第13話

 サラマンカ王国の首脳を一斉に捕縛するという、軍事的には大成功を収めた佑樹だが、頭を悩ませている。


「どうやって幕引きしよう?」


 はっきり言って、地上のこの国を統治する気はない。

 人魚族と鳥人族が安心して交易できるなら、それだけでよかったのだ。


 だが、進展した事態はそんなことはお構いなしに拡大している。


「どうしてこうなった?」


 それが偽らざる佑樹の本心である。


 だが、ここまで事態が動いてしまうと、講和条件というのも付けなければならなくなる。


 交易がしたかっただけだというのに、随分と大事おおごとになってしまったものだ。


「人間たちのことなど知らぬが、この町と周辺の村々の割譲が最低線になるじゃろうな。」


 サフィアの言葉に、ルヴィリアたちも頷く。


「国全体を奪われたって、人間たちは文句を言えないんだから。」


 とはジェタの発言だが、こちらは一方的に吹っかけられたのだから、間違った認識ではないだろう。


「後は、イグナシオが王様を連れてくるってことだから、そこでどうするか決めたらいいんじゃない。」


 ペリアが、天空の城から領主館に持ち込んだテレビとブルーレイで映画を観ながら言う。


 だけど、観ている映画のタイトルが「ドラゴンスレイヤー」というのは、なんの冗談だろう?


 ディズニーの名作で、日本では円盤化されていないから輸入盤だったりするのだが。


「実際に、生殺与奪の権を握っているのは主様ですから。

 好きなように要求してよろしいのではありませんか。」


 結局は、ルヴィリアのこの言葉に尽きるのだろう。


「なんにせよ、イグナシオが戻ってからかな。」


 そう結論付けると、佑樹はこの町の地図を広げて見ていた。



 ーーー



 イグナシオに先んじて、アルファが領主館に来たのは三日後のこと。


「明日くらいにイグナシオが到着するよ。」


 と、軽く報告を済ますとジェタとゲーム勝負を繰り広げるべく、コントローラーを握る。


「今日こそは、勝ってやるんだから!!」


「返り討ちにしてあげる!」


 ジェタもやる気満々である。


 その邪魔をしないように食堂に移動し、アルファが持ってきたパソコンに地図と、散策で撮りまくった写真を取り込み城に送信。


 城のメインコンピューターに3D処理をさせる。


 さらに3Dプリンターで模型を作成させ、リキマルに取りに行かせる。


 そして、リキマルが戻ってきたところでドメイコがやって来た。


「ユウキの旦那!

 今日はなにをしているんです?」


 最近、ドメイコはちょくちょくやってきては色々と話をしていく。


 その中には商売に役立ちそうなものも有れば、この町の情勢に関わるものもある。


 そしてドメイコが聞き出したいのは、この町の今後に関わる情報ネタ


 なので、


「明日くらいに、この国の王様が来るそうだ。」


 さらりと爆弾を落としてみる。


「は?今、なんと?」


「王様が来るってさ。」


「は?」


 脳が理解することを拒絶しているようである。


「少し前に、王都で一悶着あってね。

 一戦することになって、捕縛したんだ。」


「え、ええ、えええーっ!!

 一戦って、戦争、したんですかい?!」


 ようやく、脳の凍結状態フリーズが解除されたようだ。


「な、な、それで王様を捕虜にしたと・・・」


「まあ、そんなところだ。」


 他に言いようがないので、そう肯定する。


「ど、どうするつもりなんだ、ユウキの旦那。」


「要求としては、この町とその周辺の村々をいくつか割譲。

 賠償金も要求することになるかな。」


「ははは、勝者の権利ってやつですな。」


 引き攣ったような笑いをするドメイコだが、テーブルにあるものに気づく。


 やがてそれがなにか気づき、


「もしや、これはこの町の模型、ですか?」


「そうだ。

 せっかくなんで、色々と改修したり拡張しようと考えている。」


「改修や拡張、ですか?」


「そう。

 特に港湾施設なんかは、もっと拡張したいね。

 それに、色々な施設も作りたいから、町そのものの拡張も必須だね。」


 あの船を動かすための、藻類を使った石油プラントはもちろんだが、帆船を建造するためのドックの拡張、増設も必要だ。


 荷揚げをするための設備も不足しているし、荷物の倉庫も不足している。


 軍港としての機能も上げなければ、大型化した軍船に対応できなくなる。


 そんな話を聞きながら、ドメイコの頭の中は商人としての計算を始めている。


 それを見て見ぬふりをしながら、


「その資材調達を、新しく作る商会に任せたいのだが、どうかな?」


 ドメイコが一番知りたいだろうことを、さらりと流す。


 資材調達というが、それだけに留まらないのは明白だ。

 大勢の人夫が必要になるし、それだけの人数が集まれば人夫相手の商売だって必要になってくる。


 これに乗れなければ、自分たちの商会の未来は無いに等しい。


 参加をするか態度を表明していない者たちへの、強烈なアピールにもなる。


「わかりました。

 不詳ながらこのドメイコ、全力で尽くさせていただきます!」


 高らかに、そうドメイコは宣言したのだった。

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