第3話
ヴォラスは歓喜している。
それは手強い敵と出会えたことではなく、自分の居城とするに相応しい城が目の前にあることに。
この城の住人を屈服させ、隷従させる。
そのために、参集した者たちに命じて波状攻撃を仕掛ける。
こちらが疲れて断念するか、この魔法障壁を張っている魔法使いの魔力が尽きるのが先か。
自分たち
だから、彼の認識ではこの城の陥落は時間の問題だった。
ーーー
ずらりと並ぶ指揮官ロボットたちを見て、佑樹は改めてこの城の技術の異常な高さを感じている。
それにしても、なぜ日本の戦国武将から名をつけているのかがわからない。
主上様の趣味か?
そしてなにより呆れるのが、説明書の一文。
“能力は同名の戦国武将に準拠”って、これまた頭を抱えたくなる。
居並ぶ指揮官ロボットたちを見ると、その姿も戦国武将に準拠していることがわかる。
僧体に見える姿をしているケンシンに、巨大な数珠のような物を下げているタダカツ。
頭部を、
このロボットたちを使って戦うのだ。
「作戦については、すでにランマルから通信が入って共有されてるな?」
佑樹の言葉に頷くロボットたち。
その中を歩きながら、
「ヨシタカ。お前の部隊が重要な役割になる。
海に落ちた
そう言ってヨシタカと呼んだロボットの肩を叩く。
「
間違っても殺すな。」
こうやって、ロボット相手に不要とも思われる言動をとるのは、あえてそういう雰囲気を作ることで、自身の戦意を高めるためである。
「準備ができたら報告しろ。」
最後にそう締めくくると、指揮官ロボットたちはそれぞれの準備のために行動する。
ロボットたちが行動してから性格に一〇分後、各隊から準備完了の報告が入る。
「さて、反撃に移るとしようか。」
佑樹の呟きとともに、反撃は開始される。
ーーー
佑樹の打った第一手。
ムネシゲ、タダカツの二隊、総数五〇〇体のロボットの出撃。
ロボットたちは指揮官ロボットのムネシゲとタダカツ以外は、四機で一小隊を形成して
「
この世界の認識なら、ロボットのことを
佑樹にしても、その違いを説明などできないのだから。
ムネシゲ、タダカツの部隊は派手に動いて、
躱しつつ反撃を加え、
当然ながら、
だからこそ、自分たちの周囲を飛び回る
「よし、
第二段階に入る。」
その言葉に、戦闘空域の反対側からヨシタカ隊が海に向けて降下する。
それに続いてキヨマサ、ユキモリ、ノブチカの隊が降下するが、海の中に入るヨシタカ隊と違い、低空で待機する。
襲撃する
そこで、側近たちを率いて全速力で城への突入を敢行する。
それは間違った判断ではない、通常においては。
だが残念なことに、ヴォラスが相手をしている城は通常の代物ではない。
彼らの常識を無にする、強力な武装を持った城なのだ。
「やはり来たな。」
佑樹もまた、ロボットたちの出撃が敵の急襲を招くことを想定していた。
佑樹は腕まくりをして、火器管制コンピューター前に陣取る。
「オ館サマ。敵がミサイルノ有効射程ニ入リマス。」
ランマルの言葉に、
「こっちは大丈夫だ。
ランマルこそ、爆破のタイミングを間違えるなよ。」
佑樹はそう言いながら、モニターに映し出される照準が、
轟音を立てて襲いかかるミサイルを、ヴォラスたちは理解できなかった。
魔法とも思えない、奇妙な物体。
それが予想を遥かに超える
それが側近の一人の頭部付近で爆発する。
凄まじい爆風と爆音。
その衝撃によりバランスを崩した側近は、そのまま海へと墜落していく。
唖然とするヴォラスだが、同じ飛行体が次々と側近に襲いかかり、側近たちは墜落させられていく。
「な、なにが起きた!?」
愕然とするヴォラスは、慌てて急旋回して前線から逃亡しようとする。
「馬鹿な!
な、なんでこうなるんだ!
