第7話

 人魚たちから連絡が来たのは、五日後のことだった。


「思ったより早かったな。」


 とは、それに対しての佑樹の感想。


 内容は、佑樹の提案の受け入れと、自分たちの住む群島地域への招待。


 そこで、調印式のようなものを行うことになるだろう。


「ねえ、ユウキはこんなに早く連絡が来ると予想してたの?」


 とは、黒竜ジェタの問いかけ。


「まあね。本当のところは、十日くらい経ってからかと思ってたけど。」


「あの変な魔道具の力を知ったら、連絡をしてくると思っていたということか。」


 白竜ペリアがそう言って、もっと詳しく話すように促してくる。


 なので佑樹も、なるべくわかりやすくなるように説明する。


「少し回りくどい話し方になるけど、人魚と鳥人族は共生関係にあると仮定したんだよ。」


 空から鳥人族が魚群を発見し、それを人魚に伝える。

 そして人魚たちはその情報をもとに、漁に出る。


 だが、ここで問題が起きる。


 まずは鳥人族の目視の場合、見間違いが起きる可能性がある。見間違いでなかったとしても、その魚群のいる深度がわからないため、魚群とすれ違うこともありえただろう。


 それが、あの魚群探知機を使うことで知ることができ、効率的に漁を行うことができるようになったのだ。


「ここのところ、天気も良かったし海も凪いでいたからな。

 試験運用テストするには、いい日和だったってことだな。」


 説明され、ペリアとジェタは理解する。


 ただ、その場にいて理解できていない者もいる。


「それって、結局はどういうことなのかな?

 私にも、もっとよくわかるように説明してほしいな。」


 駄天使アルファだった。


 なので、


「魚がいっぱい獲れるようになって、感謝してくれてるってことだ。」


「そっかあ。それっていいことだよね。」


 アルファは単純だった。


「それで、何で行くの?」


 ジェタの疑問。


「城のまま行くわけにもいかないし、相手は群島地帯だろ?

 常識的に船で行くよ。

 ちょうど、完成した船があるからね。」


 疑問に答えると、完成した船が格納されている格納庫に向かう。


 そして城そのものはその場に着水させたのだった。



 ーーー



 船で行くという判断は、相手が群島地域なのだから常識的なもの。

 ただし、その船はこの世界の常識的とはかけ離れたものだった。


 まずはその大きさ。


 排水量二〇〇〇トンクラス。


 佑樹としては第二次大戦期の駆逐艦の排水量をイメージしたのだが、


「大きすぎじゃない?」


 とペリア。


「そうか?

 俺のいた世界じゃ、小型な方なんだが。」


「それに、なにアレ?

 船の前後についてる変な筒は?」


「二〇センチ単装砲。

 武装としても、そんなに強力なもんじゃないぞ。」


「船の横にあるのは?」


「海の魔物相手のための、魚雷発射管。

 あとは爆雷を落とすための設備。」


「船の上で回転してる変なのは?

 それと船上の建物の壁、なんなの?」


「対空レーダー。

 空から攻撃されないよう、先に察知するための装備。」


「・・・・、水晶宮を攻撃したようなのもある?」


「当然、配備してる。」


 明快は返答に、ペリアとジェタは呆れた顔を見せる。


「そんなことより、あまり待たせても悪いから行くぞ。」


 乗り込むのは佑樹とアルファ、ペリア、ジェタとドラゴン族数人。

 護衛のためとしてリキマル、情報収集のためにボウマルとそれぞれの配下のロボット数体ずつ。


 さらにこの船の護衛兼戦闘要員として、水戦に長けたヨシタカとその配下二〇体のロボット。


 対空戦闘要員として、ムネシゲとその配下一〇体。


「過剰過ぎない?」


 ジェタは呆れ果てている。


「いや、連れて行かないと心配するんだよ、このロボットたちが。」


 たしかに、それらしい態度をとっているのは見ている。


 だからといって、これだけの戦力が必要だろうか?


 そもそも対空戦闘なら、自分たちだっているというのに。


 自分たちを信用していないのかという気持ちになりかけるが、


「下手にドラゴンの力を借りると、こっちが侮られるかもしれない。

 それに・・・」


「それに?」


「やはりドラゴンは最後の切り札ってしとかないと、ドラゴンの威厳も落ちちゃうからな。」


 佑樹なりにドラゴン族のことを考えてくれているらしい。


 そのことを理解して、ジェタは自分の腕を佑樹の腕に絡める。


「合流点まで、この船の中を説明してくれるんでしょ?」


「うん、ああ、いいよ。」


 佑樹はそう答え、ジェタやペリア、アルファたちを案内していった。



 ーーー



 合流点に到着する一〇分ほど前に、艦橋ブリッジへと到着する。


「私たちの知る船より、はるかに速い。」


 ペリアは感嘆の声をあげている。


「この世界の船は、大きくても帆船だろ?」


 佑樹はコンソールを操作して、帆船の画像を出して見せながら、


「帆船の速度が大体だけど、最速で7ノット(時速一三キロ弱)くらい。

 この船の巡航速度はほぼ三倍の二〇ノット。

 設計上は、最速四二ノットまで出せる。」


 桁違いの速度にペリアたちは驚く。


 そんな話をしているうちに、速度が徐々に落とされていく。

 そしてそれを見計らったかのように、鳥人族の一人が艦橋ブリッジ付近に降りてくる。


 以前、城に来た者だ。


 艦橋ブリッジの窓を開けて、その鳥人族を迎え入れる。


「ユウキ様!

 さすが、お早いお着きで。」


「君はファルだったね。

 出迎えありがとう。」


「は、はい!

