第8話

 人魚と鳥人族との会談は終わり、さらに定期的に魚を購入する約束も取り付けた。


 代わりにこちらからは、城で作られた食器や調理道具を渡すことに。


 そして人魚や鳥人族を守ったり、彼らが人間たちとの交易に使うために船を提供することになった。


 船の数は三隻で、乗員となるロボットも貸し出される。


 ペリアは過剰な戦力だと呆れていたが、佑樹にしてみれば人魚たちを守る約束をした以上、海棲魔獣の相手ができるだけの戦力は必要だと考えている。


 ただ、そうなると城以外でメンテナンスする場所が必要になる。


 なので、ある程度の広さがある島が近くにないかと尋ねたところ、それなりの大きさの島があるという。


 なので早速、人魚と鳥人族に案内してもらってその島に向かう。


 群島地域から五〇キロほど離れたところに、それなりの大きさの無人島があった。


「けっこう大きいな。」


 そう呟く佑樹。


 すぐにボウマルに命じ、島の測量と地形調査をさせる。


 その間に、佑樹は城に戻る。


 戻るというよりも、城に住みたいと言い出した人魚の子供のリナをはじめ、何人かを住まわせることになったのだ。


 とりあえず水堀に人魚を住まわせ、鳥人族たちは城の中にある森に住むことに。


 魚の取引も、結局のところは彼らのためでもあるのだ。


 これら、一見すると佑樹になんの利益も無いように感じられるが、そんなことはない。


 人魚たちを通じて、この世界の人間を含む他種族たちと接触する、その機会を得たのだから。


 それは、この世界の技術レベルを知ることに繋がり、また文化・文明レベルを知ることにも繋がっているのだ。


 そのための投資と考えれば安いものだと、佑樹は考えているというわけだ。


 そんなことを、佑樹たちはプール横でモニターを観ながら話している。


 なぜプール横にしたのかといえば、人魚たちにも見えるようにするためだ。


 まだ少人数で種族も多いわけではないが、疎外感を与えるとそれがしこりになって、後々に影響を与えるかもしれない。


 それを防ぐため、人魚たちも参加し易くするために、この場所にモニターを移した。


「色々と考えてるんだね。」


 感心したようにジェタが言う。


 見た目は幼いジェタだが、けっこう口が悪い。


 そして、佑樹はそれを容認している。


「ユウキってば、ジェタに甘いんだから。」


 ペリアはそう小言を言うが、彼女自身もかなり砕けた口調と態度になっている。


 とはいえ、二人の姉が戻ってくるまでは、自分がユウキのサポートをしなければならないと気負っているように見える。


 モニターに映し出されているのは、ボウマルの無人島探索の様子と、集められたデータの数々。


「面積は約八〇〇平方キロ、佐渡島より少し小さいくらいか。」


 集まったデータをチェックしていく。


 最高標高約六五〇メートルで、そのポイントは島のほぼ中央。

 その山を中心に森林が広がっているところをみると、水は豊富にあるように思える。


 さらにボウマルに与えたドローンからの映像を観ると、島の東側に大きな入江があることがわかる。


 そこに船の整備点検施設を含む港湾施設を築こうか、そう考える。


「潮の流れはどうなんだろう?」


 直接外海と接していないとはいえ、港湾施設を築くとなると、そこが気になる。


 いや、この世界が帆船主体だとしたら、風向きも気になってくる。


「気象データも集めないといけないかな。」


 気象データは、何年も蓄積させていかなければならないため、今後の課題といったところだ。


 ただ、ある程度の気候なら人魚たちや鳥人族に確認は出来るかもしれない。


「気候や気象的な問題がなければ、人工衛星打ち上げ基地を作ってもいいかな。」


 気象衛星だけでなく、資源などの探査衛星にGPS衛星も打ち上げたい。


 そして、情報収集スパイ衛星も。


「言ってることの意味はわかんないけど、とんでもないものを作ろうとしてるんだよね?」


 ジェタの言葉に、


「この世界標準だと、色々ととんでもない代物ばかりになるだろうね。」


 優先順位としては、資源探査衛星かと考えたとき、


「私たちがいない間に、ずいぶんと楽しいことになっておるようじゃな。」


 不意に、この場に居なかった人物の声がかけられる。


「お帰り、サフィア。」


 立ち上がって手を差し出し、佑樹はサフィアを迎える。


「ただいま、じゃな。」


 はにかみながらそう言うサフィアが出した手を掴むと、自負の元に引き寄せる。


「少し見ぬ間に、ずいぶんと大胆になったではないか。」


 ペースを取り戻そうと、サフィアは茶化すように笑いながら、逆に佑樹を抱きしめる。


 佑樹の身長は一七〇そこそこなのに対して、人型に変異したサフィアの身長は一九〇センチを少し超える。

 抱きしめられた佑樹の顔は、サフィアの見事なバストに埋もれる。


「く、苦しい・・・。」


「それは悪かったな、婿殿・・。」


 悪戯っぽい笑みを見せながら、力を緩める。


「婿殿って、竜王ちちうえは認められたのですか?」


 ペリアが気づき、勢い込んで確認する。


「そうじゃ。

 私とルヴィリアは確定しておる。」


「え?じゃあ、私とジェタは?」


「お前たち次第と、そう言っておられた。」


 サフィアとルヴィリアは、政治的な思惑もあってユウキに嫁がせるものの、ペリアとジェタには自分の意思で決めるようにということだ。


 サフィアとルヴィリアにしてみれば、竜王ちちうえは娘たちのことを理解していないということになるだろうが、せめてペリアとジェタには自分の幸せは自分で選んで欲しいと、そういう親心でもある。


「そんなの決まってるよ!

