第39話:魔道具品評会
本日は晴天なり。
……失礼、今日は品評会の当日。
俺たちはバルリエント伯爵を筆頭に、ホール隣の待機室で座っていた。
ホストであるパレチェク侯爵やその子息は既に会場入りしており、他の貴族も続々と集まっている。
普通の舞踏会などとは違い、品評会の場合は席次によって呼ばれる順位が変わるということはない。
参加登録順で呼ばれるのだが、ノエリアの魔道具は結構ギリギリまで調整をして登録されたため、最後の方で呼ばれることになるだろう。
……登録順にするって、普通の貴族じゃ考えないよな。
しばらくしてバルリエント伯爵の名前が呼ばれたため、皆で品評会が行われるメインホールに入る。
一応貴族らしいものとするためにテーブルには飲み物や軽食が様々置かれており、各自それを楽しむことが出来るのだが……皆どちらかというとお喋りメインで動いている。
ステージに近いところには出展された魔道具が置かれており、誰が作ったものかは分からないが直接触ることが出来るようにされている。
それらを見ながら、それぞれ主賓と【
ちなみに1位には賞金と、1年間のスポンサーとして侯爵家がバックにつくという権利が与えられる。
侯爵家というのは貴族の中でも実質トップと言える爵位。
その上には王族と婚姻を結んだ【公爵家】や、「もう一つの王家」と呼ばれる【イシュタル=ライプニッツ大公家】しかおらず、侯爵家をスポンサーに付けるというのは非常に大きな宣伝効果もあるのだ。
「おぉ、おぉ、バルリエント伯爵ご夫妻にロン・ジェン先生……それにノエリア姫とユェファ殿も。お待ちしておりました」
そうやって周りを見ていたところ、パレチェク侯爵が近付いてきた。
彼はホストで他の貴族とも話があろうに……わざわざ近付いてくるとは。
「侯爵、今日は負けないよ」
「それはそれは。我々も進歩しておりますからな」
いや、挨拶しようよ。
この二人の様子を見ていると、握手が握力比べに見えてくる。
「パレチェク侯爵。お招きいただき感謝する」
俺が拱手の礼をすると、パレチェク侯爵も真似をして来た。いや、手が逆だけど。
まあいいか。
「ささ、先生も是非ご覧ください。生憎投票は出来ないのですが……すみませんね……」
「ああ、構わない」
別に品評会で投票することが目的ではないからな。
そう考えながら途中で伯爵たちと別れ、俺とフィア、そしてノエリアは侯爵の案内に従って出展されている魔道具を見る。
(これは水属性の魔道具……こっちは何だ? 風属性か)
属性であれば触れなくても感覚で理解できる。
恐らく水属性のものは形状から考えても冷水機に似たものだろう。風属性のものは扇風機が近いか?
基本は中央に取り付けられているスイッチである魔石に触れて魔力を流せば、魔道具は起動する。
魔道具の核となる魔石と、スイッチの魔石はミスリルを混ぜた金属線で結ばれており、この金属線1本でも確か銀板が必要だった気がする。
もしオールミスリルならば金貨が軽く飛んでいくだろう。
「そういえば、ジーモン卿は?」
「え? ああ、息子は……ほらあそこに」
ふと気付いたことなのだが、未だに例の子息に会っていない。そう思って聞いたところ、普通に答えが返ってきた。
侯爵の指差す方向を見ると、確かにジーモン卿だ。隣にいるのは……
「もしかして、隣は……」
「おお、その通りです。彼が例の【
そう言うと侯爵はそちらに向かって歩いて行く。
ジーモン卿は何か大きな魔道具の前で、魔道具師と熱心に話をしているようだ。
侯爵に気付いたのか、ジーモン卿と魔道具師が顔を上げてこちらを見てくる。
「紹介しましょう、彼が我が家の新たな【
「初めまして、ディム・パルと申します」
「
こちらが拱手をしていたら、向こうは握手をするつもりだったらしく手を伸ばしてきていた。
「失礼、こちらは握手だったか」
「い、いえいえ、こちらこそ失礼しました」
「ディム・パル」と名乗った男は優しそうな笑顔を浮かべてこちらを見てくる。
特徴的な濃い菫色の髪を前も後ろも真っ直ぐに切っており、そのおかっぱ頭が彼の几帳面さを示しているようだ。
……ふむ。
フィアをちらと見ると、目だけで返事を返してきた。
互いに自己紹介を終えると、「すみませんまた改めて」と言い残してジーモン卿と2人で作業に戻ってしまった。
「……あれは出展しないので?」
「ええ、あれは少々特殊でして……品評会の順位発表後のお披露目なのですよ」
「ははぁ」
もしかすると、あれが俺の手合わせの相手になるのかも知れない。
シートが被せられていたが、なんとなくフォルムはそれっぽかった。
それからは移動して、また出展の魔道具を見たり、話しかけてくる貴族や【
ちょうど午前11時。
ホストであるパレチェク侯爵がステージに上り、口を開いた。
「皆様、本日はお忙しい中、魔道具ギルド協賛・魔道具品評会へおいでくださり、誠に感謝いたします。早速ではございますが、開会にあたり魔道具ギルド総括、アロイジウス・マイネッケ殿から一言いただきたいと思います」
貴族モードのパレチェク侯爵は、少しゆったりした口調で話す。
そうしないと普段の早口が抑えられないのだろうな。
侯爵の紹介と共に、一人のドワーフの老人が壇上に上がる。
マイネッケ老は確か、王都にいたはずだが……わざわざここまで来たのだろうか。
そう考える間に一言が話されていく。
「――この品評会により、ますます我が国の魔道具技術が進化し、人々の生活を豊かにしていくことを切に願います。では、ここに今年の品評会の開催を宣言いたします!」
――ワアアアァッ!
