第6話

 佑樹の私室で、アルファと黒竜ジェタは対戦型テレビゲームをしている。


 白熱した戦いをしているかというと、そんなことはなく、ジェタの二十一戦一六勝五敗。

 さらにいうと十六連勝である。


「くううぅっ!」


 およそ天使とは思えない悔しがりかたと、唸り声。


「もう一回よ、もう一回!!」


 アルファの叫びに、


「いいよー。でも、私が勝ったらアルファのおやつは私のものだよ。」


「よし、乗ったぁ!」


 二人はゲームを開始する。


 その二人を横目にしながら、白竜ペリアが呆れたように、


「よくやるよ、あの二人も。」


 そう言う。


 ペリアはというと、佑樹から予備のパソコンを借り、教えられながら操作している。


 操作しているとはいっても、やっているのは外のカメラを繋いで見ているだけなのだが。


 普段見ることができないアングルが、彼女には楽しいようだ。


 彼女たちの様子を見ながら、佑樹は城のコンピュータに繋いだパソコンを使って、城の設備や装備を再確認している。


 そのうえで、新たなメカの作製に取り組んでいる。


 偵察用のドローンに海上を行動するための船。

 陸上移動用の車両に、飛行機の作製。


 護身用の小道具の作製も始めている。


 それらは当然、城を出て地上なり海上なりを行動することを想定してのものだ。


 そしてやっておきたいことが他にもある。それを行うためにはどこか地上に拠点を作る必要性があるのだ。


「どこかに手ごろな無人島なんてないかな?」


 佑樹の呟きに、


「無人島?

 なんでそんなものがいるの?」


 ペリアが反応する。


「拠点として欲しいのが一つと、この城を隠す場所が欲しいってのが一つだね。」


「拠点?この城が拠点じゃないの?」


 ペリアが疑問を呈する。


「そういう意味の拠点じゃないんだ。

 この世界に座標を設定するために、その基点となる拠点が必要なんだよ。」


 座標を設定しておけば、それを入力するだけで自動的に目的地に向かうことができるようになる。


 そして、座標を手にしていれば、圧倒的な軍事的優位に立つこともできる。


「軍事的優位?」


「そう。君たちの水晶宮にミサイルを撃ち込んだことを覚えているかな?」


「あ、あれね。

 あの後、物凄い大騒ぎになったよ、水晶宮。」


「あの時は、こちらからロボットを送り込んで、それが発する信号によって誘導したんだけどね。」


「え?!

