第4話
天空の城への使節は一〇名の
その中でも一際大きく、美しい紅色をした
佑樹はモニターに映し出される一団の姿を見て、そんな感想を抱く。
「距離はどれくらいかな?」
「ハイ、距離ハ・・・」
ランマルが答えようとするのを、
「いや、時間的距離でいい。
あとどれくらいで到達する?」
「ハイ、オヨソ三〇分デス。」
「わかった。なら、出迎えの準備でもしようか。」
佑樹は立ち上がると、ランマルとリキマルに幾つかの指示を与える。
漫画を読みながらそれを見ていたアルファが、
「なにをするの?」
そう尋ねてくる。
「歓迎の準備だよ。」
そう答え、さらにボウマルに指示を出す。
「それぞれの
前回の襲撃に来た者たちは、捕虜となった者を含めて全てマーキングしてある。
それは今後のことを考えてのものだ。
「可能デス。マーキング、致シマスカ?」
「しておいてくれ。」
「了解致シマシタ。」
ボウマルはすぐにデータ入力を始めている。
「さて、あちらさんは大人しくしてくれるかな?」
そう呟くが、それは相手も同様の思いだろう。
自分にとって、相手の
ーーー
「
罠だったかと、周囲の者たちは臨戦体制を取ろうとする。
「やめよ!」
紅竜が皆を抑える。
「あちらが敵対するならば、それ相応の報いをくれてやる、それだけのことであろう!」
紅竜の言葉に、皆が押し止まる。
たしかにその通りだ。
それならば、戦いようはいくらでもある。
それに、自分から使節を招いておきながら、それを騙し討ちするような卑怯者だと自分で喧伝するようなものなの。
まともな存在なら、そんなことは決してしない。
紅竜はそう判断している。
その判断を裏付けるように、出てきた
「なるほど。人間たちでいう儀仗兵の真似事か。
どうやら、我らを歓迎してくれているようじゃな。」
紅竜は自分の左後方を飛ぶ蒼竜に視線を送り、
ーーー
見慣れぬ形状の城に戸惑いつつも、相手が人型であることを考慮して自身も人型へと変異させる。
その
「またしても
いったい、どれだけの
当然過ぎる、素朴な疑問だ。
「これだけの
どういうことなのだ?」
儀仗兵の真似事をした
「ガルヴァ、お前なら同時に何体の
ガルヴァと呼ばれた
「精密な操作を考えずともよいとしても、一〇体が限度かと。」
そう答える。
「そうであろうな。」
ただ単に動かすだけならば、一〇体くらいのものだ。
だが、戦闘であったり、先程の儀仗兵の真似事のような高度な操作を要求されるなら、せいぜい四〜五体が限度だ。
だから、儀仗兵の真似事をした
それにもかかわらず、その魔法使いの気配が全く感じられないというのはどういうことなのだろうか?
この城の得体の知れなさに、改めて背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
二体の
中央と思しき塔群の手前の、
その中で礼を失しない程度に質素な部屋に、男が一人で座っている。
「一人?」
「我等、
その中で紅竜と蒼竜は、じっとその男を見ていた。
ーーー
なるべく質素な部屋を選び、佑樹は
内心、とてもビビりながら。
モニターで確認をしているが、一〇人のうち四人は女性。
しかもとんでもない美人。
だが気になるのは、誰が正使なのか。
今までの様子を見ていると、女性である紅竜が正使のように思えるのだが、着陸前に蒼竜に目配せしたことがなぜか気にかかる。
それに蒼髪、紅髪の他に白髪と黒髪の女性がいるのはなぜだ?
元いた世界なら、四海竜王かと思ってしまうところだ。
「四海竜王?」
頭に浮かんだ言葉に、もしやという考えが浮かぶ。
そこに扉を叩く音がする。
「はいはーい!