 名前を覚えていただいていたなんて、ありがとうございます!!」


 それくらい普通だと思うのだが、ファルという名の鳥人族は感激している。


「そ、そうか。そんなに嬉しいことだったのか・・・」


「はい、それはもちろん!

 私たちは魚を売りに行く関係上、人族とも付き合いがあるのですが、ほとんどの人族は鳥人族わたしたちの名前なんて覚えてくれないんです。

 人魚たちの名前は覚えているのに。」


 どうやら、この世界では種族差別というものがあるらしい。

 名前を覚えない程度なら、まだいいが・・・。

 一抹の不安を覚える。


「そんなことより、早くいきましょう!」


 急かされるが、ここから先はこの船では行けないらしい。


 そのため、上陸用舟艇に乗り換えるとともに、色々な道具も運び込む。


 道具は料理道具や食器がほとんど。


 これで少しは文化的な生活、いや生活レベルが向上すればいい。

 そう思っていたのだが、これが後に大きな争いを生むことになってしまう。


 上陸用舟艇を操り少し進んでいくと、人魚たちの出迎えを受ける。


 その中には、城に連れられてきた子供の人魚いる。


「ユウキ様!」


 自分を見つけると、大きく手を振っている。


「リナ!」


 その人魚の名を呼びながら、手を振り返す。


 予想以上に歓待してくれている。


「ああ、ユウキ様!

 この辺りは潮の流れが複雑ですので、操船にはお気をつけください。」


 代表者として城に連れて来られていた人魚の忠告。


「忠告ありがとう、ダルム。」


 操船については、ヨシタカ配下のロボットに任せており、また先に送り込んでいるヨシタカ配下のロボットから、潮流についての情報は得ている。

 それでもこういう時は、感謝の言葉を述べておくのが角の立たない処世術というものだ。


 そうして一〇分ほど。


 人魚や鳥人族の案内により、群島の中でも最大の島に到着することができた。



 ーーー



 一番大きな島とのことだが、その面積は大きな野球場くらい。


 そこに来客用の建物が建てられている。


 来客用だから、彼らとしてはかなり立派な建物なのだろうと思われる。


「なんか粗ま・・・、じゃない、素朴な建物ね。」


 アルファが呟く。


 そう思うのも当然だろう。


 日干し煉瓦造りの建物は、天空の城の建造物群と比較したらとても粗末なものに見えてしまう。


「まあ、建材となる物資が少ないからな。」


 このような群島では、木材はもちろんだが石材も乏しい。


 比較的豊富にある土を海水で練り、乾燥させたのだろう。


「工兵隊を出す必要があるかな?」


 人魚や鳥人族が懸命に造ったものだろうから、あまり手を出したくはない。

 ただ、今後のことを考えると必要かもしれない。


 その建物の中に案内される。


 その中では、すでに人魚と鳥人族がそれぞれ一〇人ほど居て、佑樹たちを待ち構えている。


 そして代表者なのだろう、人魚の長老が挨拶をする。


「この度は、我らの招きに応じていただきありがとうございます。」


 うやうやしく頭を下げる長老に、


「頭を上げてください。

 友人がそんな風に頭を下げるのをみるのは、気持ちの良いものではありませんよ。」


 そう言うと、


「ありがとうございます、我らを友人だなどと言っていただけるとは。」


 そう感激したような口調で、再び頭を下げる。


 再び佑樹が頭を上げさせ、ようやく歓迎の宴へと入ることに。


 料理は予想通りというか魚、生魚がメイン。


 メインというより、それしかない。


 うつわは貝殻を加工したもの。


「これはこれで、なかなかおもむきがあるな。」


 そう呟く佑樹と、生魚ということで顔を顰めるペリアとジェタ。


 アルファはというと、


「なにか味付けが欲しいわね。

 醤油とか、山葵わさびとか。」


 日本人の補佐役となるだけあって、生魚に抵抗はないようだ。


「ほれ。」


 佑樹が醤油の入った容器と、山葵わさびとサメ皮の卸金を渡すと、大喜びで舌鼓を打っている。


 見た目は金髪碧眼のスラブ系美女なのだが、これで日本酒の酒瓶でも抱えていたら日本のオッサンである。


「あの、ユウキ様。

 その黒い液体は?」


 ダルムが疑問をぶつける。


「醤油といってね。

 魚醤に似た調味料だよ。

 使ってみるかい?」


 そう言って渡すと、早速使ってみる。


「これは!

 魚醤よりも塩気が強く感じられますが、なかなかに美味しくなりますね。」


 その感想を聞いて、人魚や鳥人族たちも醤油を使い出している。


 その表情や、その後の様子からなかなかに好評なようだ。


「少し調理場を貸してもらえないだろうか?」


「どうかいたしましたか?」


「いや、あちらの者たちが食べられるものがあまりなさそうだから。」


 そう言うと、調理場を借りる。


 予想通りというか、調理場には火の気はない。


「持ってきてよかったな。」


 そう呟いて、調理道具と食器を取り出す。


 包丁を使って魚をおろし、バーナーを使用して焼く。


 さらに持ち込んだ食材や調味料を使う。


 酢締めしたり、チーズをかけて炙ったりと、ペリアたちが食べらそうな調理をしていく。


「ユウキさんって、料理人だったの?」


 ジェタの疑問に、


「まあ、ね。」


 と佑樹は短く答える。


 短い返答に、そのことをあまり話したくないのだとジェタは察して、


「この焼いたものなら食べられます。」


 話題を変える。


「ユウキ!このチーズと一緒に焼いたのをくれ!」


 ペリアがそう注文する。


「これなら、料理人シェフロボットも連れてくるべきだったな。」


 こうして、主賓であるはずの佑樹は、この場で最も忙しい人物になってしまった。




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