俺たちは誇り高き
間違ってるだろう!?」
次々に撃ち落とされていく仲間たちを見捨て、逃亡するヴォラスの前に立ち塞がる者がいる。
陽動として最初に出撃していたタダカツだ。
長大な槍を振りかざして向かってくる
タダカツはそれを簡単に躱すと、ヴォラスに一気に詰め寄る。
そして長大な槍を後頭部に叩き込む。
通常の相手ならばその一撃で昏倒しただろうが、さすがに
だがタダカツは容赦なく二撃、三撃と同じところを寸分違わずに叩き込む。
ヴォラスは長い首を振ってタダカツを振り払おうとするが、完全に死角に入っており振り払うことなどできない。
それどころか、叩き込まれた衝撃で脳震盪を起こしかけているのに首を振ったために、余計なダメージを受けてしまう。
そしてタダカツは渾身の一撃を叩き込む。
ついにヴォラスは昏倒し、海へと墜落していった。
それをモニター越しに見ていた佑樹は、
「これで終わり、かな。」
そう呟く。
すでに他の
「ランマル、念のため周辺空域の様子を確認してくれ。」
「了解致シマシタ。」
「ボウマル、捕獲した
ボウマルは無言で一礼して、退出する。
「リキマル、飲み物を持ってきてくれないか?二人分。」
「ワカリマシタ。」
二人分。
ひとつは自分の分だが、もうひとつは今回とても影の薄かったアルファの分。
そのアルファはポカンと口を開けて、呆然としている。
「どうした?」
「え、いやあ、このお城ってとんでもない力を持ってるなあって。」
どうやら、この城の力をアルファは知らないらしい。
どうやら、この城の力もまた手探りでいかなければならないということか。
悩みばかりが増えていくことに、なぜか佑樹は自分の頭髪を気にしていた。
ーーー
惨敗を喫した衝撃が、
逃走した
そして長老たちは
「いったいどうなっているのか!?」
空を飛ぶ不思議な城の存在と、その城を攻撃して傷ひとつつけることができなかった事実。
そして大量の
「魔法使いの城なのか?」
当然の疑問。
「仮にそうだとしたら、いったい何人の魔法使いがいるのか?」
そして
考えれば考えるほど、あの城の存在は不気味であり、恐怖を呼び起こす
「そもそも、なぜあの城に手を出したのだ?」
ヴォラスの一族と、対立関係にある一族の族長の言葉だ。
「そう言うがな、ダリアントよ。アレをそのままにしておいては、天空の覇者たる
ヴォラスの一族の族長の反論。
たしかに間違った認識ではない。
あの城を、なんの手立てもせずに放っておくのは
「ならば、ヴォラスごとき知恵の足らぬ小僧にやらせるのではなく、ヴォルンド、お主が行けばよかったであろう。」
完全な挑発である。
だが、ヴォルンドもそれに乗るような者ではない。
「むしろ、わしはヴォラスで良かったと思っておるがな。
族長としての
「それで、推し量った敵の力は
嘲るようなダリアントの言葉に、ヴォルンドが反論しようとしたとき、
「やめよ!」
実のところ、この両者が顔を揃えると不毛な議論が始まってしまい、そのことにうんざりしていたのだ。
「あの城を捨て置けぬこと、それは紛れもない事実である。
だが、戦えば敗れることはなかろうが、こちらが受ける被害が甚大になるだろうことは間違いなかろう。」
集まった証言を冷静に分析すれば、そういう判断にならざるを得ない。
だが、この“敗れることはない“という分析はすぐに破棄されることになる。
「ヴォラスが戻ってきました!」
その報告に、
「すぐに通せ!」
イリアスの指示により通されたヴォラスは無傷であったが、口枷と首輪が付けられていることが異様さを醸し出していた。
そのためか、その背から降りてきた
ーーー
「なんだ、その口枷と首輪は!?」
ヴォルンドが驚きのあまり、
だが、当然ながら口枷をさせられているヴォラスは声を出せない。
「あまりにうるさく喚くし暴れるから、こういう手段を取らせてもらった。」
ここでようやく、
「お前があの城の主か!?」
ヴォルンドが
「そうだ。もっとも、俺自身は城の中にいるけどな。」
その言葉に驚く
「なるほど。その
「その通りだ。」
「
「簡単だ。今回のこと、そちらがどう落とし前をつけるのかと思ってね。」
「なに?」
「当然だろう?
こちらはなにもしていないにもかかわらず、一方的に攻撃を仕掛けておいて、なにも責任を取らないってのか?」
「ほう?
ならば責任を取って、其方のおる城を全面攻撃してもよいのだぞ?」
「なんだ。
お前たちはこの世界から絶滅したかったのか。
せっかく配慮してやったのに、無駄だったみたいだな。」
「なに?配慮だと?」
「そう、配慮だ。
一人も死なせず、捕虜にしてやったってのにな。」
「!!」
「それから、お前たちはすでに俺の攻撃範囲にいるんだけどな?
戦いを継続するってなら、お前たちは城に辿り着く前に全滅することになる。」
「は、ハッタリだ!」
ダリアントが叫ぶ。
「脅しやハッタリじゃないことを、今から教えてやるよ。」
「なに?」
その数瞬後、爆発音とともに大きな振動が水晶宮を揺るがす。
「な、見張りはなにをしておるのだ!!」
ヴォルンドの怒声。
「イ、イリアス様!
み、見たこともない飛翔体が、信じられないほどの速さでやってきて衝突、ば、爆発いたしました!」
見張りの者が飛び込んできて報告する。
「敵はどこにおる!?」
「そ、それが、敵を視認することができませんでした・・・。」
「く、雲でもかかっていたのか?」
「いえ、雲ひとつ無い晴天です・・・。」
静まり返る
「さて、状況を理解してもらえたようでなによりだ。」
冷淡に響く佑樹の声。
「素直に詫びを入れにくるか、それともチンケな
まともな判断をしてもらいたいところだが、どうする?」
どちらでもかまわない、そう言外に明示する。
長い、長い沈黙の後、イリアスは決断する。
「わかった。謝罪の使者を送らせてもらう。
それで良いか?」
「正直なところ、その物言いは気に入らないが、それで良しとさせてもらう。」
少なくとも、このやりとりで戦闘の終結は決定された。
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