すぐにあけますよー!」
アルファがパタパタと飛んでいき、ドアノブに手をかけたところで扉が開き、自分に向けて迫ってくる。
「え?え?」
慌てるアルファにお構いなく、
「ぷぎゃ!」
という小さな悲鳴ともつかぬ声をあげて、アルファはそこに倒れるのだった。
ーーー
倒れているアルファを無視し、佑樹は立ち上がって
一〇人全員を室内に入れるというのは、佑樹としても想定外だ。
ランマルたちには、もっと色々と経験させるなり命令するなりして、そのAIを育てなければならないようだ。
「リキマル、お客人たち全員分の椅子を用意してくれ。」
改めてそう命じる。
全員分の椅子が用意され、
「では、始めましょうか。」
佑樹はそう宣言して着席を促し、
「まずは、不躾な招待を受けていただき、ありがとうございます。」
挨拶をする。
「たしかに不躾な招待であったが、それも元々は我が一族の不心得者がしでかしたことが原因。
むしろ、こちらから謝罪のための訪問をしなければならないところであったところじゃ。
にもかかわらず、客として招待してくれたことを感謝する。」
そう紅竜ことルヴィリアが返答する。
「ところで、正使はどなたなのでしょう?」
佑樹の言葉に、
「我等の正使は、ここに
それ以外に誰かがいるというのか!!」
激昂したように、
「ああ、それ以上は近づかない方がいい。
この部屋の中にも護衛のロボット、いや、貴女方風に言うなら
それがいるから。」
「
それならばお前の横にいるではないか!」
どこから現れたのか、突然姿を現した
「い、いつの間に・・・」
唖然とする
「その一体だけだとは思わないように。」
そう釘を刺す。
「下がれ、ボースィッチ。」
蒼竜がそう言うと、詰め寄ろうとしていた
それを確認した
「よろしければ、あの原理を教えていただきたいものだ。」
サフィアと名乗っていた蒼竜が尋ねる。
「光学迷彩って技術だよ。」
「光学迷彩、とな?」
「透明化といった方が分かりやすいかな。
擬態の一種だと思ってもらえればいい。」
「なるほど。」
サフィアはそう呟いたあと、
「質問ついでに、もう一つさせてもらってもよろしいかな?」
そう確認する。
「かまいませんよ。」
「寛大な言葉に感謝し、甘えさせてもらおう。
なぜ、ルヴィリアが正使ではないと思われた?」
「簡単ですよ。
なにか重要な判断が必要なときに、必ずサフィアさん、
だから正使ではないか、正使だとしても決定権を持っていないか、どちらかだと考えた次第です。」
その言葉にサフィアはクスクスと笑う。
「いや、失礼しました。
そこまで答えていただけるとは。」
こういったことは、ここまではっきりと教えることはない。
もし、今回の相手が的に回ったときにいらぬ情報を与えることになるし、また利用される可能性だってある。
「これから友好関係を結ぼうというのに、隠す必要もないでしょう。」
佑樹はあっさりと答える。
サフィアの目がスッと細くなり、改めて佑樹を品定めするかのように見つめる。
見た目はただの人間だ。
魔力は感じられないところを見ると、この城の主の使用人だろうか。
その割には、なぜかこの男からひとかたならぬ神気を感じる。
いったいどういうことなのだろう?
「倒れてる私を放って、話を進めるなあ!!」
目を覚ましたアルファが、怒声をあげながらパタパタと佑樹目掛けて飛んでくる。
「天使?!」
佑樹に掴みかかるアルファの存在に、
天使が傍にいるような存在。
神そのものではなくとも、それに近しい存在なのか?
「ああ、離れろ、この駄天使が!」
胸元を掴むアルファを引き離そうと、佑樹は格闘する。
「客人の前だというのに、見苦しいことをするな!!」
ここで客を迎えていたことを思い出したらしい。
「あ、あらあ、ごめんなさい、お客人の方々。
お見苦しいところをお見せしました。」
おほほと、どこの似非セレブかという笑いを見せ、佑樹の後ろに控える。
「その天使殿は?」
サフィアが尋ねる。
「まあ、簡単に言えば、助手のようなものです。」
その返答に、
「助手・・・」
と呟き、サフィアは沈黙する。
暫しの間、部屋を沈黙が支配する。
長いようで短く、短いようで長い時間の後、
「幾日か、この城に逗留させていただきたい。
許可いただけるとありがたいのですが。」
サフィアはそう申し出る。
「かまいませんよ。
すでに一六〇人いるのですから、そこに一〇人増えたところで変わりはありません。」
サフィアの申し出をあっさりと受け、この日の会談は終了した。
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