第27話
卵パーティと名付けた催し。
各家の料理を持ち寄っているのだが、かなり重複している。
「ユウキ。
ユウキのことだから、なにか狙いがあるんだよね?」
その料理の数々を見ながら、ペリアが佑樹に問いかける。
「まあね。」
佑樹の狙いは、この世界の調理法の確認だ。
卵という食材は汎用性がとても高く、卵料理となればそのレパートリーは無限ともいえる。
だが、それでも調理法が制限されれば、そのレパートリーは激減していく。
それを検証していけば、この世界の料理法がどこまで存在するのかを知ることができるし、そこからこの世界の文化の進み具合を推し量ることができる。
「料理人らしい発想というべきですね。」
とは、いての間にか隣に立っているルヴィリアの言葉。
「向こうの世界で料理人だったのは、間違い無さそうじゃな。」
サフィアの言葉に、
「疑ってたのかよ。」
と、佑樹は抗議するような口調で言うが、
「そうではない。
お主は記憶の一部が欠落しておると言うておったであろう?」
たしかにその通りである。
一部とはいえ記憶が欠落している以上、そういう疑念を持たれていて然るべきだろう。
そんな話をしている佑樹たちの前に、各家の料理人たちが集まり、
「これほど多量の食材を提供してくださり、ありがとうございます。」
一斉に頭を下げる。
卵だけでなく、料理に伴う食材は全て佑樹が提供している。
「それは気にしなくていい。
この城にいる限り、皆を食べさせるのは主の務めだ。
それより、各家の料理の違いを知れたことが良い刺激になってもらいたい。」
佑樹の目的は、この城で料理の研鑽をさせ、それをキリプエ経由で拡散させること。
“グルメの街キリプエ“にするためには、料理の研鑽を常に積み続けなければならないのだ。
「それにしても、卵料理というだけでこれほどあるとはな。」
サフィアの感心したような声。
単純な茹で卵から目玉焼き。
卵焼きにオムレツ、キッシュもある。
さすがに
だが、
「婿殿にとっては、少し残念な結果となったようじゃな。」
小声でサフィアが指摘する。
その言葉に苦笑しつつ、
「たしかにね。
予想していたよりも、レパートリーが少なかった。」
ヴィオレータやテオフィーラ、イザベラのような上位貴族に仕える料理人ですら、さほどのものを出してはいないのだ。
「味付けに工夫はみられるけど、基本的なところはあまり変化はない。」
そのせいだろうか。
佑樹の出した料理のブースに、多くの人が集まっている。
茶碗蒸しのような蒸し料理に、“たまごふわふわ“に驚く声が聞こえる。
「これは、鶏肉と卵を溶いたものですね?」
ロシータの声だ。
「卵の下に
親子丼を食べているようだ。
「滑らかで上品な味付け。
このようなもの、初めて食しましたわ。」
イザベラが食べているのは茶碗蒸しらしい。
「スープとしても、卵は使えるのですね。」
たまごふわふわを食べているのは、ヴィオレータのようだ。
煮る(茹でる)、焼く、炒めるくらいでしか調理されていないこの世界の卵料理しか食べていないなら、佑樹の出した料理に驚くのは無理ないのかも知れない。
ふと視線をアルファに移すと、マリアとスサナを連れて
マリアはプリンやフラン、カスタードクリームをふんだんに使ったシュークリームを食べており、その傍には、ミルクセーキが置かれている。
スサナの方はというと、カステラを不思議そうに見ている。
焼き菓子であるはずなのに、しっとりとして柔らかいカステラが不思議に感じられるのだろう。
「ヘルミーネもいるな。」
佑樹が呟いた名前は、赤い髪が特徴の十代前半の少女だ。
実家は騎士の家系らしく、彼女もその立居振る舞いは武家の娘を思わせるものだ。
そのヘルミーネは、卵と牛乳をふんだんに使ったアイスクリームを食べ、思わずこめかみを抑えている。
アイスクリーム頭痛を起こしているようだ。
ちなみにアイスクリーム頭痛というのは、冷たいものを食べた時に起こる頭痛で、正式な医学名称である。
「どうしたのですか?」
それに気づいた少女が駆け寄り、声をかける。
「だ、大丈夫です、ナディア。
ちょっと、頭が痛くなっただけでもう治りました。」
ヘルミーネは、少し恥ずかしそうにしながらそう答える。
ナディアも騎士の娘だが、ヘルミーネよりもおっとりした印象を与える。
それは丸顔なのと大きな胸の存在が、そう思わせているのかもしれない。
そのナディアも、アイスクリームを食べてヘルミーネと仲良く頭痛を味わっている。
「これは、けっこうきますね。」
こめかみを抑えているのも、ヘルミーネと同じである。
その二人に声をかけたのはルフィナ。
令嬢たちの中で唯一、平民の少女だ。
平民といってもただの平民ではなく、実家は王宮に食い込むほどの豪商であり、王宮との結びつきの強さから政商と目されている。
とはいえ、その金で貴族位を文字通りに買うことができるにもかかわらず、貴族になろうとしないあたりは、商人としての
その娘を送り込んできたというのは、当然ながら佑樹に金の匂いを感じたからであろう。
各家の料理人たちも、それぞれに他家の料理を見て回っているのだが、やはり佑樹の料理が並ぶブースでその動きを止めている。
足を止めている理由は料理の物珍しさもあるだろうが、設置されているモニターで調理法のレクチャーをしていることも大きいだろう。
特に茶碗蒸しやプリンの作り方が気になっているようだ。
「ユウキ様。」
皆の様子を見ていた佑樹に、ヴィオレータが声をかけてくる。
「どうかしたのか?」
「いえ、このような催しを、今後も開かれるのかと思いまして。」
「そうだな。一〇日に一度くらいはやりたいと思っている。
今度は、黒エルフや人魚族、鳥人族も招いてね。」
人魚族や鳥人族が料理をするかはわからないが、黒エルフたちの料理には興味もある。
「では、次のお題はどうなさるのですか?」
ヴィオレータの口ぶりでは、何か服案がありそうである。
「なにか良い案があるのか?」
「はい。鳥というのは如何でしょうか?
ユウキ様も、キリプエ周辺の村々で鳥の飼育を奨励したいようですし。」
キリプエで開いた晩餐会で、鴨を使った料理を出したことを言っているのだろう。
「そうだな。
じゃあ、次回は鳥を使った料理ということにしよう。」
こうして、次回開催と料理のお題が決まったのである。
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