第20話
佑樹は人魚族と鳥人族の住処を出発し、本来の目的地であるキヨマサが整備している島へと向かう。
「三ヶ月以上か。
どれだけできてるかな。」
無人島を一から整備しているのだ。
城の基礎ができていれば十分だと、佑樹は判断していた。
だが、現実はというと・・・。
「凄いです!
あのような島にお城があるなんて!!」
アレシアが歓声をあげる。
「あのようなところに城をお造りになられるのは、なにか深い理由がありますのでしょうか?」
佑樹の深謀遠慮と、過大評価しているような声をあげるヴィオレータ。
「あ、あははは・・・」
乾いた笑いしか出ない佑樹。
深い理由。
あるといえば、ロケット打ち上げ場を作って人工衛星を打ち上げるのは、深謀遠慮といえなくもないかもしれない。
だけど、それを皆んなの前で言うのはまだ憚られるような気もする。
「そ、それよりもまずは上陸しよう。」
佑樹は強引に話を逸らす。
停泊する場を探そうとするが、船はまるでどこに停泊すれば良いかわかっているかのように動きを止めることなく進んでいく。
「???」
佑樹は戸惑いをなんとか押し隠し、船の行く先に視線を動かす。
そこは大きな入江になっており、船はそこへ入っていく。
「おいおい・・・」
佑樹の目に飛び込んできた風景は、この二〇〇〇トンクラスの船ならば一〇隻は停泊できそうな設備の整った港。
しかも、いまだ未完成な様子。
完成した場合、数万トンクラスの船も余裕で収容できそうだ。
たった三ヶ月余りで、城だけでなくこんな立派な港まで作り上げていることに、内心で唖然としている。
「キヨマサ、自由にやっていいと送り出したが、どこまでやらかしたんだ?」
キヨマサのモデル、加藤清正はわずか三ヶ月で秀吉と大坂城に匹敵する巨城“肥前名護屋城“を作り上げた。
だが、それは石田三成というサポート役あってのこと。
いわば加藤清正と石田三成という名コンビあればこその、肥前名護屋城築城スピードなのだ。
「まさか・・・。
いや、本当にまさか、な。」
キヨマサ配下のロボットに、石田三成に相当する能力を持つ個体がいる可能性に気づき、思わず考え込む。
「接岸致シマシタ。」
船のAIによる機械音声が艦橋に響く。
「降りるとしようか。」
皆を促し、艦橋を後にした。
ーーー
出迎えるキヨマサの異形な姿に、令嬢たちはギョッとする。
マリアなどは、サフィアの手をギュッと掴んで離そうとしない。
「安心していいよ。
これはキヨマサという名の、私に忠実な
マリアの方を向いてそう言うが、これは皆に向けて言っている。
「随分と、張り切ったみたいだな。」
「ハイ。
オ館様ガ、初メテ造ラレル城デゴザイマス故、非才ナル身ノ全力ヲ持ッテ取リ掛ラセテ頂キマシタ。」
まるで人間のような物言いに、ヴィオレータは目を丸くして驚いている。
「工事の進展状況は?」
「城ハ内装ヲ残シテオリマス。
港湾施設ハ、軍港ヲ優先シタタメ六割程。
ロケット関連設備ハ、最優先デ工事ヲ行イマシタノデ、完成シテオリマス。」
その他、城下の街割りと農地整備。
全島の測量も完了しているとのこと。
「ソノ他、空港、発電所、電車ト運行路線モ完成シテオリマス。」
「・・・・・・・は?」
一瞬、佑樹は頭がフリーズしてしまう。
その様子を、説明を求められたと勘違いしたのか、
「空港ハ、四〇〇〇メートルノ滑走路ヲ四本備エテオリマス。」
成田国際空港並みの滑走路を四本備えていると。
「発電所ハ、反対側ノ入江ノ干満差ガ大キイノデ、潮力発電所ヲ設置シマシタ。
最大発電量24万キロワット、年間発電量ハ5億キロワット二ナリマス。」
それだけ有れば、アルミニウムも作れるな、
「電車ハ、島ヲ周遊デキマス。」
すでに島を一周できるように架設されているようだ。
ほとんど観光列車ということだろう。
無人島なのに観光列車もないとは思うが。
他にも製鉄所に藻類を使った石油プラントも、いつでも稼働させられるとのこと。
「とりあえず、まずは城まで案内してもらおうか。」
キヨマサの張り切りぶりに頭を悩ませながらも、令嬢たちもいることなのでそう命じる。
「急イデ向カワレマスカ?」
そう問われ、令嬢たちとそのお付きの者たちを見ると、疲れた表情を見せる者もそれなりにいる。