 あの時の魔法人形ゴーレムって、会話をするために送り込んだんじゃないの?」


「そんなことだけのために送り込まないよ。

 あの時は、対話の席に引き摺り出したかったからね。」


 対話の席に引き摺り出すため、その脅しの道具として使ったということだ。


「座標を設定しておけば、相手の懐に送り込む必要がなくなるんだよ。」


 ペリアはその言葉に背筋が寒くなるのを感じる。


「それって、どこからでも攻撃できるって、そういうことなんじゃ・・・」


 佑樹はにこりと笑っただけで、明確には答えないが、それだけで十分だ。


「そのこと、姉上にお伝えしてもかまいませんか?」


 ダメ元で尋ねるが、


「かまわないよ。」


 あっさりと返答されて、かえってペリアは狼狽える。


「ほ、本当にいいんですか?」


「かまわないって。

 むしろ、伝えた方がサフィアたちのためにもなるから。」


 二人の姉は、水晶宮に帰って報告をしている。


 佑樹がやろうとしていることを伝えれば、必ず父である竜王ドラゴン・ロードにも伝えるだろう。


 それは長姉サフィアの強力な援護になる。


「それって、ユウキさんは姉上に惚れたってことかなあ?」


 ペリアは悪戯っぽい笑顔を見せ、悪戯っぽい口調で問いかける。


「ま、まあな。」


 少し照れたように言う佑樹に、ペリアは好ましい感情を得ている。


「無人島じゃないけど、良さそうなところに心当たりがあるよ。」


「誰かいるのかい?」


「人魚と鳥人族がいる。

 それに、幾つかの島々がある群島だから、この城を隠すにもうってつけじゃないかな。」


 城を隠す、そこまで気がつくとはペリアも只者ではないだろう。


「じゃあ、そこに向かうことにしよう。」


「決まりね。

 このまま進路を西へ。この速度なら三日もしたら着くよ。」


 ペリアの指示に従い、佑樹は城の進路を西へと定めた。



 ーーー



 ペリアの言葉通り、三日もすると無数の小島からなる群島海域が見えてくる。


「ここで城を止めることはできる?」


 ペリアの言葉に、


「ああ、できる。

 ここで待つよ。」


 そう答える。


 このまま接近したら、間違いなく人魚や鳥人族に警戒心を呼び起こすことになる。


 だから、ある程度のところで停止して、ペリアが使者として交渉にあたることにしたのだ。


 もっとも、ドラゴンが出て行ったら恐怖しか呼び起こさない気がするのだが。


 それでも、


「任せるけど、くれぐれも平和的に頼むよ?」


 その言葉に、


「任せといて!」


 と、喜び勇んで数人のドラゴンを伴ってペリアは飛んで行った。


 その一方で、黒竜ジェタは駄天使アルファとビリヤード対決をしている。


 こちらは五分の勝負をしているようで、なかなか白熱した勝負をしている。


 テレビゲームでも、格闘ゲームではジェタの方が圧倒しているが、レース系ではアルファの方が圧倒している。


 リバーシなどのボードゲーム系や、シミュレーションゲームではほぼ五分。


 良き好敵手ライバルといったところのようだ。


 佑樹にしても、城の装備やら設備確認のために相手をできないこともあり、ジェタには感謝している。


 なので、おやつは少し豪勢なものを用意することにする。


 ジェタとアルファにおやつを用意させながら、佑樹は新たにロケットの作製に取り組んでいる。


 人工衛星が打ち上げられれば、座標設定の優位性をより活かせることになる。


 その発射基地として使える場所も欲しいと思うが、まずはペリアの報告待ちだ。

 そう考えて大きく伸びをした時、ボウマルからの報告がくる。


「オ館サマ、ペリア殿ガ帰還致シマシタ。」


「予想よりかなり早いな。」


 報告にそう呟き、


「わかった。すぐに迎えに出る。」


 そうボウマルに伝え、迎えに行くために歩き出した。



 ーーー



 三ノ丸の来客用の建物の中で、ペリアとその一行は客人・・を連れて待っていた。


 その客人は人魚五名と鳥人族五名。


 全員が蛇に睨まれたカエルよろしく、怯えた表情を隠せずにいる。


「ちょっとペリア。」


 佑樹はペリアを側に呼び寄せ、どういうことか確認する。


「どういうことだ?

 どう見ても怯えた顔をしてるし、こういう場には不似合いな年齢の子供もいるよな?」


「ああ、そのこと?

 私たちに従わないと滅ぼすって、ちょっとだけ脅しただけだよ。」


 次の瞬間、ペリアの頭に空手チョップが落ちる。


「痛っ!」


「くれぐれも平和的にって、そう言ったよね?」


「だ、だからちょっと威圧しただけで済ませたでしょ?」


 涙目になりながら、ペリアは抗議する。


「威圧って、それ全然平和的じゃないからな?」


 そう釘を刺し、客人に向き直る。


「申し訳ない!

 私の言葉が足りず、力をちらつかせるような真似をさせてしまい、本当に申し訳ない!」


 そう頭を下げるが、人魚や鳥人族たちは困惑した表情を見せて、互いの顔を見合わせている。


「それよりも人魚の方々、水の中でなくて大丈夫ですか?」


「水の中の方が落ち着きます。」


 佑樹の言葉にそう答えると、


「リキマル、この方々をプールまで案内してくれ。

 人魚の方々は、お前たちで運んでさしあげろ。」


 リキマルは一礼すると、人魚たちに近づく。


「ひっ!魔法人形ゴーレム!!」


 怯える人魚たちだが、佑樹はそれにかまわず子供の人魚に近づくと頭を撫で、


「怖がらせてごめんね。」


 そう話しかけて抱き上げる。


「水の中の方がいいみたいだから、そちらに移動するよ。」


 そうやって移動したプール側で、改めて謝罪して佑樹は自分の要望を伝える。


 特に強調したのが、友好関係を結んでの共存。


 ただ、ペリアの言動がよほどのモノであったのか、すぐには信じられない様子である。


 そこで信用を得るために話を変える。


「貴方方は、このような海上の群島地域に暮らしている。

 だから、主食は魚だと思うがどうだろうか?」


 人魚と鳥人族の代表は互いの顔を見てから、


「それは、そうですが。

 それがなにか?」


「その魚を今まで以上に、効率的に獲ることができる道具の貸与と、それを扱う方法の伝授。

 それと、貴方方を外敵から守ることの確約。

 それが、私たちが貴方方の領域を間借りすることへの条件です。」


 破格の条件と言える。


 特に外敵から守られるというのは、非常にありがたいものだ。

 ドラゴン、それも神代竜エンシェント・ドラゴンが守ってくれるとなれば、彼らにとって最も強力な盾となる。


「ああ、一つ言い忘れましたが、ペリアたちが貴方方には関わることは、まずありません。」


 その言葉に落胆の表情をわずかに見せる彼らだが、


「ユウキは我らよりも強いぞ。

 信じられないだろうけど。」


 ペリアの言葉に驚きの表情を見せる。


「まあ、私が神代竜エンシェント・ドラゴンより強いとは考えられないだろうし、それは間違っていない。

 ただ、私の持っている力は彼女たちを凌駕できる。それは間違いないですよ。」


 回りくどい言い方かと思ったが、佑樹の意図はそれなりに伝わったらしい。


「わかりました。ですが、貴方が出した条件が満たされるかどうか、私たちにはわかりません。

 ですので、条件を満たされてからにしていただけませんか?」


 彼らの言い分は理解できる。


「わかりました。

 なら、すぐに用意できる魚を効率的に獲ることができる道具の提供をいたしましょう。」


 まずは少しずつ信用を得ること。


 そのために魚群探知機を用意し、それを扱う方法を教えるロボットを準備する。


 さらに防衛用としてヨシタカ配下のロボットを五体、待機させてそれらの説明を行う。


「貴方方が認めない以上、私たちはこの空域に待機している。

 私たちのことを信用していただけたら、そのことをそのロボット、いや魔法人形ゴーレムに伝えてくれればいい。」


 そう伝え、


「ただこのまま帰すのは、私の沽券に関わります。

 夕食を食べていっていただけたら幸いです。」


 そう言葉をかける。


 さすがに彼らもその申し出を断るわけにはいかず、その夜は城に宿泊することになった。

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