開会の宣言と共に、ホールにいる皆からの喜びと興奮の混じった声が上がる。
もちろん貴族が多いので騒がしいというわけではないが。
それからはすぐに出展された魔道具の紹介に移り、合計すると50点近い魔道具が紹介されていく。
開発者については伏せられており、機能や特徴の紹介が行われる。
もちろん作った本人や貴族は分かっているのだが、表情などを観察していると恐らくこれはあの貴族が出展したな、ということが分かることがある。
……貴族って、表情を隠すのは当たり前ではなかっただろうか。結構バレバレな表情を浮かべているのだが。趣味についてだから、言わないお約束か? オタクだから仕方ないのか?
しばらくするとノエリアの作成した【マギ・レコード】が紹介される。
最初は【蓄音機】だったのだが、折角だから格好を付けて古代語で……と俺が言ってみたところ採用されてしまったのである。まあ、いいか。
それが紹介されると、皆「おおっ」と声を上げる。
細かな技術的な話は行われないが、従来品とのコスト比較が話されるとさらにざわめきが大きくなる。
折角なのでということで、録音した音楽を再生してみると、ますます興味深そうに皆見ていた。
他に皆が興味を持っていたのが、やはり冷水機や送風機といった実用的なもの。
こういった魔道具は便利だし、単なる美術品と異なり大きな需要が見込まれるものだ。
一部の魔道具は凝った意匠である限りの技術を詰め込んだようなものだったのだが、そちらはそこそこ驚かれていたものの実用性からいまいちな反応であったようだ。
紹介が終わると、改めて各魔道具がフロアに並べられるが、今度は主賓の貴族と魔道具師のみがそれらを触って見ていく。そうして最終的に選んだ3つに投票していくというわけだ。
主賓と魔道具師はそれぞれ3枚の異なるメダルを持っており、順位に応じたメダルを魔道具の前のボックスに入れていく。
入っているメダルの総数、及びその中で最も多かった種類がその魔道具の順位になるのだ。
例え多く入っていても、入っているメダルが3位のものが多ければ3位となる。
1位のメダルが入っていても、総数が少なければそれはランキング外となる。
投票終了後は一旦昼食会を挟み、その後結果発表である。
そしてその後、パレチェク侯爵家から特別な出し物をするとアナウンスされているのだ。
さて、バルリエント伯爵もノエリアも今は投票に向かっているため、俺はフィアと共に待機中である。
「……フィア」
「うむ、分かっておる」
流石はフィア。俺が言いたいことをすぐに分かってくれるというのは本当に有り難い。
今朝は俺がお願いする前に【
本当に彼女には助けられているのだ。いずれ何か恩返しをしたいところだが、何が良いだろう?