「そうだな。なるべく早く行って、休息を取らせたいな。」
「ワカリマシタ。
ソレデハ、少々オ待チ下サイ。」
その言葉の正確に一〇分後、佑樹以外の者たちには初めて聞く轟音が鳴り響く。
「なんじゃ、この音は!?」
サフィアたちも初めて聞く轟音に、戸惑っているのだから、令嬢とそのお付きの人たちの戸惑いは相当なものだ。
その中で佑樹は空を見上げている。
「ティルトローター式垂直離着陸機、作ったのかよ・・・」
「ハイ。
リキマルヨリ、オ館様ガ城二戻ルタメ二必要デアルト
たしかに言った覚えがある。
この機体の設計をしていたときに、
「
と問われたのだ。
そして今、乗り込もうとする祐樹に、
「私たちに頼めば、城との往復くらい乗せてあげるのに。」
同様のことをペリアが口にする。
「俺はいいけど、他の人間がお前たちの背に乗ると思う?」
「おらぬじゃろうな。」
佑樹と同じ結論に至ったのはサフィア。
「我らとて、認めた相手が乗るのであればともかく、そうでなければ乗せたくはないな。」
そう続け、ルヴィリアとペリアも同意する。
「だから主様はコレを作られたのですね?」
ルヴィリアの言葉に頷く佑樹。
「今後、誰かを招くこともあるかも知れないし、こちらから
そんなときのために設計しておいたんだけどね。」
「相手が平和的と捉えてくれるとよいのじゃがな。」
サフィアの指摘に、佑樹は苦笑する。
佑樹と
例外は二名。
アレシアの教育係兼乳母のエルシリアと、マリアの異母姉妹であり付き人となっているスサナだ。
スサナはマリアが幼過ぎるのが理由だが、エルシリアの場合はアレシアとその他の令嬢との立場の違いを明確にするためである。
「中は、外ほど音が響かないのですね。」
アレシアの感想に、
「コレは、居住性を高めたタイプの機体だからな。
他にも、輸送能力を高くしたタイプもある。」
輸送能力を高めたということは、もろにオスプレイそのもの。
そして、居住性を高めたというのは、オスプレイの欠陥ともされる機内温度調整能力を持たせ(当初は要求されていた能力だが、最終的に削除された)、防音壁を採用したのだ。
「まあ、短い時間だけど、空の散歩を楽しむとしようか。」
その言葉を待っていたかのように、飛行機は上昇を始めたのだった。
ーーー
一〇分ほどの空の散歩は、城に到着したことで終わる。
「もっと乗っていたかったですわ。」
とはヴィオレータの言葉だが、令嬢たちの本音なのだろう。
空からの景色を楽しんでいた令嬢たちと違い、佑樹は別のことを考えている。
「随分と開拓ができているのじゃな。」
サフィアの言葉に、佑樹は大きく頷く。
「すぐにでも農業ができそうだよ。
牧畜を含めてね。」
そう、佑樹も同じことを考えていたのだ。
このままこの土地を遊ばせておくわけにはいかない、と。
問題は、どこから移住者を募るか。
「一つ事を進めると、多くの問題に直面するな。」
溜息とともに愚痴も溢れる。
そこに、令嬢たちの視線を感じ、
「こんなことばかり言っていてはダメだな。
食料供給地ができたのだから、それで良しとしないと。」
天空の城において余剰となっている、園丁ロボットを派遣する事で開拓地が荒れることを防ぐ。
それを優先しないといけないだろう。
それと、この島の統治はキヨマサからユキモリに代える。
今後、移住者を募るとなれば
キヨマサが
「ワカリマシタ。
ユキモリ殿デアレバ、不服ハゴザイマセン。」
佑樹から方針を伝えられたキヨマサは、その命を受け入れる。
「キリプエの防衛は、ナリマサに任せよう。
防衛といっても、基本はイグナシオたちに任せるけどな。」
あくまでも、その土地の人間の問題はその土地の人間が片付けるもの。
本来、余所者である自分が必要以上に関わることは避けたい。
歩きながら指示を出していき、ふと思い出したようにキヨマサに問いかける。
「そういえば温泉があると聞いたが、入れるのか?」
こっちの世界に来てから温泉に入っていないことを思い出す。
「ハイ。イツデモ入浴可能デス。」
「そうか。
夕食後にでも入らせてもらうかな。」
「ワカリマシタ。
準備ヲサセテオキマス。」
この時、佑樹は気づかなかった。
皆、特に
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