第28話
卵パーティの後、佑樹は黒エルフのヴェイニの訪問を受けていた。
「君たちも参加すればよかったのに。」
とは、佑樹の言葉。
「いえ、助けていただいた身でそのような催しに参加するなど・・・」
ヴェイニはそう答える。
「そんな卑屈になっていて、俺という存在を正確に推し量ることができるのかい?」
佑樹の指摘にヴェイニは息を呑む。
そのヴェイニに向き直り、
「そんな卑屈になった視線で見える俺は、どんな怪物なんだろうな。」
そう問いかける。
「そ、それは・・・」
言い淀むヴェイニに、
「絶大な力を気ままに振るう化け物か?」
さらに畳かける佑樹。
「そ、そんな!」
目一杯、否定しようとするヴェイニだが、
「そうか?
私が君の立場ならそう感じると思うよ。」
佑樹はあっさりと言ってのける。
「だってそうだろう?
こんな得体の知れない天空の城の主にして、君たち風にいうなら
これを化け物と呼ばずになんて呼ぶんだい?」
続ける佑樹の言葉に、ヴェイニは沈黙する。
まるで自分の心を読まれているかのような言葉の数々に、沈黙するしかない。
「それでヴェイニ、君が何に逡巡しているかもわかっている。
今、私の力を利用したとして、その力が自分たちに向けられないか、と。
それが理由だろう?」
そこまで指摘され、ヴェイニは背筋に冷たいものが流れるのを自覚する。
「その懸念はもっともなものだけどな。
だからといって、自分の同胞を助けるためにはその力を借りなければならない。
さあ、どうする?」
ヴェイニは唇を噛む。
どうすれば良いのか、頭では理解している。
だが、心の方はそこに追いついていかない。
「力関係からしたらそうは思えないのだろうが、私は友人になりたいと思っているんだ。」
佑樹はそう言うが、ヴェイニはその言葉を額面通りに受け取ることができない。
「すぐに信じろというのも、無理からぬ話だ。
時間はまだある。
だから、私の言葉ではなく行動を見て判断してくれ。」
言葉はいくらでも繕うことができるが、行動はそうではない。
アンチファシズムと言いながら、やっていることはファシズムそのものの
言葉以上に行動は、その人物なり組織の思想を大きく映し出すものなのだ。
「それで、
急に話を変えられ、ヴェイニが返事ができないでいると、
「他の黒エルフたちも呼ぶから食べていけ。」
そうあっさりと決められ、ヴェイニとしても受け入れざるを得なかった。
ーーー
翌日より、黒エルフの態度は変わった。
正確に言えば、黒エルフの女性たちの態度が変わったというべきだろう。
ティニヤ、パイヴァ、ウルリッカの3人は、佑樹の執務室に入って色々と質問をしている。
「何をなされているのでしょうか?」
城から放った超音波とドローンで撮影した映像を組み合わせて、3Dによる地図を作成しているのを、不思議そうに見ている。
「立体的な地図を作成しているんだよ。
本当は、地上で測量も一緒にしたいんだけどね。」
超音波や映像だけではどうしても誤差が出てしまうため、本来なら測量をしてより正確な地図を作成したいのだが、さすがに他国で測量をするわけにはいかない。
「基準点なんかを作って、国土基本図を作りたいけど、そこまでするわけにはいかないからなあ。」
「国土基本図って、なんなのですか?」
ウルリッカが食いつく。
「ただの地図じゃなくてね、標高差とか事細かく記載された地図さ。
それがあると、水路をどう引くと良いのかとか、色々と使えるんだよ。」
アフリカ諸国の発展の立ち後れの理由の一つが、そういった国土基本図をかつての宗主国に持ち去られたことにあるともいわれる。
旧宗主国としては、「自分たちが苦労して作成したものを持ち去って何が悪い」ということなのだろうが、アフリカ諸国としては国の発展になくてはならないものなのだから返してくれと言いたいところだろう。
そのためアフリカ諸国は独立後、国土基本図を一から作成することになったのだが、自分たちにその技術がないため、日本に協力を求めた。
それに日本は応え、派遣された日本人測量士たちはアフリカの暑さをはじめとする気候風土に苦労しながら作成したのだった。
佑樹は領有することになったキリプエとその周辺地域は、すでに作成している。
それによって、各村にどう水路を切り拓いていくか、道路の設置をどう効率よくしていくかを検討している。
「なるほど、婿殿は空から堂々と間諜の真似事をしておるのじゃな。」
サフィアの指摘に、佑樹苦笑してしまう。
地図というのはまさしく軍事情報であり、現代地球においてさえ、市販の地図にわざと空白地を入れていたりするのだ。
有名な“シーボルト事件”も地図の持ち出しが原因であるが、地図が高度な軍事情報であるということを理解しておかないと、なぜ歴史に残る事件となったのかを理解できなくなってしまう。
「咎められてはいないからね。」
詭弁だと自覚しながらそう答える。
「婿殿を咎められる者など、この国にはおるまいて。」
その通りだろう。
「その、ドローンというものは私たちでも動かすことはできるのでしょうか?」
ウルリッカがそう質問する。
「外に出しているのは自動操縦だけど、目視の範囲内なら自分で動かすことはできるよ。」
“やってみるかい”と提案すると、ウルリッカは、
「はいっ!」
佑樹も驚くほどに食いつく。
「じゃあ、昼からドローンの操縦をしてみようか。」
「いいんですか?!」
佑樹の言葉にはしゃぐウルリッカ。
「いいよ。興味を持ってくれたのならね。」
その言葉に、
「やったあ!!」
ウルリッカは喜びを全身に表して佑樹に抱きつく。
「ちょ、ちょっと?!」
佑樹は、ウルリッカの柔らかなモノが当たる感触に慌てる。
ウルリッカの過剰なスキンシップに慌てたのは、ティニヤとパイヴァの二人も慌てる。いや、慌てるというよりも信じられないといった表情だ。
「じゃあ、お昼から操作を教えてくださいね!」
ウルリッカはそう言って、佑樹の頬に軽くキスしてから離れる。
「約束ですからね!」
「あ、ああ、わかったよ。」
佑樹がそう答えると、ウルリッカは笑顔で手を振ってから退室していく。
それを慌ててティニヤとパイヴァの二人が追う。
「ウルリッカも、相当な無理をしているな。」
退室する三人を見ながら、そう呟く佑樹だった。
ーーー
自分にあてがわれた部屋に戻ったウルリッカは、扉を閉めるとそのまま崩れ落ちる。
そして、ガタガタと震える自分の身体をなんとか抑え込もうと強く肩を抱きしめる。
「怖くない、怖くない・・・」
自分に暗示をかけるように、何度も何度もそう呟く。
だが、その脳裏には奴隷狩りにあった時のことがはっきりと映し出されている。
必死に抵抗する自分を下卑た笑いを顔に貼り付け、陵辱する無数の人間の男たち。
陵辱しながら自分を物のように扱い、下品な論評をしていく・・・。
あの時のような惨めな思いは二度としたくない。
だから、なんとしてでも佑樹に食い込まなければならない。
その思いだけが、今の
「大丈夫、私は大丈夫だから・・・」
なにが大丈夫なのか、本人にもわかってはいない。
ただ、自分に言い聞かせるように呟き続けていた。
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