そんな事を考えていたら、フィアの指が俺の頬を突く。
「何を上の空で考えておるのじゃ」
「ああ、すまん」
「……女のことかえ?」
女……確かにそうだな。間違っていない。
「確かに、間違っていないな」
「! …………そうか」
ん? どうしたのだろう、いきなりシュンと萎びたみたいになっているが。
といっても大っぴらにフィアを撫でたりは出来ないしな、今は。
戻ったらしっかりケアしておこう。
* * *
さて、昼食会もつつがなく終わり、投票結果が発表される。
どの貴族も固唾を呑んでその様子を見ている。
「――今回の魔道具の多くは、実に実用的であり、我らの生活をより良くするという我らの大義に沿ったものでした。故にどれも甲乙付けがたく――」
まずは総評。これはマイネッケ老ではなく、魔道具ギルドから来ていた審査員の一人だ。
彼は割と若く見えるが……人間だな。
魔道具ギルド本部というのは割と老人が多く、重要なポジションも大抵老人が座っているものだが……あんな若い、若く見える人物が審査員をするとは。
「少しは組織が若返ってきている……かな?」
「伯爵もそう思うか」
「うん、間違いないね。でも、彼は既に50代だけど」
「……それは若いのか?」
バルリエント伯爵が俺の考えていたことをそのまま口に出していた。
しかし、あの若く見える人物は実は50代らしい。詐欺だろう。
「上は詰まっているからねェ。ま、教会よりはマシでしょ」
確かに教会というのは上が詰まりすぎている。
トップである教皇なんてもうすぐ80歳のジジイだしな。その下の枢機卿も似たようなもので、70代が軒並み揃っている。
それに比べると魔道具ギルドはそこそこ若返っているのかも知れないが、ドワーフなど長命種も在籍するため、平均年齢を取るとどっこいだろうか。
マイネッケ老も確か200歳超えていたはずだし。ドワーフの寿命っていまいち分からないのだが。
「――第3位」
そんな話をしていたら、遂に順位発表が始まっていた。
最後に1位が発表されるというのは地球と変わらない。
さて、第3位は……
「【マキネ・ブリーゼ】、テニッセン子爵作です!」
『『おおっ!!』』
すると、呼ばれたテニッセン子爵は壇上に上がってきた。
テニッセン子爵は自身が魔道具師として働いているような人物で、元々は次男坊だったはず。
魔道具師として独立するつもりだったのだが、先代と長男が流行病で亡くなり、慌てて戻って来て当主になったとか。
めっきり魔道具作りの時間が減ったため、今回は息抜きもかねて出場したとか何とか。
「――第2位」
さて、誰か……
「【マギ・レコード】、ノエリア・エスタヴェ姫作です! スポンサーはバルリエント伯爵!」
『『おお……』』
どうやらノエリアが2位のようだ。
「――非常に悩んだのですが、今回は実用性をより一層考慮したため、このような結果となったと思われます」
先程の若作りな魔道具ギルドの職員が評価を話している。
どうも軍事などの実用性よりも、音楽用に使うという娯楽的な用途で認識されたようだ。
まあ、投票の結果であるため仕方ない。
「――では、今年度第1位ですが……」
溜めてる溜めてる。ドラムロールのSEが欲しいところだ。
「――【マキナ・フリィアクア】、スモーリン男爵!」
『『おおおおっ!!』』
――パチパチパチパチ!
冷水機が1位となった。スモーリン男爵は嬉しそうに壇上に上がり、キョロキョロとあたりを見回している。
「それでは、マイネッケ統括より受賞者にはメダルが授与されます」
そう司会進行が言うと共にマイネッケ老が壇上に上がり、メダルをそれぞれの魔道具師に掛けていく。
この世界でもやはり金、銀、銅のメダルが渡されるんだな。
「皆、それぞれの務めを果たしつつ、魔道具の発展に尽力しておることを素晴らしく、そして誇りに思っておる。願わくば以後もその心を忘れず、人々のためになる魔道具を生み出して欲しい。いずれ共に働く機会を楽しみにしておるぞ」
そうマイネッケ老が締め、授賞式が終わった。
「――統括、ありがとうございました。それでは一旦休憩を挟み、その後はパレチェク侯爵からのサプライズを楽しみたいと思います」
――パチパチパチ
拍手と共に一旦休憩時間となったため、俺はノエリアを迎えに行くことにした。
本当は伯爵とフィアも誘ったのだが、ここはお前の仕事だといわれて一人で行くことになったのである。
「――しかし、惜しかったですな! ですが私は良いと思っておりましたよ!」
「そう」
「私はあれを1位に投票したのですが……力及ばず……」
「構わないわ」
ノエリアは既に多くの貴族や魔道具師に囲まれていた。
だが、彼らを特に気にすることもなく、無表情に簡単な返事で済ませている。
まあ、ノエリアがどうかされるとは思えんが……
「ノエリア」
「ロン・ジェン……」
