアが小さく頷いている。ということは、
「神気、か。」
確か、サフィアたちがこの城に来たばかりの時に、自分から神気を感じると言っていた。
その神気がなんなのかはわからないままだが、おそらくはそれが重要なことなのだろう。
「はい。
その神気が失われつつあるのです。」
ヴィルヘルミーネはそう言うが、佑樹はその“神気”というものがどれほど貴重なものなのか、理解できていない。
「失われつつある、か。
なら、まだ残っている場所もあるわけだ。」
理解できていない佑樹は、興味無さげに呟く。
「神気が残っている場所は、
「そして、この天空の城じゃ、婿殿。」
ヴィルヘルミーネの言葉をサフィアが引き継ぐ。
「この天空の城は、他の場所に比して濃密な神気が溢れておる。
ヴィルヘルミーネはルヴィリアからそのことを聞いて、
思わず流しそうになるが、気になった点が一つ。
「ヴィルヘルミーネ殿と、サフィアたちは知り合いだったのか。」
「そうじゃ。
ペリアとジェタはないがな。」
サフィアが答え、
「白エルフと黒エルフの争いに、
ヴィルヘルミーネが補足する。
「それ、嘘だよね。」
意外な人物から出た指摘の言葉。
「嘘?」
佑樹はアルファを一瞥し、呟く。
アルファの表情はいつになく真面目なものであり、だからこそ
「全てが嘘というわけでも無いでしょうけれど、何かを隠すなら佑樹は貴女に力を貸すことはないよ?」
口調も普段と違い、威圧感さえ漂っている。
「申し訳ありません、天使様。
ヴィルヘルミーネは深々と頭を下げている。そして、その肩が小さく震えている。
「アルファ、そこまででいい。」
佑樹の言葉に、
「え?
もういいの?
私もタマにはもっと活躍したいんだけどなあ。」
表情も口調も元に戻り、
「ね、ね?
私もやる時はやるでしょ?」
と、子犬のように佑樹にじゃれつこうとするが、
「くっつくな、この駄天使っ!」
と、ガードされている。
佑樹はアルファを腕を伸ばしてガードしつつ、ヴィルヘルミーネが隠そうとしたのは“先見の力“なのだろうと推察する。
先見の力というのは、予見という言葉があったことから予知能力なのだろう。
未来を予見する能力というのは、良い能力のように思われがちなのだが、実はそうではなかったりする。意外と予知能力は気味悪がられたり、酷い時には嫌悪されたりするものだ。
ギリシア神話やオデッセウス、トロイ戦争に出てくるトロイの王女カサンドラは、太陽神アポロンの呪いということもあるがその能力を忌避されている。
「隠していたのは“先見の力”のことだけか?」
正直に答えるとは思わないが、念のための確認だ。
「はい。
先見の力のみにございます。」
よほど、さっきのアルファが怖かったのか口調まで改まっている。
「自分たちに未来がない、そう捉えたのも先見の力か?」
「その通りでございます。」
どんな未来が見えたのか、気にはなるが聞いたところで自分に何かができるとは思えない。
だが、ヴィルヘルミーネは佑樹の思っていることなどわからぬまま話し続ける。
「私たち
神気を完全に失った
話を聞いても、佑樹としては同情する気にすらなれない。
むしろ、そこまで見えているのならなぜ、エルフの争乱を治める方向へと向かわないのか?
白、黒両エルフたちと協力すれば、人間たちにも対抗できるだろうに。
ただ、ヴィルヘルミーネの沈んだ表情から、
「カサンドラと同じか・・・」
そう察する。
カサンドラは兄パリスがスパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーを攫ってきた時、巨大な木馬を城内に引き入れる時も反対したものの、受け入れられることはなく滅亡への道を止められなかった。
おそらくは、目の前のヴィルヘルミーネも言葉を尽くして長老たちを説得しようとしたが、受け入れられなかったのだろう。
考え込む佑樹をよそに、アルファが呟く。
「
と。
「どういう意味だ?」
すかさず佑樹は反応したが、アルファの呟きが聞こえていなかった様子のサフィアとヴィルヘルミーネが
なので、佑樹は二人にもわかるように、
「
そう言い直す。
「
「
ヴィルヘルミーネが身を乗り出さんばかりに詰め寄る。
「えーっと、佑樹。
佑樹の世界では、川に堤防を築いた時に木を植えたりするよね?」
助け船を求めるように、アルファは佑樹を巻き込むために話を向ける。
「ああ、現代でやるかはともかく、堤防の強化のために木を植えることはあるな・・・」
佑樹は少し考え、
「
と、力無く口にする。
「なにかわかったのか、婿殿よ。」
サフィアが答えを促す。
「
そして、この世界が崩壊することがなくなるほどに固められれば、その役目を終えて消滅する
「ということは・・・?」
「
それを聞いたヴィルヘルミーネは、
「
無駄なことをしていた、無駄なことを自身の
ヴィルヘルミーネの言葉には、そんな思いが滲む。
「さあ、それはこれからの
“そんなことはない”とでも慰めるのが本来なのかもしれないが、佑樹はそんな無責任なことはできない。
「
どちらを選ぶかは、それぞれが決めることだろう。」
選択は各自ですることであり、佑樹が押し付けるものではない。
今までの
「厳しい、ですね。
サフィア殿から聞いていた話とは違います。」
どこかほっとしたような口調だ。
「なにを言うか。
婿殿は優しい御仁じゃぞ。
だからこそ、エルフの争乱に手を突っ込んでおるであろう。」
さも心外だとばかりに、サフィアが口を挟む。
「そうでしたわね。」
ヴィルヘルミーネも、表情を柔らかくして微笑む。
その様子に内心で安堵しつつ、佑樹は考え込む。
未来を予見されながらも、その者の言葉を貸さない者たちとどう対するか。
「頭の痛いことだな。」
そう呟いていた。
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