 私もユウキのお嫁さん!」


 ジェタは即答している。


「わ、私もユウキの妻になることに異存はありません。

 むしろ、それを望みます。」


 ペリアもそう答え、


「そういえば、ルヴィリア姉上が居ませんが、どうされたのでしょうか?」


 疑問を口にする。


「ルヴィリアは、この城に残った者たちの家族のもとを回っておる。

 中には、ここに移住したいと言い出す者もおるであろうが、それでよいかな、婿殿。」


「拒否、できるのか?」


 力が緩められているとはいえ、その腕の中から逃れる術などない。


「できぬな。」


 当然とばかりに言うサフィア。そして、


「拒否する腹づもりなどなかろう?」


 そう言って笑う。


 たしかに拒否する気などない。


 ただ、


「人魚と鳥人族が新しい住人としているから、諍いは起こさないでくれよ。」


 そう注意はしておく。


 彼女らドラゴンたちは、人魚たちなど歯牙にも掛けないだろうし、人魚たちにしてもドラゴンと諍いを起こそうなどという者はいないだろう。


「わかっておる。

 今後、増えるであろう住人たちとも、もちろん諍いなど起こさぬよう努めるぞ。」


 サフィアはそう答える。


 だが、“増えるであろう住人たち“という言葉に、佑樹は驚きを隠せない。


 その可能性はあると思ってはいるが、ここまで断言されるとも思ってはいなかったのだから。


「ペリアやジェタから念話にて報告を受けておったが、婿殿は自分の気性というものを理解しておらぬようじゃな。」


 サフィアはそう言って笑う。


「婿殿、お主は今後も色々とやらかすであろうし、それは時に介入するようなことでもあろう。

 その時、一時的な保護もするであろうな。」


 まるで見てきたかのような物言い。


 だが、否定はできない。


「色々と気を使ってくれてありがとう。」


 そう言うのが精々だった。



 ーーー



「この島を拠点の一つとするのか。」


 サフィアを交え、改めて無人島をどうするのかを話している。


「そう。

 さっきサフィアが言ってたように、この城に住人が増えたら食料補給の必要が出てくるかもしれない。

 だから、その時のための補給地としたいと、そう考えている。」


「なるほど。

 それと、もしもの時のために人魚たちが逃げ込める場所にしたいのであろう。」


 サフィアはもう一つの狙いを指摘し、佑樹はサフィアに同意するように頷く。


「あれほどの入江があれば、人魚たちに与えた船くらいの大きさならば、二〇も入るであろうな。」


 それだけあれば、もしもの時でもこの城が到着するまで持たせることができるだろう。


 もしもの時があれば、の話ではあるが。


「あの船があれば、人魚たちとは違う相手との交易もできような。」


 サフィアは人魚たちとの競合を避けたい、ユウキのそんな気持ちを先回りしている。


「そう、だな。

 だけど、交易の話は少し置いておく。」


「ほう?なぜかな?」


「俺はこの世界のことをろくに知らないからな。

 この城で生み出される物が、どれだけの価値があるのかわからないんだ。」


「そういうことか。だから、人魚たちの交易を通じて、それを知ろうというわけか。」


 佑樹は頷く。


 人魚とその交易相手との相場を基準にして、他の相手と交易をしようと考えている。


「この城の技術レベルを考慮したら、慎重に慎重を重ねるのも必要であろうな。」


 あまりに突出しすぎた技術。

 それによって生み出された産物は、時と場合によっては争いの元となりかねない。


 それは佑樹の本意ではないのだ。


“ぐぅ〜!“


 と、誰かの腹の虫が鳴く。


 誰の、とは誰も言わない。


 一人を除いては。


「誰?お腹を空かせているのは?

 大事な話をしている途中なんだから、それくらい我慢しなさいよね!」


 その声の主は、まるで誤魔化すかのように早口で強い口調である。


「アルファ、お前の腹の虫だろ、今のは。」


「え“っ!ち、違うわよ!

 し、失礼しちゃうわねー!」


「そうか、お前じゃないのか。

 じゃあ、食事はあと五時間くらい後な。」


「ええ〜っ!そんな!!

 白状しますから、すぐに食事にしてください!!

 もうお腹が空きすぎて、我慢できないんですぅ!!」


 見事な土下座を見せて、アルファは空腹を訴える。


「わかったよ。すぐに食事の準備をさせよう。」


 佑樹はリキマルに命じて、食事の準備をさせたのだった。




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