俺が呼びかけるとこちらを向き、先程とは全く異なる笑顔で俺に近付き、腕に抱きついた。
「遅かったわね」
「そうか? 悪いな」
「普通ならお詫びにキスでもしてもらうのだけれど……素直だから許してあげるわ」
抱きつかれているので、腕がなんとも言われない柔らかさに包まれているのだが。
だがノエリアは気にすることもなく顔をさらに近づけてきた。
そしてそれを唖然とした表情で見つめる周りの連中。
だが、硬直から立ち直るとざわざわと騒ぎ出す。そしてその中から一人、高価そうな服を着た背の低い男が出てきた。
「な、な、何をしているんだな!? ノ、ノエリア姫に近付くなんて、ゆ、許されないんだな!」
まるで運動をしていないのが丸わかりな、太った姿の若い貴族が俺を指差してそう言い出した。
いや、お前こそ誰だよ、と言いたい。
「何か問題が? 私はノエリアの婚約者なのだが」
「ノ、ノエリア姫を呼び捨てにするなんて…………って、こ、婚約者!?」
え、今さらそこですか。
午前中から俺はノエリアと挨拶回りをしており、『婚約者』という立場は知られていたはずだが。
だがそういえば、ここの連中とは誰にも挨拶してなかったな。まあいいや。
そんな事を考えていたら、ノエリアが彼らに聞こえるような声で俺に囁く。
「ねぇ、戻ったらこの間みたいにまた楽しい時間を過ごしましょう?」
「……お前な」
「あら、あんなに激しく攻め立てて、求めてくれたのに?」
「……」
こいつ……わざわざ煽るようなことを言うな!
別にこいつらは今回の件には関係ないはずだろうに。
ちらと横目で彼らを見ると、呆然唖然、果ては魂が抜けたような表情をしている奴や、何か分からない呟きを繰り返している奴がいる。怖っ。
ノエリアを見るとウィンクをして来た……乗れってことか。
「……分かった、今日は寝かさないぞ?」
「あら、嬉しいわ」
そこまで言うと、ノエリアが俺の腕を引っ張ってきたため、俺は彼らを後ろ目に見ながら「失礼」とだけ告げてその場を立ち去る。
「……何であんなことを?」
連中から十分離れてからノエリアに聞く。
普段のクールな感じとは異なるノエリアの雰囲気は、少し予想外だったのだ。
「……仕返しよ」
「は?」
「いつも顔を合わせる度に、あんなお世辞を言われるなんて気持ち悪いわ。それに視線がいつも胸にいって厭らしいのよ? まるで『自分だけはいつも貴方の見方ですから』って恋人気取りだし。ごめんだわ、あんな弱い男」
「お、おう……」
「大体、見た目だけ取り繕っているけど結局は親のスネかじりだし。誰があんな連中と一緒になると思っているのかしら、女性を馬鹿にしているわ!」
「分かった、分かったから声を抑えろ!」
ご愁傷様。
君たちは相手にされていないどころか、嫌われているらしいよ。
女性相手にする際に、下心丸見えってまず失敗する。それよりも自分の信念や目標に向かって一生懸命な男の方がモテますわな。
そう考えていたらノエリアが小声で俺に話しかけてきた。
「……でも、何でわざわざ私のところに来てくれたの? 結構向こうにいたし、私がこの程度どうにか出来るって思わなかったのかしら?」
「ん? 思ってはいたが、それでもパートナーにちょっかいを出されるのは不愉快だ。それに、君も女性だからな」
俺がそう言うと、ノエリアは特にそれ以上言わずにただ一言。
「……ばか」
「ん?」
「何でもないわ」
どうしたのだろうか、頬が赤いようだが。そしてそっぽ向いてツンとした表情をされていると、なんと反応して良いか分からない。
とにかくノエリアが不満たらたらで何を言い出すか怖くなったので、一旦伯爵たちのところに戻ることにした。
ちなみに後で伯爵にノエリアの話をしたところ、大爆笑された。
そうやって昼食会を楽しんだ後、それぞれ魔道具の共同開発の話し合いをしたり商談をしたり、今後の動きのために情報を仕入れたりと忙しく動き回る貴族たち。
バルリエント伯爵も同様で、色々動いているようだ。
俺とノエリアやフィアは特に動くことはないので、紅茶を楽しみながらお菓子をつまむ。
そうこうしているうちに昼食会が終わり、遂にパレチェク侯爵のサプライズの時間となった。
「本日はご来場いただきました皆様に、特別な魔道具をお見せしたいと思っております!」
おお……と会場がどよめく中、自信満々といった雰囲気でジーモン卿が喋り出す。
どうやら侯爵というよりも彼が主導しているためだろう。興奮と喜びの入り交じった表情で、運ばれてきた魔道具の横に立つ。
それはやはり先程彼が弄っていたもの。それを覆う大きなシートの端を、ジーモン卿が持つ。
「早速お披露目いたしましょう、新たな兵士の登場です!」
バサアッ、とシートが捲られ、その下から2メートル以上あろうかという大きなゴーレムと、その後ろに並ぶ5体の人間サイズのゴーレム。
今、『新たな兵士』といったか?
「強化鎧型指揮戦闘ゴーレム、【オーバーフレームコマンド】! そして、人型半自律式戦闘ゴーレム【ゾルダート】です!」
『『おおおおおおおおっ!?』』
沸き上がる歓声。それに気を良くしたのかこれまで以上の笑顔を見せて話し続けるジーモン卿。
「この【オーバーフレームコマンド】によって、【ゾルダート】は統括されております! もちろん簡単な動作については【ゾルダート】にも備わっており、敵への攻撃を続けることが可能です。誰を相手にするか、どのような作戦にするかと言う部分を【オーバーフレームコマンド】が扱います。さらに、【オーバーフレームコマンド】は魔力を周囲から吸収し、実質魔力切れ無しで動かすことが出来るのです。もちろん戦闘力は【強化鎧型】でご存じでしょう! その戦力を、ほぼ無限に使えるのです! これは、新たな国防の手段と言えるでしょう!」
――素晴らしい!
――これからはパレチェク侯爵家が国防を担うぞ!
――流石は魔道具の申し子!
そんな賞賛が飛び交う中、俺は言葉を失っていた。
何ということだろう。
基本的にゴーレムというのは土属性の中で上位といわれる【クリエイト・ゴーレム】という魔法で形作られるものだ。それは術者によって操作されるものであり、自律動作というのは行えないというのが常識である。
それに、【クリエイト・ゴーレム】は継続的に魔力を消費するため、術者への負担が馬鹿にならない。
もちろん、旧世界の魔術と技術があれば、アンドロイドのようなゴーレムだって作成できるだろう。だが、それは「かつて」の話だ。
それを今復活させるなど……戦争の形が変わってしまう。
「……なんじゃろうな、この違和感は」
「そう思うか」
「うむ」
だが、それよりも感じる違和感。
ゴーレムについての研究は行われていないわけではない。だが、どれも困難であり、精々魔石を使って魔力供給が切れてもしばらく動けるようにする程度だ。
それを、「半自律」と唱えるまでにするというのは……異常な技術の進化と言えるだろう。
「……ブラックボックスを作ったのは、例の魔道具師かもな」
「……怪しいには怪しいが、どうしたものか」
それより問題になるのは【オーバーフレームコマンド】の方である。
【強化鎧型】というゴーレムは、旧世界の遺跡から発掘されることがあるもので人が装着するタイプのもの。
「パワードスーツ」といえば分かりやすいだろう。人が装着して戦うのだ。
だが、これにもデメリットが存在し、魔力切れを起こすと動けないということだ。
この【強化鎧型】というのは、使用者自身の魔力を用いて動作させる。もちろん増幅や最適化の能力は持っている、しかし魔力消費が完全に0になるはずもなく。
結局活動時間を考えて戦わないといけないという、使いどころが難しいものといわれているのである。
さらに、それに加えて配下の【ゾルダート】を指揮するらしいのだ。
普通であれば、さらにこの時代の魔法を考えれば数分で活動限界が訪れるだろう。
それを覆すための手段……それについては、予想がついていた。
いや、『予想がついていた』というのは嘘である。近付いた瞬間、その要因の『気配を感じ取った』というのが正しい。
そんな事を考えていると、ジーモン卿が【オーバーフレームコマンド】を起動させた。
「さあ、遂に起動です!」
高らかに宣言するジーモン卿。
同時にこれまで以上に感じられる、【オーバーフレームコマンド】からの魔力。
「ねえ……ちょっと……」
「……分かっている」
「……うむ。第1目標、発見じゃ」
ノエリアも気付いたのだろう、俺の腕を掴む手に力が入っている。
俺とフィアも頷き、それを見つめる。
――あの【オーバーフレームコマンド】は、コアとして【炎魂の楔】を使っているのだ。
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